東大の文系大学院解説〜入試編〜

皆さんは、文系大学院生がどんなことをしているか、知っていますか?

大学院というと、理系の学生が修士課程に進んでいるのをイメージする人が多いと思います。実際、大学院への進学率を出身学部の分野別に見ると、理系が理学40.3%、工学35.6%、農学22.7%なのに対し、出身学部の分野別に見ると、文系は人文科学4.1%、社会科学2.2%です。理系では、理学40.3%、工学35.6%、農学22.7%であり、文系の大学院への進学率は理系に比べてかなり低いことがわかりますね。

文系理系を問わず、大学院生の実態なんてよく知らない、という人が多いでしょう。ましてや、その中でも珍しい文系大学院生となると、どうやって入学したのか、大学でどんな生活を送っているのか、想像もつかないかもしれません。しかし、そんな珍しい存在である文系大学院生は、ある意味珍しいからこそ、ユニークな一面を持ち合わせています。

そこで、これから2回の記事を使って、文系の大学院に通う私自ら、文系の大学院生がどんな存在なのかについて紹介します。今回の企画で取り扱うのは、東京大学に存在する大学院のうち、総合文化研究科・公共政策大学院・法科大学院の3つです。実際にそれらに通っている友人たちに話を聞いて、生の声を集めてきました。

1回目の今回は、大学院の入試制度についてです。

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目次

総合文化研究科(地域文化研究専攻)

卒論が重要な評価対象

まず紹介するのが、教養学部の上位組織的に位置づけられる、総合文化研究科です。

「教養」学部や「総合文化」研究科という名前の通り、この大学院は、かなり多くの種類のコース(専攻・系)を設置しています。哲学・思想や歴史など、いわゆる文系の王道的テーマを中心に扱う専攻もあれば、生物や化学など、理系的なテーマを扱う専攻もあり、さらにはこれらを融合した、文理の壁を越えようとする専攻もあります。

今回私が話を聞いたのは、主に世界の国や地域の歴史や文化について研究する、地域文化研究専攻というところで学んでいる友人です。

この地域文化研究専攻の最大の特徴は、入試が冬(1月~2月)にしか実施されないことです。

一般的に、大学院の入試には夏と冬の2期がメインだと言われており、特に理系の大学院では、夏に入試を行うことが一般的です。大学院によっては、両方の時期に実施することも多いようです。夏に結果がわかれば、仮に入試結果が振るわなくても、自年度以降の生活について思いを巡らしたり、冬の入試に向けて心機一転勉強したり、というチャンスが残されますよね。

一方、地域文化研究専攻では、冬にしか入試が実施されないため、その入試でうまくいかなかった場合、ほぼ問答無用で留年・浪人することになってしまいます。なぜこのような制度になっているのでしょう?

その理由のひとつが卒業論文です。理系の大学院や、このあと紹介する法科大学院などでは、筆記試験が大学院入試のウェイトの大きな部分を占めています。一方、地域文化研究専攻や、その他の哲学・思想系の大学院などは、受験生が入試までに執筆した卒論を主な評価対象としているのです。卒論は、出願の際に参考資料として提出するのみならず、2次試験の面接試験における題材としても用いられます。そして、ほとんどの大学で、卒論は4年生の冬にようやく完成させるものとされています。すると、受験生が書いた卒論を評価するには、冬に院試を実施せざるをえないわけですね。

語学の試験も難関

もちろん、卒論以外にも必要なものがあります。それが、1次試験の筆記試験です。これを突破することが、2次試験で卒論や研究計画書(学部時代に自らがやってきた研究・学習を踏まえて、大学院入学後にどのような研究をするつもりでいるか、その予定を書いたもの)を評価してもらう前提になります。

筆記試験の科目は、専攻や個人の選択によって微妙に異なりますが、一般的には、英語・第二外国語・専門科目の3科目で受験する人が多いとされています。ただし、英語は必須ではなく、その枠で別の言語を選択してもいいそうです。

語学の試験は、どの言語でも基本的に和訳が中心とされています。具体的には、7~8行程度の文章が2・3個提示され、それを日本語に全訳するという形式が主流とのことでした。言語によっては、和文が提示され、それを指定された言語に訳す問題もあるそうです(例えば英語の場合は、英文和訳と和文英訳の両方がある)。文系、特に人文学系の大学院では、各国の言語で書かれた書籍や資料を読み解く必要があるため、和訳が特に重視されているわけですね。

一方の専門科目では、地域文化研究専攻の場合、大抵の場合2問で構成されているようです。一方は、3つの文章の中から1つ選んで120文字に要約し、その後、その文章について論評するという形式の問題とのことでした。もう一方は、例えば「あなたが関心を持つ地域で動物はどのように表彰されてきたか」というような、専攻する分野とある程度関係のある問いが5つほど出され、その中から1つ選んで解くという形式のものだそうです。いずれも、文章を読み書きする力を、学部時代にどれだけ鍛えてきたかが試されそうですね。

公共政策大学院

そもそも公共政策大学院とは?

続いては、公共政策大学院(正式名称、、、)です。今回は、主に日本語で学ぶ専門職学位課程と、主に英語で学ぶMPP/IPコースの両方を受験した学生に話を聞いてきました。

そもそも公共政策大学院とは、公共政策分野における実務と研究の架橋を目指して、2004年に新たに設置された大学院のことです。

「専門職大学院」として位置づけられており、学問的研究をその中心とする一般的な大学院とは異なり、専門的知識を身に着けた職業人を育成することを主眼においています。また、先ほどの総合文化研究科とは違い、直接つながっている学部は存在せず、大学院が独立しています。実務との関係を重視していることから、研究者のみならず、公務員やコンサルタントなどとして活躍する職業人も多くの講義を担当するのが特徴です。進学する学生にも、現役の公務員や社会人経験者が比較的多く存在します。

そんな公共政策大学院の、入試における近年最大の変化が、筆記試験の廃止です。2019 年頃までは、第1段階選抜として書類選考を行った後、第2段階選抜として筆記試験が実施されていました。しかし、コロナ禍で筆記試験の実施が難しくなって以降、筆記試験が廃止され、コロナ禍が落ち着いた今でもその運用が引き継がれています。よって、書類選考を通過した後は、面接試験だけで合否が決まることになっています。

筆記試験が廃止された分、書類選考のために提出する書類の重要度は増しているようです。

主に日本語のコースの場合、行政法・国際法・国際政治・経済学の4科目の中から、自分の進学したいコースごとに指定された科目を2つほど選んでエッセイを書くことになっています。これが、事実上従来の筆記試験に相当するもので、イメージとしては、大学の授業で課されるレポートのようなものだと思っておけばよいでしょう。

英語のスコアも大切

また、公共政策大学院で特に重要となってくるのが、TOEFLのスコアです。東大の公共政策大学院に進学したいと考えている人は一般に英語力が高く、例年だとTOEFLのスコアは平均で80ほどになるとのことです。出願を考えている人は、早めに英語の対策をする必要がありそうですね。

もう一つの提出書類が学習計画書です。先ほど紹介した地域文化研究専攻では、「研究」計画書を提出することになっていました。一方、公共政策大学院は、研究機関というよりも職業人を育成する側面が強いため、「学習」計画書でよいわけですね。

さらに、実務との架橋を考える公共政策大学院では、職業人採用(いわゆる社会人選抜)も積極的に行っています。

入試時期は、夏に専門職学位課程、冬にMPPIPとなっており、両者を併願することも可能です。実際、今回話を聞いた友人以外にも、併願している人は何人か見受けられました。

法科大学院

法科大学院には「未修」と「既習」が存在する

最後に紹介するのが、法科大学院(正式名称:法学政治学研究科法曹養成専攻)です。

法科大学院は、別名ロースクールとも呼ばれ、主に司法試験の受験を目指す学生たちが入学してくる場所です。というのも、司法試験を受験するためには、全国各地にある法科大学院を修了するか、予備試験という別の試験に合格するか、そのいずれかが必要です。そして、予備試験は合格率約4%という超難関であるため、法科大学院に入学して司法試験を目指す人が依然としてたくさん存在します。

そんな法科大学院も、先程の公共政策大学院と同様、専門職大学院として位置づけられています。よって、研究活動よりも授業等による学習がメインで、論文等を執筆する人は少なめです。

法科大学院の最もややこしい点は、未修コース既習コースという2つが存在することです。

未修コースとは、主に法学部以外を卒業した人を対象に、一から法律の勉強をしようというコースです。いきなり法律の勉強を始めても短期間で司法試験を突破するのは困難なため、未修コースは、最初の1年間でみっちり基礎を学習し、残りの2年間で発展的な学習をしながら司法試験合格を目指すことになります。よって、普通の大学院と異なり、修了までに3年間を要します。

一方の既習コースは、主に法学部出身者を対象に、ある程度法律の知識がついていることを前提として、最初から発展的学習を始めるコースです。ここで、未修コースで入学して1年を終えた2年生と、既習コースの新入生が合流することになります。つまり、既習コースは、未修コースが基礎固めをしていた分の1年間をスキップしているという扱いなわけです。ややこしいですね。笑

とにかく筆記試験が重要

さて、いよいよ入試の話です。これまで紹介してきた2つの大学院と法科大学院の入試の一番の差は、筆記試験がとにかく重視されていることです。

未修コースで入学する場合には、法律の知識がほとんどないことが前提となっているため、文章理解やエッセイ的な試験となっています。一方既習コースで入学する場合、自分が法学部出身相当である、学部時代に十分法律知識を身に着けてきたということを証明する必要があります。そのため、筆記試験では、司法試験さながらの法律問題が出題され、厳しい時間制限の中で答案を作成することになるのです。なお、「既習」とは言いつつ、実際に法学部出身である必要はありません。どの学部出身でも、この厳しい試験さえ突破できればOKです。

ただし、この筆記試験を受けるためには、第1段階選抜としての書類審査を通過する必要があります。ここで重要なのが大学の成績です。東大は、成績が一定以上でないとこの第1段階選抜を通過できないため要注意。法科大学院進学を考えている人は、早いうちから大学の勉強に本腰を入れるようにしましょう。そして、法学部の成績は多くが定期試験で決まるため、結局、早いうちから法学の試験に慣れておく必要があるわけですね。

この他、志望理由書のようなものやTOEICのスコアも提出が必要ですが、これらはそこまで大きなウエイトを占めていないと言われています。

さらに、2022年度入試から、学部時代の成績が良好であるなど一定の要件を満たした場合には筆記試験が免除されるという制度も新たに始まりました。実は、私はこの制度を使って入学しました。なので、筆記試験の準備に向けて勉強していたものの、実際に試験を受けたわけではありません。

いかがでしたか? 同じ大学の文系大学院の入試制度だけでも、さまざまな違いがあるとおわかりいただけたかと思います。次回は、文系大学院生がどんな生活を送っているのかについて紹介します!

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この記事を書いた人

現役時、進路を見つめ直した結果、センター試験の2日後に突然東大受験を決意。1浪の末東大へ合格し、現在は法学を専攻。法律の文章や日々の雑談を含め、「ことば」と向き合うのが好き。趣味はお昼寝。

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