皆さんこんにちは。教育事業部の永田です。
2月も下旬に入り、毎日のように各大学の入試がそれぞれの場所で行われていますね。今週末には我々が在籍している東京大学をはじめとした国公立大学の二次試験が行われるということで、いよいよ受験シーズンも佳境、と言ったところでしょう。
この「受験」の中で一番多くの人が関わり、毎年話題になるのが「共通テスト」です。独立行政法人である大学入試センターが取り行っていこの「大学入学共通テスト」は、各大学の入試の合否を決めるための一次試験として用いられており、毎年50万人近くの受験生が受験しています。
この「共通テスト」、実は来年からいくつか変更点があることを知っていますか?
高等学校での学習指導要領が2022年度から改訂されたことで、高校で学習した範囲から出題される共通テストの内容もそれに合わせて変更されるのです。2022年度の新課程の学習指導要領で勉強をしていた学生が高校3年間の学習を終え、2025年の試験から新課程に合わせた試験になる、ということですね。
共通テスト新課程では、各教科ごとにいくつかの変更点があるのですが、中でも大きく変わるのは「数学」と「国語」です。この2教科はともに、大問の数や全体の問題数が増え、それに伴い制限時間も長くなりました。細かな変更点などはネットや本、学校や塾での資料など至るところで紹介されているとは思いますが、だからこそ「情報が多すぎて結局大事なポイントが何か分からない」という人も少なくないでしょう。情報を整理することは、思っている以上に難しいのです。
そこで今回は、計算の申し子として数学にフォーカスして、新課程の共通テストのこれまでと「変わった点」、そしてこれまでと「変わらない点」を紹介していこうと思います。そして後半では、変更点にどう対処していくのかのテクニック論や実際の学習スケジュールをお伝えします。
この記事を読むだけで、新課程の共通テスト数学は丸わかりです!
そもそも「共通テスト数学」ってどういうもの?
新課程の共通テストの単元ごとの詳細な説明に入る前に、まず「共通テスト数学」の日程や制限時間など、基本的な情報をおさらいしてみましょう!
2日間ある共通テストのうち、数学は2日目の午後に開催される教科です。2024年2月時点では、2日目の13時から「数学Ⅰ」「数学ⅠA」が、15時から「数学ⅡBC」が行われると発表されています。2024年までに実施された共通テストでは数学は「数学Ⅰ」「数学ⅠA」が2日目の午前中に行われ、お昼の時間を挟んで午後の1番目に「数学Ⅱ」「数学ⅡB」「簿記・会計」「情報関係基礎」が行われていました。しかし、新課程への改訂に伴い、理科が基礎科目と統合されて午前中に時間が変更されたため、数学は2科目とも午後に行われることになりました。昼休憩後一発目の試験になるので、血糖値が急に上がって眠くなることに気をつけましょう(笑)
理系文系の選択に関わらず、多くの大学で「数学ⅠA」「数学ⅡBC」の2科目を受験する必要があります。数学①に属する「数学Ⅰ」「数学ⅠA」、数学②に属する「数学ⅡBC」のどれも全て、試験時間は70分です。1科目目の数学①では「数学Ⅰ」「数学ⅠA」の2つが同じ冊子になっており、どちらかを選んで回答します。しかし、「数学Ⅰ」を選んでしまうと受験できる大学が非常に少なくなってしまうため、多くの受験生は「数学ⅠA」を選択します。そのため、今回の記事では「数学1A」にフォーカスして対策方法などを説明していきます。ちなみに、冊子の最初のページには「数学Ⅰ」の問題が掲載されているため、間違えてその問題を解かないように気を付けなければいけません。また、1科目目と2科目目の間には休憩時間があり、参考書を開いて次の科目の準備をすることができます。もちろん長い時間ではないので、ここで勉強をしようとするのは得策ではありませんが、よく使う公式、自分が忘れがちな式変形などをもう一度頭にインプットし直すことはとても効果的でしょう。
新課程の共通テストに存在する数学科の科目は、
1 「数学Ⅰ」
2 「数学Ⅰ,数学A」
3 「数学Ⅱ,数学B,数学C」
以上の3つです。旧課程における「数学Ⅱ」「簿記・会計」「情報関係基礎」が消え、新課程では「数学ⅡBC」という新たな科目が登場しました。
数学科の3科目のうち、最大2つまで選択可能ですが、①②という組み合わせの選択は不可です。つまり、組み合わせは①③、②③の2通りとなります。
ただし、旧課程を履修した既卒生(2024年度以前に高校を卒業した、いわゆる浪人生)への措置として、2025年度は既卒生のみ対象の旧課程の科目の試験が実施される予定です。ただし、2026年度以降の試験では既卒生であっても新課程のテストしか実施されません。そのため、2025年度で浪人という選択肢をとった場合は、旧課程履修者であっても新課程の共通テストを受けなければなりません。
このような救済措置についても、個別の事例に合わせてなかなか把握できない場合があるので、自分から積極的に情報を掴みにいくことが重要ですね!
新課程の学習指導要領を徹底解析!
さて、ここまでで共通テスト数学が一体どのようなものかは分かっていただけたと思います。ここからは、この「新課程」になるそもそもの原因である、「学習指導要領」の改訂について解説していきます。
文部科学省が高等学校教育の学習指導要領の改訂案を出し、2022年度から全国の学校で新課程での授業が実施されるようになりました。主な変更点は、以下の表の通りです。
この表を見てもらえば分かる通り、まず大きな変更点として「数学C」が加わりました。旧課程では「数学活用」という科目名は存在はしていましたが、学習は任意であり、多くの学校で授業の内容からカットされていました。そう考えると、この「数学C」の存在はとても大きいでしょう。実は、数学Cは2012年まで学習指導要領に入っていたため、10年ぶりの復活ということになります。しかし、当時は「行列」という単元がありましたがそれが復活することはなく、同じ数学Cという名前でも少し学習する内容が異なることが分かっています。
その他にも、表の上下を見比べていただければ分かる通り、新しい単元の追加や内容の変更、そして逆に単元の消失などさまざまな変更点があります。こちらに関しては、後半で一つずつ深ぼっていきます!
共通テスト新課程の変更点・共通点
ここまで、新課程の学習指導要領や共通テストの概要を説明していきました。ここからは具体的な単元を見て、どのような変更点があるのか、そして逆に旧課程と変わらない点はどこなのかについて、具体例も交えて解説していきます!
共通テスト 数学1A の変更点
まずは、数学1Aの方から、旧課程とどのような場所が変わったのかについて解説します。
旧課程において、数学Aの出題形式は大問3つから2つを選んで回答するものでした。旧課程の「数学A」の内容は「図形の性質」「整数の性質」「場合の数と確率」の3単元で、それぞれの単元が共通テスト「数学Ⅰ,数学A」の第3問、第4問、第5問で出題されていました。しかし、新課程では学習指導要領が変更され、「数学A」の内容が「図形の性質」「場合の数と確率」「数学と人間の活動」の3単元となりました。大きな変更点としては、「整数の性質」が「数学と人間の活動」に吸収されたことです。さらに、「数学と人間の活動」は共通テストの出題範囲からカットされ、第3問が「図形の性質」、第4問が「場合の数と確率」へと変更されました。つまり、数学の共通テストの範囲から「整数の性質」が完全に消えたのです。
また、細かな変更点のある単元として、数学Ⅰの「データの分析」、数学Aの「場合の数と確率」の2つが挙げられます。「データの分析」では、「仮説検定の考え方」、用語「外れ値」を新たに扱うようになります。また、「場合と数の確率」では、旧課程では数学Bで扱っていた「期待値」を新たに扱うようになります。また、「頻度確率」も登場します。つまり、数学Ⅰ、数学Aどちらもより多くの範囲からの出題となるということです。受験生にとっては少し苦しい話ですが、逆に言えば満遍なく対策することでライバルと差をつけることができますね!
共通テスト 数学2BC の変更点
続いて、数学2BCの変更点についてです。
すでに名称が「数学2B」から「数学2BC」に変わっている時点で変更点が大きいことは明らかなのですが、具体的に何が変わったのかについて解説していきましょう。
旧課程において、共通テスト「数学Ⅱ,数学B」の大問数は5つであり、「数学B」の単元に相当する第3問「統計的な推測」、第4問「数列」、第5問「ベクトル」の3つから2つを選んで回答するものでした。しかし、新課程では学習指導要領が変更され、「数学C」の内容も共通テストに組み込まれることになりました。もともと「数学B」の単元であった「ベクトル」が「数学C」に移行したため、「ベクトル」の問題に関しては旧課程と変更点はないのですが、「数学C」のもう一つの大きな単元である「平面上の曲線と複素数平面」が選択問題に加わりました。
この変更に伴い、制限時間も60分から70分に変更されました。しかし、個人的には大問の数の変化も踏まえると、10分の延長ではカバーしきることができないほどの分量の増加だと思っています。そのため、今まで以上に1つ1つの問題をスピーディーに解き進めていくことが重要になります。
また、細かな変更点のある単元として、数学Bの「統計的な推測」が挙げられます。この単元では、「正規分布を用いた区間推定及び仮説検定の方法」、そして新たな用語「有意水準」を扱うようになります。「有意水準」とは、帰無仮説が間違っていると判断する基準となる確率のことで、かつては大学の統計学で学ぶ単元でした。そのため、より深い統計についての理解が必要になったことが分かります。このことはもしかしたら、この記事を読んでくださっている大学生の皆さんにとって驚くべき内容かもしれません。
旧課程と新課程の共通点
ここまで、数学1A、数学2Bの旧課程と新課程の変更点についてまとめていきました。おそらく、「こんなに内容が変わるのか…」と驚いている人が多いでしょう。元々、10年に一度、学習指導要領は改訂されていますが、今回はその中でも新しく加わった単元や科目が多いため、教育現場でもとても話題になっているのです。
しかし、もちろん変わらないものもあります。ここでは、旧課程と新課程の共通点について紹介します。
まずは、数学1Aの共通点についてです。試験時間は旧課程も新課程も70分間であり、変更はありません。試験の大問数は旧課程が全5問、新課程が全4問ですが、旧課程では後半の3つの大問から2つを選んで回答する形式だったため、回答する大問数は同じです。科目名も「数学Ⅰ,数学A」と変更されておらず、実質的には同じ内容の試験ということができます。旧課程で出題されていて、新課程では出題されなくなった単元は「整数の性質」だけであるため、その他の単元に関しては旧課程の参考書での勉強法が応用できるということとなります。
数学2BCはとても変更点が多いように見えますが、実は「数学Ⅱ」の部分には大きな変化はありません。もともと1つの大問にまとめられていた数学Ⅱ「三角関数」と数学Ⅱ「指数関数・対数関数」が分解されているため、大問の数は変わっても数学Ⅱの部分の問題量は変わらないことになります。
また、数学1A、数学2BCに共通して、旧課程よりもさらに「図や資料の読み取り」が重視されます。旧課程では「数学Ⅰ,数学A」のみで顕著だった図や資料を読み取る問題は、新課程になって「数学Ⅱ,数学B,数学C」でも重要となりました。計算力や公式の理解だけでなく、それぞれの問題において「何を求められているのか」を理解する力が大事になるということですね。
共通テスト新課程ここがポイント!
ここまで、共通テスト数学1A、数学2BCそれぞれにおいて、新課程でどのような変更点があるのかを紹介していきました。ここからは、東大生である僕が思う、新課程で「ここだけは押さえておきたい」ポイントを3つ簡潔に伝えます!
「整数の性質」が消失…!?
まず一番の変更点は、やはり数学1Aから整数の性質がなくなったことでしょう。高校数学を代表する分野であり、ユークリッドの互除法や不定方程式など、二次試験でも頻出である公式や考え方が多く詰まっている整数論の分野ですが、共通テストの出題範囲からは外されることになりました。学習指導要領では名前を変えて「数学と人間の活動」という単元で残ってはいますが、受験に使わない文系の生徒は整数の性質について深く学ぶ機会は失われていくでしょう。個人的には、整数論の考え方は数学の根本であり、数を扱う力は他の単元を学習する際にも大きく役に立つので、無くならないで欲しかった単元です。
理系の皆さんは、二次試験の記述問題で出題される可能性はまだ残っているため、学習を怠らないようにしましょう!
ビジネスに役立つ「期待値」が登場
失われる単元もあれば、もちろん新しく登場する概念や公式もあります。数学1Aの「確率」の単元には、新しく「期待値」や「頻度確率」の考え方が登場しました。僕はこの「期待値」という考え方がとても好きで、かつ数学において非常に重要な単元だと考えています。
永田耕作 ー宝くじは買うべき?東大生が教える「数学的」解答 ~当たる確率は? ビジネスにも役立つ思考法~
上の記事は、かつて僕が東洋経済オンラインさんで書いた記事なのですが、ここでは宝くじの期待値、つまりリターンを算出しています。もちろんこのようなギャンブルの計算にも、そしてビジネスにおける選択にも、幅広い場面で期待値の考え方は活かされます。前までは発展内容であった「期待値」の単元が数学1Aの必修となったことの背景には、日本社会において期待値の考えをマスターしていることが高く評価される、という事実があると言えるでしょう。
文系泣かせの「複素数平面」出現
最後に、今回の新課程で一番の悲劇をお伝えしましょう。それは、数学2BCの範囲への「複素数平面」の進出です。
旧課程において、受験者の多くは「数学B」の選択問題において「統計的な推測」を避けて「数列」「ベクトル」の2つを選択していました。新課程においても「統計的な推測」を選択しない場合、旧課程において「数学Ⅲ」、つまり理系の受験生のみが学習する内容であった「平面上の曲線と複素数平面」を選択しなければならないことになります。つまり、「数学Ⅱ,数学B,数学C」を受験する文系の受験生は、「もともと数学Ⅲの内容であった複素数平面を学習する」、あるいは「専門的な内容である『統計的な推測』を学習する」の少なくともどちらかはしなければならなくなったのです。
これはまさに「文系泣かせ」ですね。しかし言い換えれば、文系の受験生もより数学に対して深い知識を獲得できるようになったのです!
まずここから対策を始めよう!
最後に僕から、実際に新課程の共通テストの対策をする上で何から始めれば良いのかをお伝えします。
数1A「データの分析」
数学1Aであれば、まず「データの分析」でしょう。この単元は多くの受験生の得点率が他の単元に比べて低くなっており、苦手意識を持っている人が多い単元になります。だからこそ、僕はここを得意にして周りの受験生と差をつけることをオススメしています。
データの分析は、もちろん図表の読み取りはとても大変ですが、覚えなければいけない公式は他の単元と比べて圧倒的に少ないのです。そのため、土台となる知識を教科書等で押さえた後は、ひたすらマーク式の問題を解くようにしましょう。実践型の問題に対応できるかは、経験がものを言います!
数2BC「微分・積分の考え」
数学2BCでまず対策を始めるべきは、「微分・積分の考え」の単元です。ここは例年受験生が時間をかけて解く大問になっていますが、実は聞かれていることはそこまで多くありません。親切すぎる誘導に逆に困惑してしまい、余計な時間を使ってしまっているのです。そのため、まず問題を全部見て、最終的にどんな関数の何の値を求めるのかを明確にしましょう。その上で、「この説明文章はこのゴールのためにこの値を求めているんだ」と誘導文章を解釈できるようになると、解くスピードがグンと上がります。まずは微分・積分から、数学2BCの点数力を底上げしていきましょう。
おわりに
いかがでしたでしょうか?長くなりましたが、これが新課程共通テスト数学の全貌と対策法についてです。
今回の記事を読んで、来年からの新課程の共通テストへの対策を始めていただけると嬉しいです!
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