大人気漫画『ドラゴン桜』『ドラゴン桜2』(講談社)の作者、三田紀房(みた・のりふさ)先生と、『ドラゴン桜2』の編集を務めた西岡壱誠(にしおか・いっせい)が対談!
入試方法が多様化する昨今の大学受験をどのように捉えられているのか。桜木先生が「東大に行け!」と伝える意味、受験を通した成長、得られる未来とは?さまざまなお話を伺いました。
西岡:
本日はよろしくお願いします!
漫画『ドラゴン桜2』の監修をお手伝いさせていただいていた頃、ご自宅にお伺いしたのは通算100回くらいに渡ると思いますが、それでも三田先生とお話しするのはやっぱり緊張します。
三田先生:
いえいえ。西岡くんのことは強力な相棒のように考えていました。笑
昨今の入試を巡る状況に、桜木建二なら何と言う?
西岡:
ありがとうございます。では、早速本題に入りますね。
まずは、最近の入試についてです。「2020年から共通テストが始まるんだ」という話をしたのが、『ドラゴン桜2』の第1話でした。それ以来、共通テストでは「読解力」が求められるようになっており、テストで問われる内容が変わってきているなという印象です。
こうした中で、僕らにとってはある意味嘆かわしい傾向が出てきました。それが、総合型選抜やいわゆる推薦入試など、多様な入試にある意味で「逃げる」ような生徒さんが増えてきたことです。もちろん、総合型選抜が悪いと言いたいわけではなく、むしろ選抜として素晴らしいものもあります。しかし、点数や数字での勝負が忌避されて、選抜基準が見えづらい入試が広がっていくのは、なかなか難しい側面もあるなと感じるんです。
そこで三田先生には、このような現状を見た桜木先生が何と言うのかお聞きしたいです。
三田先生:
僕は、日本の受験のシステムを一番象徴しているのが東大だと思っているんだよね。その東大が、入学者を全員総合型選抜で選ぶ、というようなことを言い出したら、地殻変動、破壊的な変化が起こるでしょう。逆にいえば、そうでもない限りはそこまで変わらないのではないかと思います。
だとすると桜木も、「総合型選抜が広がっていても関係ない。東大を受けるなら試験一発で通らないといけないんだから、それに向けて勉強しろ」と言うんじゃないかな。
西岡:
東大も、2016年度の入試から推薦入試(現:学校推薦型選抜)を一応始めてはいます。しかし、新入生が大体3000人くらいのうち、推薦入試を経て入学するのはせいぜい100人程度です。これを踏まえると、やはり東大は今まで通りの一般入試をメインに据えていくんだろうなと思いますね。
三田先生:
そうだね。東大入試を含むいわゆる一般入試の何が優れているかと言ったら、やはり「公平性」でしょう。試験場に行って点数さえ取れば合格できる。東大自身もペーパーテストの点数によって順番を付けるのが今できる最大限の公平だと考えているのではないかと思います。
西岡:
数字こそ大事だ、ものさしになるんだという話は、ドラゴン桜でもよく強調されますよね。やはり、数字は平等でしょうか。
三田先生:
うん、数字こそ平等だと思います。面接で決めると言われても、落とされた時に自分の何がいけなかったかわからないよね。部活動の成績や人物評価など、さまざまな要素のどこが重視されるのかわからない中で、曖昧な基準で審査され、それが合否にかかわるとなると、高校生はその結果を受け入れられるのかって話です。
そんなふうに合否を決められると言われたら、高校生はみんなで抗議すべきだろうと僕は思います。笑
西岡:
それに、ペーパーテストで点数を取りさえすれば、その国で一番予算をもらえている大学に入れるというのはすごいですよね。
三田先生:
ペーパーテストの点数によって選別されたほうが納得がいくよね。落ちたら、点数がそれだけ足りなかったと分かり、結果を受け入れられる。
いったん社会に出ると、人物評価という曖昧なもので評価されます。これは社会的には受け入れざるを得ないとしても、せめて大学までは実力、納得の行く手段で選んでくれよと思うよね。
西岡:
せめて大学受験までは、平等で努力が報われる制度であってほしいですよね。
三田先生:
みんなが納得できるルールが良いなと思うかな。
点数を追い求める受験勉強を通して人間的にも成長するのはなぜ?
西岡:
それと、僕らが強く感じているのは、数字を追いかける受験を通して人間的に成長しうるということです。
たとえば僕らは、3人お子さんを育てつつ、お仕事もなさっている小倉さんが400日以上勉強して受験するというプロジェクトを主導していました。僕はあまり偉そうなことを言えませんが、小倉さんは、このプロジェクトを通して明確に変わったんです。
最初は、何を教えても「わからない、できない」だったのが、しばらく教えて受験が近づいてくると、「できないんだけど、どうやったらできるようになるか一緒に考えてください」に変わったんです。受験ってこんなに人を成長させるんだな、すごいなと感じました。
ただ、なぜ人は数字を追いかけて頑張ることを通して成長できるんだろうというのは不思議に思っていて、その理由をうまく言語化できないんですよね。
三田先生:
ペーパーテストに対する誤解というか、アイロニーのようなものはありますよね。その最大の理由は、ペーパーテスト=暗記だと思っていることにあるだろうと。暗記しただけでしょ、という。
しかし、そういう批判をする人は、きっと東大の問題を見たり、まして解いたりはしていないよね。東大の問題は、僕が言うのもなんだけど、よく練られた良問らしいんです。
東大の先生は、「あなたの考えはどうなんだ」という問いに対する答えをちゃんと用意できないと解答にならない問題を作成している。つまり、暗記したからって解けるわけではないと。
結局、東大生は勉強しかできないやつだという一種の願望を込めた偏見から来ると思うんだよね。勉強はやればやっただけ成長するし、どうやったら成長するか、方法論を自分で考えるようになるし、時間もコントロールできるようになる。そして何より、粘り強く最後まで諦めないようになるんだよね。それが何事にも関わっていて、人間を育むんだろうなと。
世の中にはまだまだ、勉強=詰め込みだと誤解している人もいるよね。実際、あるときには詰め込んだだけで成果が出たこともあるんだろうけど、今はそうでもないよと。
西岡:
最近の入試は、まさに一夜漬け的なスタイルの勉強では通用できない問題が非常に多くなってきているんですよね。
三田先生:
なんでそうなるかと考えると、やっぱりみんな頭が良くなっているんだよね。
テレビのCMを見ても、教育系のCMがバンバンやっている。2歳や3歳に向けた教育サービスなんてものもありますよね。
世の中って勉強のレベルが下がっていると良く言いがちだけど、僕の感覚では、むしろものすごく優秀になってきていると思うんだよね。おそらく大学側も、ただの問題ではバンバン点数を取ってしまうから、難しくせざるをえないんだろうと。
西岡:
40年前のセンター試験と今の共通テストの数学を比べたときに、ページ数が15倍になっていたというのが最近話題になっていました。単に問題の量が多いだけでなく、長くなった問題文の読解も必要になっている。これだけ見ても、やっぱり変わってきているなと感じますね。
三田先生:
幼い頃から教育システムに組み込まれてきている子どもたちは、やっぱりどんどん優秀になっていると思いますね。
西岡:
話は少し変わって、『ドラゴン桜』のときに、桜木先生が。ある科目の点数を上げるにもいろいろな要素を見ないといけないと話していたのが印象的でした。数学の成績を上げるにも、公式を覚えるだけでなく、あらゆる能力を総合的にあげないといけないんですよね。まさに、いろいろな能力が求められているよなと。
こうして世の中が変わっていく中で、われわれは、ドラゴン桜的な逆転合格をどんどん広げていって、「東大の中の数%は偏差値の低いところから受かりました」という世界を作っていきたいんです。実際、現代でもドラゴン桜という作品や逆転合格に対する期待は多いと思います。ドラゴン桜という作品の価値、なぜ時代がドラゴン桜を求めているのか、先生としてはどう考えていらっしゃいますか?
三田先生:
書いていてしばらくして気づいたことだけど、さまざまなところに話を聞きに行くと、特に地方の進学校の先生方が口をそろえて言うのは、「なかなか東大を受けに行かないんです」ということ。もうちょっと頑張れば東大いけるのに……と思う子も、東大を勧めると「地元の大学がいいです」と言っちゃう。先生は当然無理やり勧めるわけにも行かないけど、でももったいないな……という生徒さんがたくさんいるという現実がある。
そう考えると、実は優秀な子って意外と受けていないんだよね。もちろんそれなりに理由はあるだろうけど、東大というものをあまりに過大に捉えすぎて、自分とは別世界のものと考える生徒さんが実は世の中にいっぱいいるんだと気付かされた。
そういう子達は、きっとやり方がわからないんですよね。東大の問題を研究して、効率的に成績を伸ばすやり方を工夫すれば合格圏内に入れるのに、その手前で終わってしまう。自分の能力を過小評価してしまっているような実態があるなと。
西岡:
東大に入ってからもそう思うことはありますね。
東大生に、「東大に入ったくらいだから学校のトップだったんだろう」と聞いてみると、意外とそうじゃない人もいるんですよね。自分よりすごい人もいたけど、その人は地元志向だったとか。トップだから東大というわけではなく、受けたから受かったという側面はありますよね。
三田先生:
開成や灘みたいな学校は、なんでいっぱい入るかと言ったら、何だあいつがいけるなら、というのが多いからだと思うんですよね。
「なんだ、あの人が入れるなら自分もできる」という仕組みで、ハードルがものすごい下がっているんですよね。逆に、10年に一人東大に行くか行かないか、という学校だと、どんな人が東大に行くかについての実感が持てない。だから、「あの先輩が行かなかったなら自分も無理かな」と考えて、知らず知らずのうちに自分を過小評価してしまうことがあるんだよね。
西岡:
まさに、「なーんだ」の法則とでも言えそうなものですね。
三田先生:
そうそう。
つい先日ある国立の医学部を出て、いよいよ研修医になるという方にあったんですよね。その方はびっくりするくらい優秀で。こういうすごく優秀な人って、意外と東大に行ってないんだよね。医学部に行ってしまう。
そう考えると、自分も東大くらいいけるんじゃないか、と思っていいと思うんだよね。東大が一番だという世間の常識に流されて、最初から無理だと考えたり、自分には縁がないと思ったりしてしまって、東大を目指すことすらしなくなってしまう。
西岡:
野球部なら弱くても甲子園を目指すのに、大学受験だと東大は選択肢にすら入らないんですよね。「大学はどこを目指せばいいですか」と聞いてくる高校1年生も多いけど、そういう人には、高校1年生のうちから東大以外の選択肢を掲げる必要はあるのかと思っちゃうくらいです。
三田先生:
当たり前の話だけど、東大は行こうと思わない限りは行けないんだよね。行こうと思うことが大事。行こうと思えばいけるし、思わなければどうやってもいけない。
西岡:
行こうと思ったら半分合格したようなもの、とはよく行ったものですね。
ただ、こういう志望校の話をしていると必ず聞かれるのが、「東大ってやっぱり良いんです」みたいな質問。東大って何が良いのかとよく聞かれるんです。今の子供達は、特に理由を求めているように感じますし。
実際、今日来てくれた東大生にも人生に悩んでいる人って多いんですよね。東大に入ってからも悩んでいる人もいる中で、東大の価値って何なんだろうなと。東大生に言いたいことって何かおありか、お聞きしたいです。
三田先生:
何よりまず場所がいいですよね。東京23区内であれだけ大きい大学を、明治時代の人はよく作ったなと。よくぞここに大学を作ろうと思いましたよね。
世界の大学を何個か見に行ったんだけど、アメリカの大学ってやっぱりかっこいいんだよね。スタンフォードなんて、見てみると「やっぱりここはすごいな」と思う。
要するに、人って環境が大事だなと。場所や建物のしつらえなどで考えると、東大はまず場所が素晴らしい。交通の便もいいし、広いし、都会のど真ん中にある。そういう環境で学べるのは、すごく貴重な機会だと思うんだよね。だから、何がいいかと聞かれたらまず場所。それだけでもう既に東大には価値があるかな。
そして、入っている学生も良いよね。勉強を頑張った人って、人間的にも優れている人が多いですから。それに、優れている人の中に入ると、優れている人がどういう人かもわかる。だから、優れている人の中に入ることで、無意識のうちに自分も優秀になっていく。そういう見えない力が働くいい場所だよね。
あとはもちろん就職が良いよね。良いに決まってる。笑 なろうと思うものになれる、選ぶ側に立てるのはすごい良いことだなと。
荒野に行くな、レールに乗れ
西岡:
なるほど、確かにそうですね。
東大生でしかない選択肢としてよく挙がるのが官僚なんですよね。官僚って、東大生以外の人から「そんな選択肢があるなんて考えたこともなかった」って言われるんですよ。
一度、僕と先生の共通の知り合いが先生に進路相談をしたときに、「東大に入ったなら官僚になったほうがいいよ』とおっしゃっていたことを思い出しまして。やっぱり官僚って良いですかね?笑
三田先生:
官僚は良いですよ。笑
今はブラックだなんだと言われていて、大変だとは思うけど、最大のメリットは情報ですよ。やっぱり世の中に絶対知られてはならない情報が山のようにあって、官僚はそれに触れることができる。霞が関の中でしか触れられない情報に触れられるのは最大のメリットですよね。
もちろんそれを外に直接出すことはできないけど、情報に触れたことが、将来必ず何かの役に立つんだよね。情報の中に入るメリットはものすごいと思ってます。自分を10年単位の長いスパンで捉えると、貴重な情報に触れたというメリットは結構大きいだろうなと。
実際、霞が関にいた人と会うと、「ここだけの話ですよ」と言われる場面って結構あったし。笑
西岡:
たしかに、東大の先輩で、官僚になったあとで自分で会社を作ったりしている人とかも多いです。
三田先生:
世の中の人が知らない情報を持っているんだから、その時点で周りの人より2歩も3歩も進んでいるよね。世の中は、どこかを押せば何かにつながるという仕組みになっていて、そのスイッチをたくさん知っているというのは大きいよね。ものすごくアドバンテージ。
だから、今の社会から見ると、官僚は忙しくて大変だと言われてしまうし、実際大変だろうけど、あとはそれを何年我慢するか。我慢出来ないほどではないな、自分でコントロールできるな、という分野ではあるし。
事務次官まで行かずとも、良い企業が見つかれば転身したりして、自分のキャリアを選んでいくこともできるよね。
西岡:
僕の仲間で、さっき紹介した知り合い以外にも、今年卒業する東大生たちの中に数人官僚になる人がいるんですよね。系譜は受け継がれています。笑
三田先生:
ちょっと違う例かもしれないけど、10人くらいで飲み会をしていたとして、なんとなく大人しくてぱっとしない人がいたとする。でも、その人が「甲子園に行きました」と一言言っただけで、一気に場の空気が変わりますよね。「どこの高校だったの」とか「うっそー!」とか。
西岡:
ただの飲み会だったのに、空気が一変しますよね。東大って言うだけでもある程度そんな側面があるので、その中でも官僚と言ったら、さらに特別さがあるかもしれないですね。
三田先生:
冷静に、何のために東大に入ったのかと考えると、官僚になる選択肢はベスト3くらいに入るかなと思いますね。東大なら。
東大以外の大学だったらおすすめしないかもしれないけど、東大の脈々と受け継がれてきた霞が関の歴史、ネットワークに入り込んで、その中でキャリアを積んでいけるというのは、東大だからこそできることだと僕は思うね。
そういうのに自分が入って行くのが嫌だ、という人はもちろん別だけど。
西岡:
ドラゴン桜で一番心に残っているのも「運に乗れ」なんですよね。乗っちゃっても良いんじゃないかと。
三田先生:
決められたレールとか決まった道を行くのは劣っていると思われることも多いんだよね。アウトローに憧れて、「道を外れた方が人間として個性的に生きているんだ」みたいな。でも僕は、それにはちょっと誤解があると僕は思う。
西岡:
たしかに、人によっては「荒野」に行きたがりますよね。笑
三田先生:
荒野に行ったってもともと何もないんだから。笑
せっかく敷かれたレールがあるならとりあえず乗っちゃえば良い。乗ってそこからどこへ行くかは自分次第だし、レールに乗っても結局自分で走らないといけないわけだし。
荒野に行っても途中で野垂れ死んでしまうことのほうが多いんだから、レールがないならともかく、せっかくあるなら乗ってから考えたほうが良いかなと。乗る前からちゅうちょするよりはまず乗ってみる。それに、一度乗ったレールは、降りたとしてもキャリアとして残る。人々は、残ったレールのところに感心してくれるよ。
西岡:
ありがとうございました。
では、次に本日対談見学に参加している、現役東大生4名からの質問タイムに移りたいと思います。
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