非認知能力の一つである「メタ認知」。近年、ビジネスや学校教育において、結果を出す上で重要な力として注目されています。
俯瞰して物事を見る能力であるメタ認知能力が高いと、勉強や仕事をスムーズに進めたり、他人と円滑にコミュニケーションを取ったりできると考えられているのです。
変化の激しい現代を生きる社会人・学生なら、メタ認知能力はぜひ身につけておきたいもの。そこで今回は、そもそもメタ認知とは何なのか、高い人にはどんな特徴があるか、どんなトレーニングをすれば伸ばせるか等について解説していきます。
メタ認知とは?
まずは、「そもそもメタ認知とは?」という点について確認しましょう。
メタ認知の定義
メタ認知とは、自分が物事を認知している状態やその過程について、客観的に認知することです。少し噛み砕くと、「俯瞰的に物事を見ること」ともいえます。
「メタ」とは、「後に」などを意味するギリシア語由来の言葉で、ここでは「高次の」(より上の)を意味します。
そして、心理学でいうところの「認知(cognition )」とは、見る、聞く、話す、書く、記憶する、考える……など、頭を働かせる行為全般を指します。
つまり、自分が頭を働かせている(=認知している)状態やその過程について、「それより上」から自分をモニターし、コントロールするのが「メタ認知」というわけです。
メタ認知の起源
メタ認知研究の起源の一つは、自分が内面で意識していることを観察し、言語化しようとする「内観」という手法です。そして、直接「メタ認知」という言葉が使われるようになったのが、アメリカの心理学者ジョン・H・フラベルが1970年に提唱した、記憶過程に関するメタ認知であるメタ記憶の研究です。
当初は心理学用語として使われましたが、その後教育やビジネス、人材育成など、幅広い分野で重視されるようになっていきました。
メタ認知の歴史をさらに掘り下げたときによく挙がる名前がソクラテスです。彼は、「不知の自覚」(「無知の知」がよく知られるが、この表現は不正確とされる)を基盤とする独自の哲学を形成しました。「不知の自覚」とは、「『自分がある物事について知らない』といいう状態について自覚している」ことです。「自分が物事を認知している状態やその過程について、客観的に認知」しているという意味では、まさにメタ認知ですね。
メタ認知が持つ2つの知識と技能
このようなメタ認知は、大きく分けると「知識」と「技能(活動)」の2つになります。
メタ認知的知識
「メタ認知的知識」とは、自分自身や解決したい課題についての知識のことです。自分が物事を認知している状態について認知するには、まず自らについて知っておく必要があるというわけですね。
この「知識」は、さらに3つに細分化できます。
①「人」に関わる知識
1つ目は、人の認知特性についての知識です。たとえば、「疲れているときには集中力が下がる」という一般論に近い知識や、「自分はマルチタスクが得意だ」「人の話を聞くのは得意だが、自分から話すのは苦手だ」など、自分の長所・短所についての知識がこれに当たります。
②「課題」に関わる知識
2つ目が、課題そのものについての知識です。たとえば、「抽象的な議論は具体的な議論に比べて結論を出すのが難しい」などのこれまでの経験から得た知識や、これから取り組む課題で何が求められているかについての知識などがこれに当たります。
③「方略」に関わる知識
最後3つ目が、課題を解決するための手法に関する知識です。たとえば、「短期間のうちに何度も繰り返したほうが効果的に記憶できる」「図を適切に用いることで理解が深まる」など、課題にどう取り組めばよいかに関わる知識がこれに当たります。
メタ認知的技能
自己の認知について認知し、課題を解決するためには、自分自身や課題について知っているだけでは不十分です。そこで出てくるのが「メタ認知的技能(活動)」です。こちらは、メタ認知に基づいてどのように活動するか、ということに関わっており、「モニタリング」と「コントロール」の2つに分けられます。
①モニタリング
1つ目が、自分の認知行動の様子を予想し、点検し、評価する「メタ認知的モニタリング」です。このモニタリングの精度が高い人は、何かを実践する際、自分の行動を効率的にコントロールできるようになります。
②コントロール
2つ目が、モニタリングに基づいて目標を設定したり、計画を修正したり、感情を制御したりする「メタ認知的コントロール」です。こうして自己理解を深め、それに基づいて自分の行動をコントロールしていくことこそ、メタ認知が最も活躍する場面だと言えるでしょう。
メタ認知能力が高い人の特徴と低い人との違い
メタ認知の基本について理解したところで、メタ認知能力が高い人・低い人にそれぞれどんな特徴があるか見てみましょう。
高い人
冷静な判断と行動ができる
自分が物事をどう認知しているかをよく理解できている人は、自分の突発的な思いや感情に振り回されることが少ないため、冷静さを保ちやすくなります。その結果、一つひとつの行動も冷静にこなしていけるのです。
自分の強み・弱みを生かして判断できる
メタ認知能力が高いということは、自分の強みと弱みをよく理解しているということ。すると、自分の苦手な分野で無理をしないようにあらかじめ準備しておいたり、自分の強みで他人よりも積極的に行動したりと、戦略的な判断を下しやすくなります。
周囲の人と適切な人間関係を構築できる
自分について俯瞰的に理解している人は、自分の周囲にいる人についてもよく理解し、相手によく配慮していることが多いです。その結果、不用意に距離感を詰めすぎて不快にさせたり、逆に疎遠になってしまったりすることが少なく、その時々に応じた適切な人間関係を構築できる傾向にあります。
ミスからも素早く成長できる
メタ認知が高いと、たとえミスしてしまったときでも、「自分は今回なぜこのようなミスをしてしまったか」と分析し、それを真摯に受け止められるため、何が足りなかったか、それを改善するために次どうすればいいか、ということをすぐ考え、実行に移しやすくなります。その結果、ミスを引きずらずにどんどん成長していけるのです。
低い人
場当たり的で感情に左右されやすい
「ある状況に置かれた自分がどう考える傾向にあるか」ということが理解できていないと、自分が今からどんなことを考えようとしているかも分からなくなってしまいがちです。結果、思いつきで場当たり的に対応してしまったり、その時の自分の感情に左右されて意思決定してしまったりすることが多くなります。
相手のことを考えずに一方的な言動をとってしまう
これは、メタ認知が高い人の特徴の裏返しですね。自分を俯瞰的に理解できていないということは、周囲の人のことも十分に理解できていないことに繋がります。そうすると、距離感を間違えてしまったり、相手が今言ってほしい・言ってほしくないことを区別できずに傷つけてしまったりすることがあるのです。結果的に、仲間や同僚と円滑なコミュニケーションが取れず、効率的な協働も難しくなってしまいます。
自己肯定感や成長力が低い
自分について理解できていないということは、自分の長所や短所もよく分かっていないということ。長所や短所がわからないと、自分のありのままを受け止めてあげられなくなり、自己肯定感が低くなってしまいがちです。また、何かをして成功しても失敗しても、その原因を客観的に把握できていないと、そこから成長に繋げられません。結果、メタ認知が高い人に比べて成長スピードも遅くなってしまいます。
メタ認知能力を高くすることで得られるメリット
高い人と低い人、それぞれの特徴がわかると、メタ認知能力を高めることのメリットも自ずと見えてきますよね。ここでは代表的なものを簡単に紹介します。
- あらゆる可能性を念頭に置いた思考ができるようになる
- 人間関係を良好に保てるようになる
- 課題解決のプランを立ててから実行に移すまでの過程をコントロールできる
- 新しいことでも効率的に学習できる
- 問題が発生しても適切に対応できる
これらは全て、自分の認知行動について理解し、物事を俯瞰的に把握できていることの産物です。
自己についてよく理解しているということは、「どうやったら自分は成長していけるか」についても理解しているため、自分の効率的な伸ばし方、効果的な学習法についてよくわかっていることになります。時代や環境が変わっても、自分がどう行動すれば伸びるか、という核の部分は変わりませんよね。だからこそ、変化の激しい時代にも適応できるのです。」
メタ認知能力を高くすることで生じるデメリット
ただし、メタ認知能力が高いと何でもいいかというと、そうとも言えない場合があります。たとえば、以下のようなデメリットが考えられます。
- メタ認知に没頭しすぎてスムーズに会話できなくなることがある
- 自意識が過剰になりやすい
- プレッシャーを感じて本来の自分の力を発揮できない
自分のことについて常に考えようとするには、それなりの負荷がかかります。極端に言えば、「自分と何者か、何のために生きているか」という高度に哲学的な問いについて真剣に考え詰めたら、普通の人は相当疲れてしまうはずです。
そういう状態になってしまった場合の対策としては、無理に思考を深めようとせず、信頼している人と話してみたり、ゆっくり自分と向き合う「瞑想」を試してみたりするとよいでしょう。
メタ認知能力を鍛えるトレーニング方法
メタ認知能力が高いことのメリット・デメリットがわかったところで、次はそれを鍛えるトレーニング方法について解説します。
モニタリング
1つめは、「メタ認知的技能」のところで紹介したモニタリングです。自分自身を客観視して、自分の長所・短所を把握することで、自分についての理解も深まります。
しかし、何の手がかりもなしにいきなり「自分の長所・短所を把握する」と言われても難しいですよね。そこで役立つのが「マトリクス」を使った整理です。
マトリクスとは、2つの軸で分けた4つの象限の中に物事をプロットして整理していくフォーマットのこと。たとえば『東大生の考え型』では、「マトリクスシート」というものを紹介しています。これは、横軸を主観的な要素、縦軸を客観的な要素に設定して、その中に要素を当てはめていくものです。
(実例入る)
主観と客観の両面から分析することで、「なんとなく感覚的に得意かも」で終わらせず、自分のことをより深く理解できるはずです。
コントロール
2つ目も、「技能」で紹介したコントロールです。モニタリングによって把握した自分の特性をもとに今後取るべき行動について考えることで、学びや仕事をより効率的に進められるようになります。
たとえば、「今自分は不快な気持ちになっている」という感情に気づいたとしましょう。この時、次に考えるべきは「今回はなぜ不快になったのか」という原因や、「同じようなシチュエーションで不快になったことはあるか」という傾向などについてです。こうして分かったことをもとに、たとえば「〆切がギリギリすぎて焦って不快になった」なら「課題に余裕を持って取り組む」が解決策になります。「相手が失礼な態度を取ってきた」なら、その人と接するのを避けたり、自分の側で捉え方を変えたりする必要があるでしょう。
マインドフルネス
近年、起業家などのあいだで注目を浴びているのがマインドフルネスや瞑想です。これは、落ち着いた環境で自分と向き合うことで、過去や未来から一旦離れ、現在の自分のことについて理解を深める手法です。
瞑想には、呼吸や音を使った瞑想など、いくつかのやり方が存在します。今回は、呼吸を使った瞑想について紹介します。手順は以下のとおりです。1日10分ほど実践するのが効果的だと言われています。
- 背筋を伸ばして座る。目は軽く閉じるか、薄く開けて斜め前を見る。
- 息を吸ったときに、おなかや胸がふくらむのを感じ、心の中で「膨らみ、膨らみ」と実況する。呼吸はコントロールせず、そのとき一番したいように呼吸する。
- 息を吐いたときに、おなかや胸がちぢむのを感じ、心の中で「縮み、縮み」と実況する。
- 雑念が浮かんできた場合は、「雑念、雑念」と心の中でつぶやき、「戻ります」と言って、再び呼吸に意識を戻す。
この手法は、以下のサイトを参考にしました。音を使った瞑想についても解説されているので、気になった方は合わせてご覧ください。
フリーライティング
瞑想と同様、自分の潜在的な思考に目を向けようとするのがフリーライティングです。これは、自分が今考えていることや悩みについて、深く考えすぎず自由に書き出していく手法で、ライティングセラピーとも呼ばれています。1回あたりは5~15分程度がおすすめだと言われています。
やり方は様々ありますが、以下に代表的なやり方を紹介します。
- 紙とペン、もしくはタブレットとスタイラスペンを用意する
- 漢字表記や誤字脱字、文法などは気にせず思いついたことをできるだけ速く書く
- フリーライティングの時間が終わるまではノンストップで書き続ける
この手法は、以下の動画を参考にしました。この動画は、学術論文を書く学生向けに作成されたものですが、社会人や高校生にも十分役立つ内容となっているので、気になった方は合わせてご覧ください。
メタ認知の理解やトレーニングに役立つおすすめ書籍3選
最後に、メタ認知についてもっと深く理解したり、トレーニングをしたりするのに役立つおすすめの書籍について紹介します。
『メタ認知で〈学ぶ力〉を高める 認知心理学が解き明かす効果的学習法』(北大路書房)
大阪大学大学院人間科学研究科教授の三宮真智子氏が、メタ認知に関する基本的知識や、それを高める方法、注意すべき点などについて網羅的に解説した書籍です。大学教授による解説のため、内容の確実性は折り紙付きです。メタ認知を学習や教育に活かす方法についても説明されているため、社員研修に活用したい社会人の方や、学校教育にメタ認知の考え方を応用したい学校の先生方にも参考になるでしょう。
『東大メンタル 「ドラゴン桜」に学ぶ やりたくないことでも結果を出す技術』(日経BP)
非認知能力の研究者である岡山大学准教授の中山芳一氏と、弊社代表で東大への逆転合格の経験を持つ西岡壱誠が、非認知能力を使った結果の出し方について解説した書籍です。「ドラゴン桜」で紹介された手法が実際のマンガと共に登場するので、非常に親しみやすく、具体的なイメージもしやすい書籍となっています。メタ認知以外の非認知能力も取り扱われているので、非認知能力全般に関心のある方に特におすすめです。
『メタ思考トレーニング 発想力が飛躍的にアップする34問』(PHPビジネス新書)
『地頭力を鍛える』『具体と抽象』などのベストセラーで知られる細谷功氏による、メタ的な思考を鍛えるためのトレーニング問題が多く収録された書籍です。新書で、一つひとつの問題は比較的軽いため、サクサクと読み進めながらメタ認知・メタ思考を鍛えることができます。
まとめ メタ認知能力を鍛えて仕事に生かそう!
いかがでしたか? メタ認知とはなにか、高い人にはどんな特徴があるか、どうやって高めればいいか、などについてご理解いただけたでしょうか。
トレーニングによってメタ認知を鍛え、日々の仕事や学習に活用してみてください。
監修者
西岡壱誠(にしおか・いっせい)
1996年生まれ。偏差値35から東大を目指すも、現役・一浪と2年連続で不合格。崖っぷちの状況で開発した勉強法により、偏差値70、東大模試で全国4位になり、東大合格を果たす。そのノウハウを全国の学生や学校の教師たちに伝えるため、在学中の2020年に株式会社カルペ・ディエムを設立、代表に就任。全国の高校で「リアルドラゴン桜プロジェクト」を実施、高校生に思考法・勉強法を教えているほか、教師には指導法のコンサルティングを行っている。テレビ番組『100%!アピールちゃん』(TBS系)では、タレントの小倉優子氏の早稲田大学受験をサポート。著書『「読む力」と「地頭力」がいっきに身につく 東大読書』はシリーズ累計40万部のベストセラー。
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