現在、教育現場でも重要視されるようになってきた子どもの思考力。文部科学省の新しい学習指導要領に加賀下られている3つの「生きる力」のひとつにあげられています。思考力は、現代を生きる子どもたちが未知の状況に対応するために欠かせない力の一つといえるでしょう。地球温暖化、ウイルス蔓延、経済問題など、激動の時代を生きる今の子どもたち。本記事では、これから生きる子どもたちに必要な能力とその育て方について、具体的に解説していきます。
思考力は生きる力?!
思考力がなぜ「生きる力」となるのか。ここでは、思考力とは具体的にどのような力であり、子どもが成長する過程で将来的にどのような場面でいかされるのかについて、具体的な事例を織り交ぜながら紹介していきます。
そもそも思考力って何?~自分で考える力とは~
思考力とは
そもそも思考力とは何でしょう。思考力は、一言で説明すると「考える力」。しかし、実はこの「考える力」にはさまざまな種類の力が含まれるのです。東京大学の西成教授は、思考力を7つの考える力に分類しており、これらはどれも問題や困難に対処する力に繋がるものだと伺ってます。その中でも、子どもたちが優先的に鍛えるべき代表的な2つの思考力を紹介します。
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→「思考力」は鍛えられる!東大・西成教授が教える7つの思考習慣トレーニング
論理的思考力(ロジカルシンキング)
論理的思考力とは、物事を体系的に捉えて筋道を立てて考える力であり、あらゆる思考力の礎ともいえるものです。別名、ロジカルシンキングとも言います。具体的には、計画を立てたり問題を解決をしたり、さらには大きな決断をするときに大いに役立ちます。物事を正確に把握して論理的に考えることができるようになると、先のことや未知の問題についてもあらゆる状況を想定して場合分けし、最適な答えを導くことができるようになるのです。
批判的思考力(クリティカルシンキング)
現代世界は、さまざまな情報や選択肢であふれています。玉石混合の情報を取捨選択することは、とても容易ではありません。そこで重要となるのが、批判的思考力。英語で、クリティカルシンキングと呼ばれるものです。批判的思考力とは、物事を疑って確かめる力のことをいいます。なぜ、物事を「疑う」ことが大切なのでしょうか。疑うことは、判断を下す前に一度立ち止まって考えるきっかけを与えてくれるのです。あらゆる情報を鵜呑みにすることなく自分の力で判断することは、情報に振り回されたり予想外の不利益をこうむったりすること防ぎます。さらに、批判的思考力が身につくと客観的にものごとを捉える習慣がつき、周囲だけでなく自分自身を客観的にみつめて研磨することができるようになります。
多面的思考力
多面的思考力とは、物事を多面的に捉えて考える思考力です。主観的な立場から考えるのではなく、自分とは異なる視野や視点に切り替えて考えるために用いられます。多面的思考力が高い人は思考の多様性に富んでおり、幅広い価値観に寛容的です。多面的思考力ではさまざまな角度から物事を分析・判断するため、一つの事象から幅広い発見や気づきを得られます。多面的思考力の育成では、物事の見えていない部分にも視野を及ばせるための想像力・洞察力なども鍛えられるでしょう。
日常で思考力を使う場面
情報の取捨選択
情報の選別に関してよく耳にするのが、インターネット上の情報でしょう。しかし、私たちが日常生活において情報に触れる機会は、インターネットを利用しているときに限りません。人と会って話すとき、会話の一定割合は情報交換が占めているのではないのでしょうか。私たちは、生活のあらゆる場面で無意識のうちにさまざまな情報に接しているのです。しかし、思考力を働かせず一方的に情報を吸収してしまうと、混乱して正しい判断ができなくなってしまいます。そのような事態を防ぐためにも、先に述べた批判的思考力をフル活用して客観的に物事を評価する力が必要となるのです。
予想外のことへの対応
2020年以降のコロナウイルスの流行は、ほとんど誰も予測ができなかった出来事の一つでしょう。世の中が予期せぬ出来事に直面する中、真っ先にオンライン授業を導入したのが東大でした。その秘訣として、迅速な環境整備やシステム問題の評価、学生に向けた理解しやすい情報発信などが指摘されていますが*、どの対応をとっても入念な準備と思考が欠かせません。また、大学に限らず世の中にはパンデミックの状況を逆手に取って、新しいことに挑戦したりビジネスを拡大したりすることに成功した人もいます。こうした人々は、不測の事態を経験したときこそ、自らの思考力を最大限活用して機転を利かせることができるのです。
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→各校つまずくコロナ禍でのオンライン授業、東大が「異例の速さ」で始められたわけ
夢や目標を実現するため
夢や大きな目標を実現するためには、計画性をもって行動することが不可欠です。しかし、目標を達成することはもちろん、そのための計画を立てることも簡単なことではありません。実現したいことから逆算して、与えられた時間や環境の中でいかに工夫するか論理的な道筋を立てなければなりません。 また、画の内容自体が実現困難なものとなってしまっては元も子もありません。計画を実行する際に、途中で立ち止まって自分の状況や計画の実現可能性を客観的に評価する力こそが、目標達成には不可欠です。戦略的に目標を実現する方法について詳しく知りたい方は、相生晶吾さんの著書『東大式 目標達成思考』をぜひ手に取ってみてください。
思考力のない人の特徴
よく考えずにすぐ調べてしまう
インターネットが普及したおかげで、世の中は便利な時代になりました。何か疑問に思うことや気になることがあれば、思いついた単語で検索するとすぐに何かしらの情報が手に入ります。しかし、すぐに検索してしまうことは危険です。なぜ問題なのでしょう。ポイントは、「すぐに」調べてしまうということにあります。自分で立ち止まって解決策を考えることなく、無意識に携帯やパソコンに自分の問いを「すぐに」投げかけてしまっては、どうしても考える力が身につかなくなってしまいます。どんな問題でも、解決策は十人十色です。問題解決のファーストステップは、自分のおかれた状況や求めていることを捉えて自力で解決策を考えてみることなのです。
周りに影響されやすい
私たちは、日常生活において常にさまざまな物事を見たり聞いたりしています。しかし、受け取る情報の全てが自分にとって必要かつ有用な情報とは限りません。すなわち、自分が見聞きするものを、全て自分自身の中に取り込む必要はないのです。しかし、思考力のない人は、自分の見聞きしたものから有用なものを見極めることができません。その結果、あらゆるものをそのまま吸収してしまい、周囲の影響をうけやすいのです。人間はみな多少なりとも周囲の影響を受けるものですが、常に周囲に振り回されては自分の軸を見失いかねず、結果的に人々から信頼されにくくなってしまうかもしれません。
不安になりやすい
思考力のない人は、自分で考えることなく他人から得た情報を鵜呑みにしたり筋道が不確かなまま判断してしまったりする傾向があります。そのため、決断にいたる道筋が不明確となってしまい、自分の行動や決断に自信が持てないことがときどきみられます。さらに、自分の不安に対処するために、自分の行動や決定を考察したり改めたりすることができず、なかなか不安を払拭できない状態に陥ることもあるでしょう。
人生は行動と決断の連続です。筋道立てて物事を考えたり客観的に自分の行動を考察する力は、自信をもって生きていくことに直結するのです。
思考力のある人の特徴
判断力がある
自分で考えることが得意な人の特徴の一つに、判断力があることがあげられます。論理的に物事を考えることが得意な人は、比較的短時間でさまざまな情報を整理して筋の通った考えを構築することができます。また、自分の状況などを客観的に捉えるスキルにも長けているため、考えが閉塞的になりにくく視野を広く保つことができるのです。
冷静で何事にも動揺しにくい
思考力は、未知の状況に対応する力です。日常的に考える習慣のある人は、不利な状況や不測の事態に陥った場合でも、アンテナを張って情報を取集し、そこから解決策を編み出すことができるのです。また、普段から考える習慣のある人は、どんな状況でも自分の力で改善することできることを自身の経験からわかっています。結果的に、多少予想外のことが起こっても、冷静に物事を判断することができます。
話に説得力がある
頭の中が整理されている人は、自分が伝えたい内容も容易に整理しやすくなります。そのため、相手にわかりやすく魅力的に説明することが得意なのです。また、視点を変えて聞き手の立場から内容を捉えることもできるため、どうすれば相手の意識を惹きつけることができるかを想像することができます。思考力があると、人々を説得する力も自然と身に着くのです。
計画性がある
思考力のある人は、頭の中を整理することが得意です。整理することとは、雑多なものの秩序を整えて、不要なものを取り除くことを意味します。それと同じようなことを自分の頭の中で行うのです。具体的には、やるべきこととそうでないことを分類し、やるべきことに優先順位をつけます。その結果、計画性が生まれて物事が遂行しやすくなるのです。
思考力を鍛えるポイント
子どもの思考力が育まれやすい環境には、いくつか共通の特徴が存在します。最後に、思考力が身に付きやすい環境をつくる上で、意識したい重要なポイントをいくつかご紹介いたします。
家族でコミュニケーションを積極的にとる
子どもたちの思考力を鍛えるうえで、もっとも有効な手段が対話です。しかし、家庭内でコミュニケーションをとる際に、子どもが壁を感じてしまってはなかなか会話がうまく進みません。普段から、話が積極的に飛び交う環境や雰囲気を家族みんなでつくりだすことが、思考力を育むための大前提です。日常の中で「〇〇くん・ちゃんはどう思う?」「なんでそう思うの?」と聞いてみたり、一緒に問題を解決したりしてみましょう。
否定せず対等に向き合う
子どもにとって、コミュニケーションを取る上での壁のひとつが、「相手にされない」ことに対する恐れです。どうせ否定されてしまうと思ってしまうと、誰でもなかなか意見や考えを述べにくくなってしまいます。最初は話にあまり筋が通っていないようでも、考える練習をしていく中で次第に論理的な話ができるようになります。初めから論理的に考えたり話したりすることができる子など滅多にいないのです。対等な目線に立って否定せずに話を聞いてあげることで、子どもたちも積極的に考える練習ができ、思考力が向上していくでしょう。
食卓は思考力養成の絶好のチャンス!
コミュニケーションを取りたくてもなかなか子どもと話す機会が見つけられない、とお悩みの方もいるかもしれません。実は、皆が集まりやすい食卓こそが、思考力養成につながる会話のための絶好の場なのです。最近のニュースや好きなこと、悩んでいることなど、お子さんに向けて積極的にいろいろな話を投げかけてみましょう。日常の中で、会話のしやすい空間を設けることが、子どもの思考力を育てる最大の鍵なのです。
東大生の保護者直伝、思考力が身につく環境づくり
いざ子どもたちの思考力を鍛えたいと考えても、具体的に何から始めればいいのかお悩みの方もいるかと思います。子どもたちが思考力を身に着ける第一歩は、考える習慣をつくることです。ここでは、東大生の保護者が実際に行っていたことをもとに、子どもたちの思考力を育む環境や仕掛けづくりのポイントを紹介していきます。
①考えるきっかけをつくる
読書・映画鑑賞
本や映画は、多くの思考が重ねられた末に作り上げられるものです。入念な思考が練りこまれた作品は、思考力が発展途上にある子どもたちの土台づくりに最適な材料といえます。また、本を読んだり映画を観るには、通常少なくとも1〜2時間ほどの時間が必要です。長い時間、ひとつのことに真剣に向き合う習慣も、のちに物事を考え抜く力として役に立ってきます。
映画は、どの年齢で観ても新たな発見を得られる名作がおすすめです。宮崎駿監督のジブリ映画やディズニー映画はもちろん、『サウンド・オブ・ミュージック』や『ライオンキング』などのミュージカル映画は音楽を通して楽しみながらストーリーを追うことができる親しみやすい作品でしょう。また、一見難しそうな印象を受けるチャップリン映画も、はじめはコメディー独特のおもしろい場面を楽しみながら、年齢が上がって成長する過程で繰り返し観ることで映画のメッセージを少しずつおのずとつかむことができる奥行きのある映画です。
*チャップリン『モダン・タイムズ』の名シーンはこちらhttps://www.youtube.com/watch?v=UwahG1s4dqI
さまざまな国の社会や文化を学ぶ
ほとんどの人は、自分の国で生まれ育つため、自国の文化や社会に揉まれながら育っていきます。しかし、慣れ親しんだ環境では予想外のことに接する機会が少なくなってしまう可能性があります。そこで、本やドキュメンタリーなどを活用して、幼いころからさまざまな国の文化や社会について積極的に学ぶことで、子どもたちの思考によい刺激を与えることができるようになります。多様なものに触れることで「当たり前」が変化していき、さまざまな角度から物事を把握する練習を積めるのです。
ニュースや新聞に触れる
小学校高学年や中学生になってくると、しだいにニュースや新聞の内容が理解できるようになっていきます。世の中の出来事に触れることは、日々アンテナを張ってさまざまな情報を取集する習慣づくりにつながります。すなわち、思考の材料を蓄積することができるのです。また、自分の生活範囲外のできごとに日常的に触れることで、「なんで?」と考えるきっかけが生まれます。東大生の中には、小中学生の頃に小中学生向け新聞を購読していた人もいます。親しみやすいものから始めることが継続への鍵です。
また、ニュースや新聞を読むことができたら、自分の意見を家族などに話してみましょう。考えた先に、自分なりの意見を持つ練習になります。
②自分の意見を説明する機会をつくる
好きなものについて聞いてみる
人はみな、自分の好きなものとなると自然と熱心に話すものです。ですから、まずは自分の好きなことを説明する練習から始めてみましょう。例えばお子さんが野球に熱中しているならば、なぜ野球が好きなのか、野球のどこがおもしろいと思うのか、尋ねてみましょう。話が盛り上がってきたら、「野球の一番の魅力は何?」や「野球が面白いと思ったきっかけは?」などと、より突っ込んだ質問をしてみるといいかもしれません。相手に何かの魅力を伝える練習は、話に説得力を持たせる力を養うのです。
時事ニュースについて話し合う
新聞やテレビニュースに触れる習慣がついたら、次は接したニュースについて話し合う練習を始めてみましょう。時事問題について話し合うとなると難しそうな印象を受けますが、そんなに複雑なことをする必要はありません。まずは面白そうな話題に接するたびに、お子さんに感想を聞いてみましょう。感じたことや考えたことを発する機会をつくりだすのです。お子さんも、難しいことを言う必要はありません。自分が接した物事に対して、一度立ち止まって自分がどう思ったのか振り返ることが、能動的に考える習慣につながるのです。
③自力で考える習慣をつける
やりたいことを実現のための計画を立てる
例えば、お子さんがサッカー部でレギュラーになりたいと思っているとします。そこで、ついつい「頑張って」の一言で終わってしまうところ、もう一言踏み込んだ質問をしてみましょう。「どの大会までにレギュラーになりたいの?」ときいて、目標を達成させたい時期を聞いてみるのです。そこから、さらにこの大会までに目標を達成するためには、いつまでにどのようなスキルが必要なのか聞いてみましょう。こうして、目標から逆算して具体的な計画を考えることで、先を見据えて行動する力が養われます。
問題が起こったときは一緒に解決策を考える
子どもたちは、学校や部活で人間関係などさまざまな問題に直面して悩むことも少なくありません。しかし、それらは子どもたちにとっては未知の問題であっても、大人からするとすでに経験した問題であることがほとんどです。そのため、親心からついつい解決策を言ってしまいたくなってしまいます。しかし、そこで一度立ち止まって「どうすればこの状況がよくなると思う?」と問いかけてみましょう。問題に直面したときに一度自力で考える習慣は、すぐに答えを調べずに自分で解決策を導くスキルとなります。
もめごとは互いに納得がいくまで話し合う
特に思春期のお子さんの場合、親子げんかは日常茶飯事かもしれません。しかし、けんかこそが思考力を育てる絶好のチャンスとなりうるのです。けんかの根幹は、意見の不一致です。なぜお子さんが、そのような意見を持っているのか必ず聞いてみるようにしましょう。意見の対立する相手に、納得のいくように説明することは容易なことではありません。意見が対立したときこそ、自分の考えをわかりやすく説明する仕掛けをつくりましょう。
小学生からできる思考力養成法
上記の中には、小学生のお子さんにはなかなか難しい取り組みもあるかもしれません。しかし、本や映画などは年齢に応じてさまざまな作品があるため、どの学年からでも親しむことができます。また、普段から会話の中で「なぜ?」と問いかけるようにしてみましょう。周囲の物事に対して「なんで?」と疑問をもつことは、考える力を身に着ける上で重要な最初のステップとなります。
監修者
西岡壱誠(にしおか・いっせい)
1996年生まれ。偏差値35から東大を目指すも、現役・一浪と2年連続で不合格。崖っぷちの状況で開発した勉強法により、偏差値70、東大模試で全国4位になり、東大合格を果たす。そのノウハウを全国の学生や学校の教師たちに伝えるため、在学中の2020年に株式会社カルペ・ディエムを設立、代表に就任。全国の高校で「リアルドラゴン桜プロジェクト」を実施、高校生に思考法・勉強法を教えているほか、教師には指導法のコンサルティングを行っている。テレビ番組『100%!アピールちゃん』(TBS系)では、タレントの小倉優子氏の早稲田大学受験をサポート。著書『「読む力」と「地頭力」がいっきに身につく 東大読書』はシリーズ累計40万部のベストセラー。
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