『東大入試徹底解明 ドラゴン現代文』の著者である相生昌悟は、高校生の頃からずっと、現状の現代文教育に問題があると感じていたと言います。それが、「大学入試、とくに東大現代文に対する正確性の高い解答が存在しない」ということです。
『ドラゴン現代文』は、この問題に対するひとつの応答として出版されました。本書の「おわりに」には、その想いを強く表したものになっています。今回はそんな「おわりに」を全文公開いたしますので、ぜひご覧ください。
『ドラゴン現代文』とは?
『東大入試徹底解明 ドラゴン現代文』は、『ドラゴン桜』のメソッドで東大現代文を攻略する参考書です。
【本書の特徴】(Amazon商品紹介より一部抜粋)
(1) 受験の土台となる読解力を「基礎」から積み上げる
1章(理論編)では、桜木建二が『ドラゴン桜』原作を典拠として、入試現代文、そして全ての文章を“正しく”読むためのスキルをあますところなく伝授。
(2) 文章を「構造」化して読み解くワザを現役東大生が再現
2章(実戦編)では、東大に現役合格し、現在は「リアルドラゴン桜プロジェクト」を推進する講師でもある相生昌悟が東大現代文の過去問を解説。
(3) 東大入試から厳選した8題を「図解」して完全解説
2章(実戦編)の「全体構造図」では、問題文全体を4つの構造(同等構造・類比構造・対比構造・因果構造)で整理。
おわりに(全文公開)
本書を終えるにあたり、私が本書に込めた想い、私が本書を通じて提起したかった問題についてお話しさせていただければ、と思います。
私が本書に込めた想いとは、「これまでにない新たな現代文参考書を出版することで、世に問題提起をしたい」というものでした。その想いを抱くに至ったきっかけは、自らが高校生だった頃に、「難関大レベルの現代文」を学習するための良質な教材がなく、苦労させられた、という経験にあります。
既存の教材は、東京大学が総合的な国語力の中心であると定義している「(1)文章を筋道立てて読み取る力」・「(2)それを正しく明確な日本語によって表す表現力」(本書のテーマに沿って言えば「構造化」する力)を身に付けるには足りない、不十分なものばかりでした。より具体的に言えば、「この程度の解答・解説では大学の要求する水準を到底満たしていない」・「この解答・解説には明白な誤りが含まれている」と感じさせるような教材しかなかった、ということです。その意味で、当時の私は、現代文を学習する上で目指すべき理想状態が明確に示されていない状況にあった、ということができます。
それは、自分の成長を否定されているということに他なりませんでした。というのも、当時の私は、次のような流れを辿ることによって成長することができるのだと考えていたからです。すなわち、第一段階として、自分の目指すべき理想状態を把握する。第二段階として、理想状態と比較しながら現状を分析する。第三段階として、理想状態と現状との間のギャップを埋めるための方法論を構築する。第四段階として、その理想把握・現状分析・方法論構築を前提として勉強に取り組む。そして第五段階として、自分が成長していく。このように思っていたということです。しかし、当時の私には理想状態が明確に示されていないわけですから、第一段階のところで止まってしまいます。ですから当然、「構造化」する力を身に付けることもできないまま、高校生活を終えることになってしまったのです。
このような現状が改善されることなく放置されてきた背景には、「正確性の高い解答・解説を示したとしても、生徒はどうせ試験本番で再現できない。だから、正確性の高い解答・解説を示さなくとも良い」という考え方があるのではないか、という気がしています。というのも、このような考え方を主張される方が多くいらっしゃるからです。
しかし、この考え方は妥当性を欠くように思います。確かに、正確性の高い解答・解説が示されたとしても、生徒が試験本番で再現できる可能性が低いということは否定できない事実でしょう。ただ、それはあくまで可能性の話。生徒が実際にどのような結果を残すのか、ということは生徒自身が試験本番で決めることであり、教える側の人間があらかじめ独善的に決定すべきことではありません。
そうであるとすれば、教える側の人間に求められているのは、まずもって正確性の高い解答・解説を示し、生徒が目指すべき理想状態を明らかにすることでしょう。それをすることによって、理想把握・現状分析・方法論構築を前提として勉強に取り組むことができるようになり、「構造化」する力が身に付いていくわけなのですから。
教育的配慮から正確性を欠いた解答・解説を示す必要があるとしても、それは正確性の高い解答・解説を示した後にすべきことです。そうであるにもかかわらず、正確性を欠いた解答・解説のみを示せばそれでよい、とするのは不当であると言わざるを得ません。少なくとも私はずっとそう思ってきましたし、同じように思っている生徒が少なくないことも知っています。
しかし、現状に苦労させられた、現状を放置しているのは不当である、と頭の中で思っているだけでは現実は何も変わりません。それは結局何も思っていないのと同じことです。そうであるとすれば、何としても自分が具体的な形で問題提起をしなければならない。自分が参考書を出版する形で「現状を放置していて本当に良いのか」と世に問いかけ、生徒たちが自分と同じ苦労をしないで済むようにしなければならない。そう考えるようになりました。これが、私が本書に込めた想いです。
そして、時間的制約や能力的制約がありながらも、多くの方々にお力添えいただいたおかげで、何とかその想いを形にすることができました。あの頃の自分がこの本を読んだとしても満足してくれる、そう確信しています。もちろん、本書がどんな疑義も差し挟む余地のないものであると言うつもりはありませんし、そのようなことはあり得ません。実際、原稿の締め切り日に至るまで、原稿の修正をしなかった日はありませんでした。そして、もしも締め切り日が一日でも先に延びていたのならば、本書はまた違った形のものとなったに違いありません。つまり、まだ修正すべき簡所は残っており、その意味で本書も決して完壁なものではないということです。したがって、完璧な状態がいかなるものなのか、という点についても私からの周題提起とし、皆さんの不断の検討に託させていただければ、と思います。
本企画は、株式会社文英堂の益井英郎社長のお力添えなしには絶対にあり得ないものでした。何の実績も社会経験もないただの大学生が提案した企画であるにもかかわらず、何のためらいもなしに「ぜひ私たちにもお手伝いさせてください」とおっしゃってくださった瞬間は今でも鮮明に覚えています。心より感謝申し上げます。
執行役員の吉田文広氏、顧問編集者の柳田香織氏、編集部の武井愛子氏には、私の想いを一人でも多くの人に届けるにはどうすれば良いのか、という視点から様々なご指摘をいただきました。おかげさまで、企画当初とは比べものにならないほど良い参考書を作ることができました。心より御礼申し上げます。
また、本書の監修をしてくださった柳生好之先生や、株式会社カルペ・ディエムの西岡壱誠氏、株式会社コルクの中村元氏にも大変お世話になりました。皆さまにお力添えいただいたからこそ、こんな私でも最後までやり遂げることができたのだと思います。本当にありがとうございました。
さらに、解答・解説を検討するにあたっては、私と同じ東大法学部の加藤友樹君をはじめとする友人たちと数時間にわたる議論をすることも度々ありました。あの議論があったからこそ、私は自信をもって本書を出版することができます。ありがとう。
最後に、本書をかつての自分と同じ境遇にある全ての人に捧げたいと思います。
相生昌悟
紹介
以上の内容を含む『ドラゴン現代文』は好評発売中!
この「おわりに」を読んで著者の思いに共感してくださった方、「そこまで言うならどんな解答・解説をするのか見てみたい」と思った方は、ぜひ本書を手にとってみてください。
東大入試徹底解明 ドラゴン現代文
文英堂 (2022/10/4)
「リアルドラゴン桜プロジェクト」の東大合格請負人集団と教育出版社文英堂がコラボ!
東大合格請負人・桜木建二が「現代文の読み方・解き方」を解説した理論編と、現役東大生講師・相生昌吾が厳選8題の東大過去問を精密に解説する実戦編の2章構成。
また、本文について著者本人が解説した動画を「ドラゴン桜チャンネル」で公開中!
こちらもぜひご覧ください。