東大生が解説!「非認知能力」って何? 具体的な能力と伸ばし方!

近年教育現場では、教科学習だけではなく、自分で考えて答えを導き出す探究学習が必要とされています。教育現場で実施される教育の形が少しずつ変わる中で、特に注目されているのが「非認知能力」の向上です。言葉だけではどんな能力なのか?どうやったら向上させられるのか?なかなかピンとこないと思います。

そこで今回は、非認知能力の専門家である、岡山大学准教授の中山芳一先生のインタビューを中心に、「非認知能力」が注目されるようになった背景・内容・種類から、学校や家庭で実施できる「伸ばし方」まで紹介したいと思います。

目次

 そもそも「非認知能力」とは?

「非認知能力」について考える際に必要なのが、まずは「認知能力」について知ることです。認知能力はいわゆる学力と同じで、学力テストや知能テストで測ることができて、客観的な点数にできる力のことを指します。例えば、テストの点数が高いから、この教科は得意なんだね、と誰もが客観的に評価できる力です。

それに対して「非認知能力」は、文字からわかるように、認知能力ではない能力のこと。つまり、誰もが客観的に評価できない能力のことです。中山准教授はこのように話します。

「例えば、優しさってどれくらい?  と考えたときに、人によって評価が違ってきますよね。そういった客観的に評価できないもので、私たちの内面や人格形成に深くかかわってくる力を総称して、非認知能力と理解してもらって大丈夫です。」

その他にも、コミュニケーション力や意欲など、数値化できないけれど必要とされている能力を非認知能力と呼びます。

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文部科学省による「非認知能力」

では、文部科学省ではこの「認知能力」と「非認知能力」をどのように捉えているでしょうか。学習指導要領には、次のように記載されています。

「3(略)その際、児童(生徒)の発達の段階や特性等を踏まえつつ、次に掲げることが偏りなく実現できるようにするものとする。
(1)知識及び技能が習得されるようにすること。
(2)思考力、判断力、表現力等を育成すること。
(3)学びに向かう力、人間性等を涵養すること。」
※文部科学省学習指導要領より

つまり、資質・能力は3つの柱「知識・技能」「思考力・判断力・表現力等」「学びに向かう力・人間性等」によって形成されるとされているのです。

ここでいう「知識・技能」は「認知能力」、「思考力・判断力・表現力等」「学びに向かう力・人間性等」は非認知能力にあたります。学校における教科学習だけではなく、生きていく上で必要になっていく力の基礎を学生のうちから意識し、身につけていく必要があります。

非認知能力が注目されるようになった背景とは?

きっかけはアメリカの研究

非認知能力が注目された背景としては、1960年代にアメリカで行われた「ペリー就学前プロジェクト」があります。これは、経済的に恵まれない3歳から4歳のアフリカ系アメリカ人の子供たちを対象に行った研究で、就学前教育を行った子供たちと行っていない子供たちを比較しています。その結果、教育を行った子供たちはよりIQが高く、犯罪率や生活保護受給率が低いことがわかりました。幼児教育の重要性を示したのです。

しかしながら、3歳のときはIQに差があっても、10歳ではIQに大きな差は見られず、14歳くらいになるとまた同じように差が開き始める、という一見矛盾した結果が得られていました。

この矛盾の解決策を提示したのが、アメリカの経済学者ジェームズ・ヘックマン教授です。彼は3歳の子供たちは認知能力が向上したのではなく、粘り強さなどの非認知能力が向上したために、3歳時点でIQが上がったのだと考えました。そして彼は著書「幼児教育の経済学」のなかで、幼少期に非認知能力を育む幼児教育の重要性を訴えました。彼はノーベル経済学賞を受賞し、非認知能力という言葉が世界中から一気に注目されるようになったのです。

情報の溢れた現代社会では、AIなどに代替され得ない思考力が必要とされ、非認知能力の育成はますます重視され始めています。日本でも先ほど述べたように文部科学省が、学習指導要領の中にこれからの時代を生きる子どもたちに必要な力として定義するのは、こういった背景があるのかもしれません。

【保存版】非認知能力一覧

非認知能力がどういった能力かはわかったと思いますが、具体的にはどのような能力が非認知能力と呼ばれるのでしょうか?その分類方法、定義の仕方はさまざまなので、今回はその一例をご紹介します。

非認知能力の種類

非認知能力は、それぞれの力の特徴から「自分を高める力」「自分と向き合う力」「他者とつながる力」の三つに分けることができます。このうち、自分に対する力、つまり対自的な力が前者の二つ、それとは反対に対他的な力が一つ、となっています。それぞれの力について、より具体的な能力を以下の表にまとめました。

スクロールできます
自分と向き合う力自制心感情の起伏などを我慢する能力、精神力
忍耐力粘り強く頑張れる能力
レジリエンス困難の際に気持ちを切り替え、本来の力を発揮する能力
メタ認知自分の感情や考えを客観的に捉え言語化する力
主体性自分の意志で行動する姿勢、遂行する能力
自分を高める力意欲やる気、集中力
向上心新しいことに挑む気質
グリット挫折をしても最後までやり抜く能力
他者とつながる力協調性相手のことを考え、共に行動する力
コミュニケーション力リーダーシップ、思いやり、協調性
問題解決力自ら問題を発見・解決する能力
創造性クリエイティビティ、工夫をする能力
参考:東京書籍, 2020『家庭、学校、職場で生かせる!自分と相手の非認知能力を伸ばすコツ』

自分と向き合う力

自分の内面と向き合い、自分を維持・調整するための力をまとめて「自分と向き合う力」と呼びます。この能力が高いと、自分のことを誰よりも深く理解し、様々な感情や行動をコントロールできるようになります。

自制心

自制心とは、一言で言うと「自分を制御する力」つまり、自身の感情や行動をコントロールする力のことです。自制心がある人は感情の波が少なく、集中力が高いです。意志の力が強くて目標を達成できることも特徴です。自制心があると、嫌なことをされても感情的に怒らなかったり、勉強と遊びのメリハリをつけることもできます。

忍耐力

忍耐力とは、困難や逆境などつらい状況でも耐え、目標に向かって努力し続ける力のことです。就活などの自己PRでもよく聞く言葉ですね。忍耐力がある人は成績が伸びなくても途中で投げ出したりせず、最後まで理解しようと頑張ります。

レジリエンス

レジリエンス(resilience)とは、「回復力」「弾性(しなやかさ)」を意味する英単語です。「レジリエントな」と形容される人物は、困難な問題、危機的な状況、ストレスといった要素に遭遇しても、すぐに立ち直ることができます。忍耐力と似ていますが、レジリエンスは一度落ち込んでもそこから回復できるような力のことを言います。

メタ認知

メタ認知とは、自分の認知活動、つまり考える・感じる・記憶する・判断するなどの認知行動を客観的に捉えることです。自分自身を客観的にみて、コントロールすることのできる能力を一般にメタ認知能力と呼んでいます。例えば、自分は人前で話すことは苦手だけれど、一対一で話すときは自分の意見をはっきり言えるな、というように自分の得手不得手を分析し、理解する能力です。

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主体性

主体性とは、自分の意志や判断に基づいて行動し、それを責任を持って遂行する能力を指します。主体性のある人は行動力も非常に高いです。先生や上司に指示されるのを待つのではなく、自分で考えて行動できることを指します。

自分を高める力

これも自分の内面に関わる力ですが、この力は自分を変革し、より良い状態に変化させることのできる力です。この力が高いと、何事にも臆することなく、より良い現状を目指して新たなチャレンジを続けることができます。

意欲

意欲とは、自ら進んで望み、物事を行おうとする心を指し「モチベーション」とも呼ばれています。意欲の高い人はどんな活動に対しても積極的に取り組み、自分に何ができるかを考えます。

向上心

現状に満足せず、より良いものを目指して努力することです。そのために新しいことにもどんどん挑戦していけるような能力を指します。向上心の高い人は、先生や上司に指示されていないことにも自ら進んでチャレンジし、自分を磨いていこうとします。

グリット

グリット(Grit)は、「気概・気骨」と訳される英語で、どれだけ挫折しても粘り、やり抜く力のことです。この言葉は社会的に成功している人が共通してもつ心理特性だとして、近年注目を集めています。

他者とつながる力

この力は、先述までの対自的な力とは異なり、対他的な力です。他者と共に遊んだり活動したりする際に必要で、学校生活などの集団生活では特に重視される力です。

協調性

協調性とは、周囲のことを気にかけ、立場や主張が異なるメンバーとも円滑にコミュニケーションを取る能力です。どんな人とでも同じ目標に向かって共に行動できることを指します。グループワークなどでリーダーシップを発揮し、自分の役割を見極める力です。

コミュニケーション力

コミュニケーション力とは、他の人に対して情報共有をしたり、円滑な意思疎通を図る能力のことです。言語的な情報伝達と、非言語的なコミュニケーション、つまり身振りや手振り、声のトーンや抑揚などの二つの手段があります。コミュニケーション力が高い人は、初対面の相手でも即座に意思疎通をして、グループワークなどを円滑に進めることができます。

問題解決力

問題解決力とは、問題を見つけ出し、分析して原因を洗い出し、その問題を解決に導く能力のことです。正しく問題を認識し、いろいろな観点から解決策を考え、実行することを指します。自分が問題に直面したときに、自責思考のみに囚われることなく、外部のあらゆる要素を考慮して考えることのできるようになる能力です。

創造性

創造性はクリエイティビティとも呼ばれ、新しい企画や解決策を作り出す能力を指します。また、既存のものに対して何か工夫を施すことも創造性と呼ばれます。創作活動や作文などで自分の個性を出しながら新しいものを作っていくような能力です。

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非認知能力の伸ばし方

では子どもの非認知能力を伸ばすには何が有効なのでしょうか。今回は学校の先生や保護者に、実践して欲しいことことをまとめました。

学校ができること

子どもたちの非認知能力を育むために、全国の小中高や教育センターなどで、非認知能力を高めるための教育を実践している中山准教授へのインタビューをもとに、すぐに取り組めるものを抜粋してご紹介します。

非認知能力を具体化・言語化

中山准教授によると、抽象的な目標を具体化、言語化することでより非認知能力を伸ばしやすくなります。

例えば、学級目標が「たくましく、心豊かに」だったとします。

素晴らしいスローガンですが、これだけでは具体的に「何が、どのように」なったら非認知能力がのびたのか、つまり「たくましく、心豊かに」なったのかがわかりません。このままでは先生たちの間に共通認識も生まれず、学校としての取り組みもうまくいきません。

非認知能力はかなり包括的な言葉なので、それを限定的にするために、最初に学校教育目標を具体化することが必要なのです。その学校で育てたい子どもの未来像から、その未来像を実現するために必要な非認知能力を考え、さらにその非認知能力が伸びたとわかる行動指標を設定するという流れです。

こうしたステップを重ねることで、行動指標が設定され、それに基づいた指導ができるようになるのです。

保護者ができること

子どもたちが非認知能力を伸ばすために、一番簡単に実践できるのは、「褒めて伸ばす」「注意してなおす」ことで意識づけをしていくことです。これは学校だけでなく、家庭などいろいろな場面ですぐに実践できる方法です。

このうち、楽なのは「褒めて伸ばす」方法です。ただし、褒める際にも注意は必要で、褒めポイントが雑だと意識づけに繋がらないことが多いです。そのため、できるかぎり「本人でも気づいていないようなこと」をたまにでいいので褒めることを意識しましょう。

こういった意識づけは、こちらの価値観を「強要」しているのではなく、「共有」していることになります。うまく意識づけしていくためには、子どもたちに「この人とだったら価値を共有したい」と思ってもらうことが大事なのです。そのため、雑な褒め方や叱り方をするのではなく、子どもたちにちゃんと向き合って、信頼関係を築いていくことが大切なのです。

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まとめ

いかがだったでしょうか。非認知能力は一言で言い表せないほどたくさんの能力の総称です。
非認知能力を伸ばすのは高校生になってからでも、大人になってからでも遅くありません
自分にこれから必要な能力は特にどれだろう?そんなことに注目しつつ、今日からぜひ意識してみてください。


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この記事を書いた人

東京大学で薬学や心理学を中心に勉強しています。高校時代に発達障害の方とその支援者を中心に様々な人と関わってきた経験があり、人と話しその人の人生を知るのが好き。ボカロとお笑いが大好き。

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