東京大学といえば、日本最難関クラスの大学。そこに通う学生の多くは、小さなころから塾通いをして名門中高を通ってきた、いわゆる「エリート」たちです。
しかし、それがすべてではありません。一部には、まったくエリートらしからぬ道筋をたどって東大に合格した学生もいます。ここでは、元落ちこぼれや休学経験者など、「普通の東大生」らしからぬ道を辿って東大へ入学した、みなさんの知らない「リアルな東大生」の姿をお届けします。
教育事業を始めようと思ったきっかけ
今回お話を伺うのは、東京大学医学部医学科を卒業後、株式会社ペイ・フォワードの代表を務められている宇佐見天彗(うさみ・すばる)さんです。彼は、在学中から教育系YouTube PASSLABO(パスラボ)を創設し、そのチャンネル登録者数は32万人にものぼります(2023年6月現在)。
しかし、宇佐見さんは医学部医学科を、それも東京大学の医学部を出られている秀才です。実際、医師国家試験も合格されているといいます。それでは、どうして自分で教育事業を始めようと思ったのでしょうか。
「僕は、地方出身です。それに、もともと才能があったわけでもありませんでした。それが、友人や先生など、色々な人の支えによって合格できました。ですが、合格後に強く感じたのは『地方と都心の教育格差』でした。人はみんな、平等に挑戦の機会があるはずです。でも、挑戦の機会が格差のせいで見えにくくなっている。それって、とても不公平なことだと思うようになったんです」
そのような体験から大学1年生のころから教育に携わりたいと考えるようになった宇佐見さんですが、もともと職業としてやりたいことは薬の研究だったといいます。そこで、東京大学の学部選択では医学部医学科を選択し、アルツハイマー病を含む認知症の臨床医学について学ぶことになります。
しかし、宇佐見さん自身の「地方の子に教えたい」という思いは消えません。それなのに、アルバイトでは都心の子にしか教えられないというジレンマが生じます。そこで、宇佐見さんはTwitterやブログを通じて勉強相談を受けるようになりました。
しかし、これだけでは、ただの情報として終わってしまう。そんな実感があったといいます。どうにかして、もっと活きた情報を届け続けて、相互にかかわり続けていきたい。そんな思いがありました。
出版社からの声掛けで出版したり、個別指導を始めたりするうちに、志を同じくする仲間たちもできるようになりました。そこで感じたことが「教育の現状が大学生の時にバイトでやること」以上ではないということでした。
「教育って、多くの大学生がやることだと思うんです。でも、彼ら彼女らも、大学のバイトでは真面目に取り組むかもしれませんが、人生をかけて本気で追っかけることはしない。本業は別に見つけてそっちに就職しますよね。僕も、同じだと思いました。もし僕が医者になったら、本気で教育に取り組んでいくことができない。本気で教育やる人って、すごく少ないんじゃないか。そう思いました。自分たちだからできることがあるはずなんです。だから、医者ではなく教育の道を行こう。そう考えて、この道を選択しました」
ペイ・フォワードへの思い
このような思いのもとで株式会社ペイ・フォワードを立ち上げられた宇佐見さん。この社名にも宇佐見さんの思いが込められているようです。
「『ペイ・フォワード』とは、直訳すると『恩送り』という言葉になります。いわゆる恩返しは、自分が受けた恩を、その人に返すことですよね。これに対して、恩送りとは、自分が受けた恩をその人だけではなく、次世代に繋いでいくことを指します。僕は、学びこそ、この恩送りする対象だと思うんです」
知識だけではなく、学びを通じて得た人生の軸を恩送りしていくことで、地方の子どもたちの意識が変わっていく。そんな思いがあるといいます。
どうして地方の子どもたちなのか。それは、宇佐見さんの教育の原点が「地方と都心部との教育格差の是正」にあるからです。彼は、日常に潜んでいる「当たり前の格差」を変えていきたいと考えています。
「当たり前の格差とは、自分自身の中にある『当たり前なこと』の差を言います。例えば、ある子にとっては東大を受けるなんて当然だよ!と思えることかもしれません。しかし、別の子にとっては定期テストで80点をとることすら無理だ、と思えるかもしれません。地域に寄らず、当たり前の基準が低い人っているんです。こうなってしまうのは、例えば『過去の失敗のトラウマ』があるでしょうし、『あんたなんかには無理だよ』というような、心無い親からの声掛けが原因になるでしょう。どんな原因にせよ、僕にはみんなの当たり前の基準をもっと高めてほしいと思ったんです」
当たり前にできることのレベルというものは、人によって違うものです。これが挑戦の足かせになっていることも少なくありません。しかし、宇佐見さんはこの枷を壊し、もっと自分自身の挑戦に前向きになってほしいと語ります。
その中で、宇佐見さんによると、「自分自身の中にある「当たり前の基準」を変えていきたい。そのためには、小さな恩送りが必要だ」といいます。小さな恩送りとは、いったいどのようなことなのでしょうか。
「僕は、当たり前の基準を高めるためには、環境を変えなきゃいけないのかと思っていたんです。ですが、地方の環境をよくするよりも、与えられた環境は人それぞれですから、その中で挑戦できる人を育てるほうが重要ですよね。『ドラゴン桜』にも、自分の周りの環境にマルをつけてあげるという話が出てきます。自分の主観一つで環境というものは変わるものですから、どんどん肯定的に向き合ってほしいと思うんです。こうして、当たり前の殻を破って走り出した子から、別の子へ伝播すれば、チームとして変わっていきますよね。これって、小さな恩送りになっているんです」
恩送りの経験
恩送りは垣根を超える。こうして教育格差を是正するのだと語る宇佐見さんの瞳は、確かに燃えていました。宇佐見さん自身も恩送りの経験があるといいます。
「僕は塾の先生や先輩から影響を受けました。塾の先生は、どう逆算すれば勉強ができるようになるのかという話を毎回する人で、この人からは、受験を超えた戦略思考を身に着けることを学びました。また、部活の先輩は部活を続けながら京大を目指す秀才だったのですが、彼からは、部活を続けながら効率よく勉強していく方法を学びました。ここで得た学びは、僕の友達にも伝えるようにしていました。そうしたら、僕の代の合格実績がほかの年に比べてとんでもなくよかったんです」
こうして恩送りをしていく宇佐見さん。YouTubeのその一環だといいます。
「2018年に、有名な教育系YouTuberヨビノリのたくみさんと出会いました。そこで僕の教育への思いを語ったら、『絶対にYouTubeやったほうがいいよ!』と後押しされたんです。学生のうちにやるなら今しかないと思いました。オンラインの個別指導もやっていましたが、これは人数を絞っていました。色々な人に垣根を越えて届けなければいけない。そんな時に、一番近かったのがYouTubeだったんです」
個別指導やYouTubeを始められた裏には、このような思いがあったのですね。自分一人でできることは限られているが、地方の子たちに、自分の受けた恩を送って、教育格差の壁を壊したいという、強い思いが感じられました。
では、逆に生徒の方から気づかされることはないのでしょうか?
「それはたくさんあります。今までのイメージだと、勉強って先生から一方的に教えられるものだったと思いますが、いまの僕が指導しているスタイルだと、何か一つのきっかけを与えると生徒たちが勝手に相談して、先生側に掛け合ってくるんです。この指摘に気付かされることも多いですし、何よりチームで成績が伸びていきますよね。こういった仕掛けがこれからは必要だと思うようになりました」
また、同じくして自己開示の大切さも学ばれたといいます。宇佐見さんは、教室に入ると過去の失敗体験談をすべて話されるようなのですが、そうすると「自分もそういう経験があるからプレゼンしたい」と立候補してくる生徒が出現するのだそうです。こうして、発表などを通して、色々な子供たちの当たり前が変わっていく様子を目撃しているのだといいます。
今後の活動について
それでは、今後の活動はどのように行われていくのでしょうか。
「僕は、教育のオンラインコミュニティを作りたいと思っています。それも1万人規模で、中高生だけではなく、小学生も、大学生も、なんなら社会人もいるようなコミュニティです。小学生が困っていたら、中高生が教えてあげたり、逆に大人側が小さな子の質問から刺激を受けるような場所です。自発的に垣根を越えて、学びが深まっていくような状況があるといいなと思っています。学びの教えあいが勝手に始まるようなコミュニティです。なぜなら、これが達成されれば、地方の教育格差がなくなると思っているからです。みんなの当たり前の基準が高くなりますし、誰かが頑張ろうと思ったらみんなで応援してその輪が広がっていきますよね。これもまた恩送りになります。また、学校同士をつなげてみるのも面白いと思っています。閉鎖的なコミュニティである学校を、オンラインの合宿を企画したりしてつなげることで何かスパークが起きるかもしれません」
教育のオンラインコミュニティの創出を目指す宇佐見さん。今後の教育業界に与える影響も大きいものになるでしょう。今後の活躍に大いに期待です。
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