現役東大生が選ぶ2024年の東大入試の面白い問題!

2月25~26日に行われた東大入試の問題をカルペ・ディエム講師陣の東大生達に解いてもらい、全体への所感や「気になった一問!」等を教えてもらいました。

目次

【国語】東京大学 文学部 布施川天馬

非常にとっつきやすい内容である反面、正確な記述が求められそう。

内容自体はタンザニア商人と客の間の関係性を紐解くもので、難解な用語も少なく、東大レベルの受験生なら非常に読みやすく感じるのではないかと思う。
一方で、具体的な例から記述の根拠を引っ張る必要があるなど、字数と言い回しに注意しないとすぐに回答枠を突破してしまうだろう。

「東大の国語は模範解答を作っておらず、受験生の解答を元に採点をする」という噂があるが、これが本当であった場合、おそらく基本的事項は取りこぼさずかけている受験生がほとんどかと思われるため、差をつけられるかどうかは高次のレベルの戦いになりそうだ。

また、第4問120字での全体要約もしっかり健在であり、難易度は凶悪。贈与関係による微妙な感情の揺れ動きと、それによる金銭的損得を超えた関係性の構築の説明を求められているが、なんとなくはわかっても、核心を突いた答えを出すのは難しいだろう。

漢字は相変わらず基本レベルだが、しっかり勉強をしたり普段から書き取りをしていないと思わず詰まってしまうような語彙が採用されている。今年は記述で差をつけるのが難しそうなので、せめて漢字の問題程度はしっかりとり切りたいところだ。

逆を言えば、例年よりも漢字問題の重要性が上がっている年であるともいえる。

【英語】東京大学教養学部 2年 Maple

代々木ゼミナールから引用

今年の自由英作文では上のような問題が出題されました。与えられた2つの主張から1つを自由に選び、理由を添えて考えを述べる形式は初めての出題でした。昨年の「今から30年後、移動の手段はどうなっていると考えるか。」という問題よりは発想の自由度は低いものの、今年は考えやすい問題ではあります。

この問題の面白い点は、切り口がさまざまに用意されていることです。まず紙と自転車のどちらを選ぶかによって解答の方向性は大きく変わります。その上、当日はどちらかの主張に賛同する意見を書いた人も多かったと思いますが、その主張を否定することもできました。自由に論じよ、と書かれていても実際は想定解が見えてしまう問題も多い中で、この問題の出題意図は非常に分かりにくいと思います。

今回の主張でどちらを選ぶかについて東大生20人ほどにアンケートをとると、9割以上の人が紙を選択しました。どちらの方が書きやすいかは、紙と自転車がどれだけその人にとって身近なものかによって変わってくると思います。紙は三大発明の活版印刷技術とも結びつけやすいこともありますが、紙の恩恵を享受してきた東大生は紙を選ぶ傾向にあったのでしょう。

もしかすると、自転車に関しては、スティーブジョブズのテクノロジーに対する考え方が背景にあるのかもしれません。これは自転車に乗った人間と他の動物のエネルギー効率を比較して、能力を劇的に増幅できる装置としての道具の重要性を説明したものです。この言説にも賛否両論あるので、あえて主張に対する考えを問いかけたのかもしれませんね。

【理系数学】東京大学教育学部 永田耕作

全体の感想

SNSや各予備校の分析では、全体的に「やや易化」とされていたが、個人的にはかなり歯応えのある問題揃いだと感じた。自分は受験当日に最速で問題を解いて解説を作りたいと思っていたため、文系も理系も両方解いたが、やはり大きなレベルの差を感じた。特に今年は、例年1問は出題されている文理共通の問題(文系の試験にも、理系の試験にも出題される問題)が無かったので、より東大理系の問題の難易度の高さを感じるセットとなっていた。

「整数」の問題について

今年の問題は、第1問に空間図形が出題され、最後の第6問に整数問題が出るという少し変わった構成になっていた。これはあくまで自分の推測だが、最終問に整数問題を持ってきたのは東京大学からのある種のメッセージ性を感じる。

2022年度から高等学校の学習指導要領が改訂され、「整数の性質」という単元が数学Ⅰ・Aから姿を消すことになった。一応、「数学と人間の活動」という単元の中に整数論の話は残ってはいるが、学習は任意となり、多くの高校生、特に文系の学生にとっては学習しない単元となった。2022年度に入学した高校生が受験を迎える来年(2025年)の共通テストでは、整数論の問題は出題されないことが現時点では決まっている。このように、来年から「整数」の問題は大学受験であまり出題されなくなることが分かっているのだ。そのため、今年の最後の問題で整数の問題が出題されるのは、長い間受験数学の重要単元の一つであった整数論に対して感謝の意を示しているのではないか、と個人的には考えられた。

代々木ゼミナールから引用

問題は、条件を満たす整数解の個数を、背理法を使って絞り込む証明問題である。東大の問題の中でもやや難しめで、これぞ東大入試、というような威厳のある大問である。素数の性質である「1とその数以外の約数を持たない」という定義を活用し、(1)ではf(x)を、(2)ではg(x)をそれぞれ式のかけ算の形になるように因数分解をして、それぞれ片方が「1」になるはずであるというところから仮定に矛盾があることを示す、という流れで問題を解く。単純に答えを求めるのではなく、穴のない証明を記述する力が問われている良問だと言えるだろう。

来年以降も、理系の二次試験には整数論の問題が出される可能性があると言われている。引き続きこのような奥深い数学の良問が受験においてみられることを楽しみにしている。

【世界史】東京大学教養学部 生島光流

全体について

まずは、世界史全体として、今年の東大世界史は激動の年だったと言うことができます。
というのも出題傾向が大きく変わったのです。1990年以降、第一問は与えられた問題文と語群から600字の論述をさせる問題でした。この600字と言う字数は他の大学では類を見ず、まさしく東大世界史のアイデンティティとも言えました。し

かし、今年は大論述が”消えました“。その代わり12行と5行の中論述2つになっています。結果として、第一問の回答字数は減ったものの、この形式変化に驚いた人は多いでしょう。

第一問について

今年の第一問の出題形式は、中論述が二つという物でしたが、この形式の第一問は過去の東大に存在しています。1989年以前の形式が今年の第一問と同じような出題形式だったのです。つまり、今年に限って言えば、1989年以前の傾向戻った、ということが言えます。内容は、現代史でかつアフリカや東南アジアという現役生が疎かになりがちな分野からの出題でした。加えて、資料も出されており、それを読み取ることを要求した上で出題しています。

また、(2)は極めて異質です。問いの内容がとても抽象的なのと、解答で世界史用語がほぼ出て来ません。しかも、出題内容はSDGsやグローバルサウス、旧宗主国と旧植民地国との関係という、地理に極めて酷似した問題であることが分かります。このことから、東大は受験生に対し、現在の社会問題やそれに真剣に向き合う姿勢またはそれに関する教養を身につけて欲しいというメッセージが読み取れるかもしれません。また、資料問題や科目横断的な特徴は来年度から始まる新課程の高校カリキュラムに沿うもので、2024年の問題は、その準備段階の問題であったようにも思われます。

第三問について

また、第三問も極めて特徴的です。
第三問は一問一答が10個出題されるのですが、ここでも中米や南アジアからの出題が多く、西欧からの出題は少なかったです。目を引くのは(6)のサティと(10)のサイードです。
サティは高校世界史ではかなりマイナーなワードで、一問一答には載っておらず、教科書でもコラム程度に紹介されています。しかし、東大は今年含め、過去にも何度か出題しています。
また、(10)のサイードは多くの受験生が知らない、難易度の高い語句でした。自分の知り合いの文系東大生に話を聞いても、知らないと答えた人が少なくありません。このように、現行の高校世界史ではマイナーなワードが出題されているのです。しかし、これらのワードを知っている人に尋ねたところ、サティもサイードも世界史のワードとしては暗記していない、と答えたのです。

実は、サティは「夫が死んだ時に妻が後を追って自殺する」という古来からの風習ですが、人権や女性の権利を重視する現代の社会的風潮に合致しなくなってきたことからニュースや評論文として取り上げられることが多いです。時事やニュースに目を向けていれば知っていた語句です。また、サイードは、西洋における東洋風の趣味を意味するオリエンタリズムという言葉に、東洋に対する西洋の偏った見方を人種主義的、帝国主義的だと批判しました。つまり、西洋中心主義的な考え方を批判したため、これは20世紀末からの文化史や歴史記述に大きな影響を与えています。ですので、西洋の文化史に興味のある人や、文学に強い関心を持つ人にとっては、サイードは重要かつ、知っていて常識とも言えるような人物であったのです。このことから、東大は世界史において現代社会における問題や、国際社会で活躍する人材になるための教養として、これらのワードを知識として身につけるよう受験生にメッセージを伝えているように感じました。

まとめ

以上のことから、地理学や政治学のような他の学問と絡めつつ多角的に、身につけた知識を現代社会・国際社会で生きる上で必要な教養として、世界史を学ぶことを受験生に要求しているのかと個人的には感じました。その意味で(難易度の変動や、形式の大きな変化は受験生にとってはたまった物ではありませんが)今年の出題はかなり攻めた物であり、ただ受験という枠に収まらずに、大人にとっても非常に咀嚼しがいのある問題だと思います。


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この記事を書いた人

教育事業や出版事業での取り組みを様々な媒体を通して発信しています。自社メディア「カルペディア」では、「人生を”ちょっと”前のめりに」をテーマに、教育・学習を取り巻く様々な疑問・関心について記事を掲載しています。

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