教育コンサルタント 徳留宏紀さんへのインタビュー ~フィンランドの教育から考える学校改革 第2弾~

目次
何の教科の授業でしょう?

実際に視察してみて分かったこと

ー実際の教育現場をみて驚いたことはありますか?

徳留:小学生のうちからMoodle*のようなオンライン生徒支援システムが用いられていることです。前述したキャリアカウンセラーとそのサイト上でメッセージのやり取りをしたり、カウンセリングの予約をしたりすることもできます。普段の定期試験や教科書の活用から、卒業試験までデジタルを用いるので、IT技術をフル活用しているなという印象を持ちました。

*Moodle:e-Learningを支援する学習管理システムのこと。

ーIT技術を必要に応じて取り入れられる教育は個人的に良いなと思います。日本だと子どものうちからデジタル機器を使い倒すのはあまり良くないと思われている気がします。

徳留:そうですね。子どもたちの将来に何が必要かと考えたとき、紙とペンで何かをするより、パソコンを用いて何かをする機会の方が圧倒的に多いです。授業の最終テストとしてプレゼンテーションを求める先生もいるほどです。授業内容や最終テストの形態や教師によりますが……。

ー子どもたちの将来に何が必要か。これって教育の真髄のような気がします。

徳留:フィンランドでは「フェノメノンベースラーニング」といって実際の現象に基づく教育が推奨されています。例えば、フィンランドは寒い地域に位置するため、子どもたちが大人になった時に気温が1度下がることは死活問題でもあります。それを教科という枠組みだけで捉えるのではなく、クロスカリキュラムといって社会×理科のように教科を横断しながら学習していくことが必要なのです。

ーその考え方は大事ですね。日本では探究学習や総合の時間がこれに当たると思いますが、どうしても6教科目として認識する人も多いと思います。

徳留:教科ごとに分けるのではなくて、教科同士を関連させて交差的に学習する。そういったところに本来の学びがあるのではないでしょうか。

ーなるほど。日本ではいわゆる「お受験」文化がありますが、フィンランドの進学や成績評価の仕方で日本と異なる部分はありますか。

徳留:フィンランドは学歴社会ではないので、日本ほど学歴で他社と比較することは多くはありません。また「あの大学に通っているから良い・悪い」ということもなく、生徒の半数はアカデミックな学校に進学し、もう半数は応用科学大学と呼ばれるような職業訓練校に進学します。一人一人の進路が尊重されているといえますね。

基本的にフィンランドは競争のない社会だと言われていますが、高校3年生の最後には共通テストのような卒業試験があります。その持ち点によって進学できる学校が変わってくるため、その時期はフィンランドでも激しい競争がありますよ。

ーフィンランドは教育水準が高いとされていますが、フィンランドの教育で改善すべきだと思う点はありますか。

徳留:授業のカリキュラムが各教師の裁量で決定できるからこそ、素晴らしい授業を作る教師もいれば、そうでない教師もいるという点です。もちろん国で定められたカリキュラムはありますが、必要最低限しか示されていないため、授業で使う教科書や教え方まですべて教師に任されています。 ただ全体的に教師の質が高いことはたしかです。明確な意図を持って授業を構成している教師が多いと思います。例えば、自分が勤務したヘルシンキ国際高校で出会ったラウラ先生は、グミを使って生物の授業で二重螺旋構造を説明していました。とても面白いですよね。

地球年表×トイレットペーパー
二重らせん構造モデル×グミ

ーへぇ〜!斬新なアイデアでとても面白いですね!教師の裁量で授業を作ることはやりがいがありそうですが、残業など大変ではないのでしょうか。

徳留:基本的には、授業が終わった3時くらいに家に帰る教師がほとんどです。 でも決して早く帰って余暇を楽しんでいるわけではありません。実際は持ち帰る仕事も多いですし、寝る時間を削って授業を作っている先生もいます。でも日本と違って効率は良いと思います。例えば、学校に夜遅くまで残っていれば仕事をちゃんとやっていると評価されたり、自分と同じ学年の先生が学校に残っていたら自分も残らなきゃいけないみたいな悪しき文化はなかったりします。

みんな違って どうでもいい

「人生とは学び」である

ーフィンランドの教育を日本に持ち込むとしたらどのような点がありますか。

徳留:いつでも学び直しができるという点です。フィンランドで就職するとなったら、その道の勉強をしていないといけません。文系科目を専攻していたけど理系の企業に就職する、ということは基本的にできないので、もし転職したかったら再度大学に入り直す必要があります。

フィンランドは授業料やノート代、定期代など教育に必要な費用が無償化されています。そのため費用面で大人も学び直しができる環境が用意されています。

また「人生とは学び」という言葉もあるくらい、フィンランド人にとって学ぶことは人生であると考えられています。私のホストマザーも、60歳を超えてもなおフランス語や日本語を習得しようと勉強していますよ!

ー学ぶことが人生…とても素敵な価値観ですね。

徳留:そうですよね。互いにリスペクトはしていますが、どこか個人主義なところがあるので「みんな違ってどうでもいい」というマインドはあると思います。

ー思い切ってホームステイに行く決意をするにはなかなか勇気がいることだったと思います。徳留さんはどうしてそれができたのでしょうか。

徳留:そうですね。最初は自分に2つの信念があり、ホームステイに行くことを決めました。

一つは、4〜5年前に1週間だけ行ったフィンランドを、内部の人間としてもっと知りたかった。

もう一つは、教員時代の最後に担任を持っていた生徒のみんなに恥じないような生き方をしたかった。彼らに夢を持って生きていけというなら、自分も夢を持っていきたかった。

でも実際は、「ただいま」といえるような自分にとってのホームが欲しかったのだと思います。人と関わり、人生を豊かにしたい。今振り返れば、そういう思いで飛び立ったのだなぁと感じます。

ー無意識のうちに自分の居場所を探していたのかもしれませんね。今年4月からは認定こども園の園長先生になるとお聞きしましたが、その道を選ばれるにあたって迷いはありませんでしたか。

徳留:迷いはありませんでした。一見、関係のない道に進むように感じるかもしれませんが、幼児教育はまさに非認知能力を実践するのに最適な時期です。とても良い雰囲気の職員室をフィンランドで見てきたので、今度は自分がそのような空間を作りたかった。カルペ・ディエムと通じるところがありますが、小さい頃から「前のめり」に生きる、自分の可能性を大事にすることを伝えられるような活動をしたいです。

徳留さん、ありがとうございました!


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この記事を書いた人

早稲田大学文学部で臨床心理学を専攻している。チームビルディングやマネジメントに関心がある。公園で見知らぬ子どもと犬を愛でることが日課。趣味は散歩とカフェ巡り。

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