「ウェルビーイング」という言葉を聞いたことがありますか?「幸せ」「心の健康」「挑戦」など、なんとなくイメージは浮かんでも、実際よく分からない人がほとんどだと思います。ウェルビーイング教育とは何か?教育現場での具体的な実施方法とその効果は?日々子どもたちの挑戦を応援するカルペ・ディエムが、 生徒の心身の健康を育むためのヒントを提供します。
ウェルビーイング教育とは
「ウェルビーイング」とは何か?
まず「ウェルビーイング(Well-being)」とはどういう意味でしょう。
この言葉は、1946年のWHO(世界保健機関)が設立された際に初めて登場しました。
「健康とは、病気ではないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、全てが 満たされた状態にあることをいいます。」
このように、ウェルビーイングは「満たされた状態」と訳されています。なにが満たされた状態かというと、「肉体的にも、精神的にも、社会的にも、全て」であり、WHO憲章で定義されている「健康」の概念はとても広いということがわかります。身体が健康であること、心が豊かで幸せであること、そして社会が良好な状態であること。それがウェルビーイング、つまり「幸福」な状態であるということです。
希望を持てない若者たち
では実際、日本人のウェルビーイングの指標は、どのくらいの高さなのでしょうか。カルぺ・ディエムでは、この指標を考えるとき、次のような質問を生徒さんに投げかけています。
図のようなハシゴを想像してみてください。ハシゴの各段には数字が振ってあります。ハシゴを上るにつれて数字は大きくなっていきます。最下段は0で、最上段は10です。
最上段はあなたにとって最高の人生で、最下段は最低の人生です。
「今現在、あなたはハシゴの何段目に立っていると思いますか?」
これは、国連が毎年発表する「世界幸福度調査(ウェルビーイング調査)」でも活用されている、「カントリルのはしご」という尺度です。
2019年の日本の幸福度は150カ国中61位と、先進国ではかなり低くなっています
また、カントリルのはしごには、もう1つの質問があります。
「あなたの想像では、5年後にはどの段に立っていると思いますか?」
こちらの質問では、日本は150カ国中122位となりました。
中学1年生〜高校3年生に限定した場合のアンケートの結果(n=121)では、現在の平均:5.4 5年後の平均:4.9となりました。
幸福度は若者ほど低い傾向にあり、日本は他国に比べて国や社会に対する意識が圧倒的に低い状況です。 これは「未来を変えることができない」「将来を自分でコントロールをすることができない」と考えている若者が多いからです。
その要因の一つとして、少子高齢化が関係しているのではないかと考えられます。 少子高齢化とは大人目線の言葉であり、子供目線では大人の数が増えていることにほかならない。大人の数が増えるということは、子供たちにとって「やれないこと」や「できないこと」が増え、自分の挑戦を阻害する要因が増えることであり、昔に比べて子供たちが自分のやりたいことに挑戦することが難しくなってきています。
なぜ、勉強しないのか?
「最近の若者たちは挑戦心がない」と言われることもありますが、この原因の一つが上述のウェルビーイング指標の低さだと考えられます。
未来に希望が持てないために、頑張っても無駄だ、勉強をしても意味がないという思考に繋がるのではないでしょうか。
勉強は、本質的には未来への投資です。今の時間を勉強に投資することで、知識やスキルを得れば、未来の幸福へと繋がるというイメージがあるからこそ、モチベーションを保つことができます。
しかし、その未来への希望が持てなくなっている状態では、「今」頑張ることができません。若者たちが希望を持てる未来を描けるような世界を作っていくことが必要なのです。
ウェルビーイング×教育
生徒のウェルビーイング
このように「若者が未来を描ける状態を作ること」がウェルビーイング教育の始まりだと考えます。
ウェルビーイング教育は、生徒の幸福や心の健康を第一とした教育と定義されています。具体的には、以下の主観的な幸福感や、他人と共同生活をすることで得られる幸福感や、快適で安心できる環境など複数の要素で構成されます。
主観的幸福感
・学校が楽しい
・自分のことが好き
・部活動や委員会にやる気がある
・苦手なことにチャレンジできる環境
他人と共同生活をすることで得られる幸福感
・友人との心のつながり
・相談できる大人がいる
・先生のことが好き
・クラスの居心地がいい
・誰かの役に立ちたい
安心できる環境
・校舎や設備が快適・清潔である
・いじめなど危険がない
・必要なものが揃っている
教員のウェルビーイング
さらにウェルビーイング教育を考える上で忘れてはならないのは、生徒を育てる側の教員にも、以下のようなウェルビーイングの構成要素があるということです。
主観的幸福感
・学校の仕事が楽しい
・教育に意欲を感じる
・子供の成長を実感する
他人と関わることで得られる幸福感
・指導方法を学ぶ機会がある
・職場の居心地が良い
・生徒との信頼関係がある
・保護者や地域との信頼関係がある
「教育」と言うとどうしても生徒に目を向けがちですが、まずウェルビーイングを高めるべきは、子供を育てる大人だという主張もあります。教員や親が幸福感を持って子供に接することで、子供はそれを前向きに受け止め、幸福感の好循環ができあがるのです。
ウェルビーイング教育の実践方法
最後に、ウェルビーイング教育の具体的な実践方法をいくつかご提案します。現在学生の私が、今まで受けてウェルビーイングが高まったと感じた教育や、小中高時代あったらよかったと感じる方法を挙げてみます。
レベル別少人数授業
私が通っていた中学校・高校では、生徒が躓きやすい英語と数学の2科目で、各々のレベルに合わせた少人数授業が展開されていました。疑問を感じたらすぐに聞きやすい環境のおかげで私は質問する回数が格段に上がり、数学嫌いから脱することができ、自信にもつながりました。
キャリア教育・総合的な学習
私の学校では職場体験や課外活動が頻繁にありました。外部から来る人の話を聞くだけではどうしても受け身になってしまうため、自分で調べて実際に足を運び、「楽しい」と思えることが何より将来への希望になると思います。
いじめ・不登校対応
中高生は、大人が思う以上に繊細で、たとえ大人を介して話し合ったとしても、あまり状況は改善されないことがほとんどです。ただ、人間関係が絡み合うなかで、教員だけが全ての状況を把握し、対処を一任されるのもまた、健康な状態ではないはずです。過ごしやすい学校をつくるためには、いじめや不登校に対して向き合うことが大切です。不登校の生徒に学校に来てもらったり、いじめを一時的に和解させたりするだけが解決策ではなく、生徒の特性にあった解決方法を学校と家庭が一緒に考えていける状態を作る必要があります。
部活動・委員会
部活動や委員会、その他の活動については、学校ごとに特色がかなり違うと思います。私の学校は「文武両道」を謳っていたものの、どの運動部の制度も勉学を配慮しているとはあまり言えませんでした。練習時間が長すぎたり、任意参加の講座の日程が試合と被ったりしている状況でした。勉学とその他の活動を完全に切り離すのではなく、連携して支え合うことが必要だと感じます。
おわりに
いかがだったでしょうか。教育現場におけるウェルビーイングの重要性を感じることができたのではないでしょうか。「偏差値」「点数」として目に見えるものではないからこそ、蔑ろにしてしまいがちで、向上したのかも分かりにくいウェルビーイング。しかし、幸福感を持ち、自信に溢れ、将来に希望を持つ若者が日本に増えるためには、何よりも大切なことだといえるでしょう。この記事が、現状を少しでも良くするサポートになれば幸いです。