近年、タブレット学習を授業に取り入れている学校が増えてきています。タブレット端末を使って学習することで、児童生徒、そして教員にとってどのようなメリットがもたらされるのでしょうか?そして、どのような点に注意をはらう必要があるのでしょうか?
この記事では、タブレット学習を学校教育に取り入れることのメリット・デメリット、そして、教員が意識すべきことを、東大教育学部生の碓氷明日香が徹底解説します!
タブレット学習の普及とその背景
ここ数年のタブレット学習の普及には、どのような理由があるのでしょうか。まず始めに、文部科学省の取り組みと、実際どれくらい普及したのかを見ていきましょう。
GIGAスクール構想
新型コロナウイルスのパンデミックで、オンライン授業を円滑に進める仕組みの必要性がグッと高まりました。そこで、文部科学省が提案したのは、児童生徒1人に対して1台の学習用端末を提供し、高速大容量のネットワークを一体的に整備することで、多様な子どもたちを誰一人取り残さない包摂的な教育を実現する「GIGAスクール構想」です。
これにより、全国の公立学校で一気にICT環境の整備が進められ、授業にタブレット学習が取り入れられるようになりました。

ICT環境の整備状況
では、現状どれほどICT環境が整備されているのでしょうか。文部科学省によると、令和5年3月1日の段階で、どの都道府県も児童生徒一人あたりの教育用コンピューター台数が1.0台以上となり、平均値は1.2台となっています。さらに、教室ごとのインターネット接続状況も非常に良い結果を示しており、ほとんどの学校でICT環境が整備できたと言えるでしょう。
出典:令和4年度学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果(概要)

タブレット学習のメリット
全国的に普及が進むタブレット学習ですが、どのようなメリットがあるのでしょうか。メリットを知っておくことで、それをつぶさないよう使いこなす工夫が可能になります。より良い授業のために、児童生徒にとってのメリット、そして教員にとってのメリットの両方について、詳しく触れていきましょう。
学習の幅が広がる
まず、タブレットを用いることで、「学習の幅が広がる」というメリットがあります。例えば、授業内容の説明を動画や音声を使った教材を通して行うことができるので、児童生徒のより深い理解を得られるでしょう。他にも、グラフや表を表示してもらうツールを使えば、視覚的にデータを理解することも可能です。
教科書を読み、板書を取るだけの授業に比べ、さまざまな資料を使い、さまざまな方法で学習した方が、児童生徒の理解度は高まり、学力の向上が見込めます。
児童生徒が楽しみながら学習できる
タブレット学習の中には、ゲーム感覚でできる教材も含まれています。そうした教材を活用することで、勉強嫌いな児童生徒でも勉強に対するモチベーションが高まり、授業に遅れることが少なくなるでしょう。
GIGAスクール構想の目的は「誰一人取り残さない包摂的な教育」なので、勉強が嫌いで授業についていけない子どもたちを置いてけぼりにしないタブレット学習は、この目的に沿っていると言えます。
個別最適化学習への第一歩になる
タブレット端末を用いることで、児童生徒一人一人の特性や学習進度、学習到達度に合わせた学習が可能になります。これは、文部科学省が掲げている「個別最適な学習」への第一歩です。
これまでの教員一人が教壇に立って数十人の生徒に教えるという形の授業では、一人一人の学習到達度に合わせた説明をしたり、演習課題を与えたりするのは難しいでしょう。しかし、1人1台のタブレット端末があれば、個々人の学習履歴に基づき、学習ペースや習熟度に合わせたデジタルドリルが使用可能になるのです。
また、過去に間違った問題をタブレットが選別して出題するツールも存在します。こういったツールを有効活用すれば、各々が苦手な単元に対象を絞って勉強することができ、総合的な学力向上につながるはずです。
学習の管理がしやすい
タブレット端末を使った学習においては、基本的に記録が残ります。つまり、その児童生徒がどこまで学習を進めていて、どんな問題でつまずいたのか、何の単元が苦手なのかなど、一人一人の習熟度が一目瞭然なのです。
これは、教員にとって大きなメリットでしょう。誰がどこでつまずいているのかが分かれば、その子に的確なアドバイスができますし、全員の傾向を把握することで、テストで出題すべき問題も見えてきます。これまでと比べて一段とクラス全体の学習の管理がしやすくなり、誰一人として取りこぼさない教育が可能になるのです。
情報共有がしやすく、教員の負担が減る
教員としてのさらに大きなメリットとして、「情報共有がしやすい」というものが挙げられます。これは、例えば資料の配布、課題プリントの共有などに注目すれば、教員と生徒間の情報共有が簡単になると言えますが、それだけではありません。教員間の情報共有も楽になるのです。この子にはこんな特性があります、この子はこれが苦手です、そんな情報をデータとセットにして電子上でやり取りできるのですから、これまで以上に円滑な情報共有が可能になることが予想できますよね。
教員の業務量過多は昨今の大きな問題ですが、タブレット学習を用いれば、教員の負担は激減します。その分、授業の質の向上に時間を割くことができるので、これは非常に大きなメリットではないでしょうか。
タブレット学習のデメリット
メリットは大きいですが、一方でデメリットも一定存在します。これらによって児童生徒が不利益を被らないように工夫が必要です。
自分で必要な学習を見極める力がつかない
タブレット学習のツールには、苦手な問題や単元などをタブレットが自動で教えてくれる機能があります。これは学習がしやすくなり、学力向上が見込める一方で、自力で苦手な部分を見つけ、どうやって勉強すればいいか計画を立てる力がつかないというデメリットもはらんでいるのです。
科目を仕上げるためには、その科目全体を俯瞰し、どの単元が得意でどの単元が苦手か把握しておくことが必須です。タブレット学習だけに頼っていると、そのための力が身につきません。学習のモチベーションを上げるには有効な手段と言えますが、完全にそればかりに頼っていてはいけないのです。こうしたデメリットを打ち消すために、時には自分の現状を自力で分析し、計画を立てる工程が必要と言えます。
視力低下など健康面の問題も
また、端末と向き合い続けることで、視力が低下してしまうなどの健康面の問題もあります。仮に視力が落ちなくても、眼精疲労から慢性的な頭痛を引き起こすことも。
ちなみに筆者は両目とも視力が0.1を下回っており、メガネかコンタクトがないと歩く時に危険で、不便な毎日を過ごしています。実感としても、視力低下は生活を困難にするものです。
高度情報社会では、何かしらの端末の画面を見る時間はどうしても長くなってしまいます。これは仕方のないことではあるので、目を酷使する分、しっかり休ませることを意識するなど、対策を取りましょう。ブルーライトカット機能を使う、数十分に一回は画面から目を離して遠くを眺める、画面に近づきすぎない……。対策の方法はいくらでもあります。何をするにも体が資本なので、大切に使いましょう。
誘惑が身近になり、注意散漫に
タブレットを使うということは、誘惑が身近に存在するということです。ゲームアプリや動画投稿サイトなど、タブレットを使った娯楽はたくさんあります。すぐにそういった娯楽に触れられる環境で勉強すると、どうしても集中が続きづらいという問題点があるのです。
実際、学校で配られたタブレットで授業中にゲームをしたり、動画を見たりしているのを教員が見つけ、こっぴどく叱られるというケースもよく聞きます。学校側で許可を出したアプリのみを入れさせる仕組みを作るといった対策もありますが、子どもは対策が施されるほど、その穴をかいくぐって遊ぶものです。その辺りをどれくらい厳しくするかのバランスが必要になってくるでしょう。
授業中の内職が増える
1つ前のデメリットと似ていることですが、タブレット学習を取り入れることで、授業中の内職が増える危険性もあります。1つの端末で全教科の勉強・課題提出などが完結してしまうタブレット学習では、机の上に教科書や問題集、ノートなどを出す必要なく、あたかも授業を聞いていますよ、という顔をして別の科目の勉強ができてしまうのです。課題の提出期限に追われている児童生徒は、内職をしようと考えるかもしれません。
こちらも、上記同様、児童生徒の内職をとがめるか否かのバランスに注意する必要がありそうです。
導入の際に気をつけるべきこと
では、メリットとデメリットを踏まえて、教員として、タブレット学習を導入する際にはどのようなことに気をつければいいのでしょうか。
教員のICT活用指導力を高める
GIGAスクール構想の課題として、義務教育段階においては、「教員のICT活用指導力」が挙げられています。タブレット学習を効果的に取り入れるためには、教員のICT活用能力の向上が必須条件です。そして、それだけではなく、教員が児童生徒に対して、ICTの活用方法・情報モラルなどを正しく教えることができなければなりません。
これからは特に、校内研修を実施したり、教育委員会が実施している研修に積極的に参加したりすることで、教員一人一人のICT活用能力、そしてICT活用指導力を高めていくことが大切です。
各家庭と連携を密に
また、各家庭との連携も重要になってきます。GIGAスクール構想が目指しているのは、「個別最適な学習」であり、「誰一人取り残さない教育」です。しかし、タブレット端末が学校側から支給されたとしても、家庭のインターネット環境などで、学習に差が出てしまいかねないのが現状です。
各家庭の状況を把握し、支援や配慮をすることで、格差が生まれないような工夫が求められています。
セキュリティを万全に
タブレット学習を取り入れるということは、教員側も何らかの端末で児童生徒の情報を管理することになりますが、そのセキュリティを万全にしておくことも非常に重要です。成績を含む個人情報が漏れないように、安全な環境整備を優先しましょう。
情報漏えいは児童生徒を危険にさらす上、学校の信用もなくします。大きな問題が起きる前に、教員一人一人が情報を漏らさないよう意識することが必要なのです。
シーンごとに紙かタブレットか見極めを
授業の内容ごとに、紙を使った方がいいか、タブレットを使った方がいいか、その都度考えて授業計画を立てましょう。
タブレット学習は上述の通り、メリットも多い反面、児童生徒の一部の能力向上につながらないというデメリットも存在します。子どもたちが社会で生き抜くための力を満遍なくつけられるように、全てをタブレット学習に置き換えるのではなく、時には紙を使用して、自ら問題を発見し、計画を立て、解決する力を磨く機会を設けると良いでしょう。
まとめ
今回は、タブレット学習のメリットとデメリット、そしてそれらを最大化・最小化するために教員が気をつけるべきことを解説しましたが、いかがでしたでしょうか。
新しい取り組みには必ず課題があります。メリットを最大限に生かしつつ、課題をどのようにして解消していくのか。教員一人一人が意識的に考え、実行に移していくことが求められています。個別最適な学習・包摂的な教育の実現に、この記事が少しでもお役に立てれば幸いです。

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