なぜいま「個別最適な学び」が求められるのか? 定義・背景・実践例を東大生が解説

近年、学校教育のキーワードとして注目を集めているのが、「個別最適な学び」。全員に同じ授業を行う一斉授業を前提としてきた従来の教育からの転換が求められる中で、その重要性は増してきています。

しかし、このキーワードが何を具体的に指しているのか、いまいちピンと来ていない人も多いのではないでしょうか。

そこで本記事では、「個別最適な学び」について、文部科学省による定義や重視されている背景を整理した上で、実際の学校現場での実践例までを東大教育学部生の碓氷明日香が解説します。

目次

「個別最適な学び」とは?

まず、「個別最適な学び」の定義を見ていきましょう。

文部科学省の掲げる教育の姿

文部科学省は、新時代において目指すべき学校教育の姿として「全ての子供たちの可能性を引き出す、個別最適な学びと、協働的な学びの実現」を掲げています。

具体的には、

新たに学校教育における基盤的なツールとなるICTを活用することで、これまでにない量・質のデータを収集・蓄積・分析・活用し、個々の特性等にあった多様な方法で児童生徒が学習を進めることができる可能性が高まります。

また、時間的・空間的制約を超えて音声・画像・データ等を蓄積・送受信し、今までにない方法で、多様な人たちと協働しながら学習を行うことができる可能性が高まります。

同時に、AI技術が高度に発達するSociety 5.0時代にこそ、様々な場面でリアルな体験を通じて学ぶことの重要性もより一層高まります。

出典:(3) 個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実

と説明されています。

すなわち、「個別最適な学び」とは、ICTなどの技術を活用しながら、児童生徒一人ひとりの理解度や特性に応じて学び方や学習内容を柔軟に調整していく教育のあり方だと整理できるでしょう。

そして忘れてはならないのは、「協働的な学び」と往還させながら、個と集団の双方を伸ばしていく点です。

対となる概念「協働的な学び」とは?

では、「個別最適な学び」とセットで語られている「協働的な学び」とはどのようなものなのでしょうか。

先ほどの文部科学省が掲げる教育の理想像を踏まえると、「協働的な学び」とは、児童生徒が他者と意見を交わしたり、役割を分担したりしながら、共通の課題に取り組む学習のあり方を指すことが見えてきます。

「個別最適な学び」で個々の理解度や特性に応じて学んだ内容を、「協働的な学び」として持ち寄り、他者との関わりの中で深めていくことで、学びはより立体的になるのです。

文部科学省はこの両者の相互補完的な関係を理想として掲げていると理解できます。

「個別最適な学び」が必要とされる背景

では、なぜいま「個別最適な学び」が必要とされているのでしょうか。

ここでは、3つの観点から、その理由を詳しく説明します。

児童生徒の多様性への配慮

「個別最適な学び」が必要とされる背景のひとつとして、「児童生徒の多様化」が挙げられることが多くあります。

しかし、家庭環境や学力、認知特性といった点において、児童生徒が多様であること自体は、決して新しい現象ではありません。これまでも教室には多様な子どもたちが存在していましたが、学校教育の制度や指導の枠組みが、その違いを十分に捉えきれていなかった、あるいは見えにくくしてきた側面があったのです。

近年、発達特性などの新たな概念への理解が進み、インクルーシブ教育の考え方が広がる中で、「すべての子どもを同じやり方で教えること」が課題として認識されるようになりました。

こうした流れの中で求められているのが、児童生徒一人ひとりの特性や状況に「配慮」した学びのあり方です。

「個別最適な学び」は、これまで十分に向き合われてこなかった多様性を、教育の前提として置こうとする試みと言えるでしょう。

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学習意欲の低下

東京大学社会科学研究所とベネッセ教育総合研究所による共同研究によれば、児童生徒の学習意欲は学年が上がるにつれて低下する傾向があるようです。

小学校低学年では学ぶことに前向きだった子どもでも、学年が進むにつれて「授業がわからない」「ついていけない」と感じる場面が増え、学習への自信や関心を失っていくケースは少なくありません。

一斉授業を前提とした指導では、理解のスピードや得意・不得意の差が広がるほど、「できる人」と「できない人」が固定化されやすくなります。その結果、理解が追いつかない児童生徒は学習への主体性を失い、逆に早く理解できる児童生徒も十分な挑戦機会を得られず、学びへの意欲が削がれてしまうのです。

こうした理由から、誰もが自分のペースで学びにむき合える環境を整える必要性が高まっています。

参考:共同研究

高度情報化への対応の遅れ

Society 5.0時代の到来も背景として挙げられます。情報通信技術が急速に発展する一方で、学校教育はその変化に十分対応できていないとの指摘が続いてきました。

日本の児童生徒は数学や科学分野においては国際的に高い水準を保っているものの、言語能力や情報活用能力、情報リテラシーなどにおいてはまだまだ課題が多いのが現状です。こうした力を育成するためには、一斉指導に偏らない学びの設計が必要不可欠です。

そのひとつの方向性として、「個別最適な学び」の実現が求められているのです。

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「個別最適な学び」の2つの側面

文部科学省によれば、「個別最適な学び」には、「指導の個別化」と「学習の個性化」の2つの側面があるとされています。それぞれ、どのような内容なのかを詳しく見ていきましょう。

進度・特性に応じた「指導の個別化」

まず、「指導の個別化」について、文部科学省は以下のように述べています。

全ての子供に基礎的・基本的な知識・技能を確実に習得させ、思考力・判断力・表現力等や、自ら学習を調整しながら粘り強く学習に取り組む態度等を育成するためには、教師が支援の必要な子供により重点的な指導を行うことなどで効果的な指導を実現することや、子供一人一人の特性や学習進度、学習到達度等に応じ、指導方法・教材や学習時間等の柔軟な提供・設定を行うことなどの「指導の個別化」が必要である。

(中略)

「指導の個別化」は一定の目標を全ての児童生徒が達成することを目指し、個々の児童生徒に応じて異なる方法等で学習を進めることであり、その中で児童生徒自身が自らの特徴やどのように学習を進めることが効率的であるかを学んでいくことなども含みます。

出典:① 個別最適な学び

つまり「指導の個別化」とは簡単に言い換えれば、すべての児童生徒が一定の学習目標にたどり着けるように、教師が指導の仕方を柔軟に調整することです。

理解に時間を要する児童生徒にはより丁寧な支援を行い、学習が進んでいる児童生徒にはさらなる発展的な課題を提示するなど、学習進度や特性に応じて教材や指導方法、学習時間を工夫することが求められているのです。

興味・関心に応じた「学習の個性化」

次に、「学習の個性化」について、文部科学省の説明を見てみましょう。

基礎的・基本的な知識・技能等や、言語能力、情報活用能力、問題発見・解決能力等の学習の基盤となる資質・能力等を土台として、幼児期からの様々な場を通じての体験活動から得た子供の興味・関心・キャリア形成の方向性等に応じ、探求において課題の設定、情報の集中、整理・分析、まとめ・表現を行う等、教師が子供一人一人に応じた学習活動や学習課題に取り組む機会を提供することで、子供自身が学習が最適となるように調整する「学習の個性化」も必要である。

出典:① 個別最適な学び

すなわち、児童生徒が自らの興味・関心や見据えている将来の方向性に基づいて、学びの内容や進め方を主体的に調整していく学習のあり方を指しているわけです。教師が一人ひとりに応じた学習活動や課題に取り組む機会を用意することで、児童生徒は探求的な学びを自分なりに深めていくことができます。

注意すべき点は、「指導の個別化」が教師側の工夫によって学習を支える取り組みであるのに対し、「学習の個性化」は、学習者自身が学びを最適化していくという違いです。

この2つが相互に作用し、教師の支援のもとで学習者の主体性が育まれることで、初めて「個別最適な学び」は実質的に実現していくと言えます。

「個別最適な学び」を実現するための条件

「個別最適な学び」を実現するためには、どのような仕組みが必要なのでしょうか。ここでは、2つの観点から条件を説明します。

ICTの活用

個別最適な学びを実現する上で、ICTの活用は欠かせない条件のひとつです。

なぜなら児童生徒一人ひとりの理解度や学習進度、つまずきの傾向を把握し、それに応じた学習方法や課題を提示するためには、学習データの蓄積と活用が不可欠だからです。従来の紙のプリントベースの一斉指導だけでは、こうした個々の違いを継続的に捉え、指導に反映させることには限界があります。

ICTを活用することで、学習履歴や到達状況を可視化し、児童生徒に合った教材や学習経路を柔軟に提案することが可能になります。また、児童生徒自身が自分の学びを振り返り、分析する手がかりを得られる点でも、ICTは重要な役割を果たすでしょう。

単に端末を導入すれば実現するものではありませんが、ICTを積極的に取り入れる姿勢は重要と言えます。

GIGAスクール構想により、児童生徒一人1台の情報端末が用意されるようになりましたが、これもこの「個別最適な学び」の実現のための第一歩なのです。

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少人数指導の体制

また、教員の指導体制を柔軟に構築することも重要です。小学校高学年で進められている教科担任制の積極的導入や、複数の教員が連携して指導にあたるチームティーチングは、その代表的な取り組みとして挙げられます。

こうした体制を整えることで、教員が一人ひとりの児童生徒と向き合う時間をより長く確保しやすく、理解度や特性に応じた支援を行いやすくなるのです。

少人数指導や複数教員による指導には、指導の視点を多様化するというメリットもあります。複数の教員が関わることで、児童生徒の学習状況を多角的に捉え、必要に応じて役割分担や指導方法の調整を行うことができるでしょう。

「個別最適な学び」は教員個人の努力だけでは実現できるものではなく、こうした組織的な指導体制の整備によって初めて持続可能なものとなるのです。

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「個別最適な学び」の実践例

では、実際の授業にはどのように取り入れればいいのでしょうか。以下、2つの実践例を紹介します。

参考:授業改善・地域内展開・実践事例集

【岩手県】金ヶ崎町立金ヶ崎小学校

岩手県の金ヶ崎町立金ヶ崎小学校では、5年生の外国語の授業で「個別最適な学び」が取り入れられています。

自分のあこがれの人を英語でスピーチする、という内容の授業において、まず前時に録画した自分のスピーチを視聴する、教師とELTのスピーチを聞き、伝え方の違いを考える、といった個人作業をします。その後、ペアでスピーチを聞き合い、アドバイスし合う協働的な学びを挟み、最後にまたもう一度スピーチを録画、リフレクションを行うという授業設計のようです。

目標に向かって、児童一人ひとりが自分の足りない部分を分析し、そこを補うように改善していく流れは、まさに個別最適な学びと言えるでしょう。協働的な学びもバランスよく取り入れつつ、相互補完的に児童の力を伸ばす設計になっています。

石川県輪島市立門前中学校

石川県の輪島市立門前中学校では、2年生の数学の授業において、「個別最適な学び」が取り入れられています。

平行線と折れ線の角の大きさを考えるという内容の授業で、デジタル教科書を使って、何度も図を書いたり消したりすることで、粘り強い試行錯誤を促しているようです。

自分の考えを整理し表現することができない生徒も、間違いを恐れずに図で考えを表現できるような環境を用意することは、個別最適な学びのひとつの形態と言えるでしょう。

まとめ

以上、個別最適な学びについて掘り下げてきましたが、いかがでしたでしょうか。

一斉指導を前提とした学びだけでは、子どもたち一人ひとりの理解度や関心、学習のペースの違いを十分に受け止めきれなくなっています。そうした中で、「個別最適な学び」は、学習意欲や自己肯定感を守り、さらに伸ばしていくための重要な視点となっているのです。

ICTの活用や少人数指導と組み合わせることで、子どもが「自分に合った学び方で学んでいいんだ」と実感できる環境は確実に広がっていくでしょう。個別最適な学びを日常の教育の中に積極的に取り入れていくことが、これからの学校教育に求められていると言えます。


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この記事を書いた人

大学では教育学部基礎教育学コース所属。世界史が好きだったことを踏まえ、教育の国ごとによる違いやその歴史に興味を持っている。趣味はアニメ鑑賞、読書。

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