東大生の「勝ち確」理論、崩壊の危機?
前回の記事を覚えているだろうか。 現役東大生5名による「暗記対決」において、「紙に書いて覚える(写経・整理)」が圧倒的な強さを見せつけ、「電子(スマホ)」が惨敗したあの企画だ。
前回の記事はこちらから↓

我々は結論づけた。「やっぱり、手書きが最強である」と。
しかし、この結論に異を唱える声(?)が上がった。
「それ、東大生だからじゃないですか?」
「普通の高校生がやったら、違う結果になるのでは?」
確かに、彼らは受験戦争を勝ち抜いた「記述のプロ」だ。書くスピードも処理能力も異常かもしれない。 そこで我々は、その真偽を確かめるべく、リアルな高校の教室へと乗り込んだ。
協力してくれたのは、東亜学園高等学校の1年生31名。
そして今回、検証の指揮を執るのはこの2人だ。


清水講師:今回のMC。冷静沈着な理論派。

新藤講師:前回の対決で「お絵描き暗記」を駆使し、紙派に肉薄した「画伯」。
波乱の予感しかない「お絵描き」推奨
講義は、清水講師による「暗記とは何か?」という問いかけからスタート。
しかし、本題はそこではない。


まぁ〜、じゃあ今日はね、暗記対決をしてみようよ。
突然の対決宣言に、ざわつく教室。
今回のメインイベントは、生徒を4つのグループに強制的に分け、指定された方法で暗記をさせる「実験(!?)」である。

今回、皆さんに実践してもらうのはこの4つです。
- 【写経】 ひたすら書いて覚える(前回の王者)
- 【整理】 情報をまとめて覚える
- 【音読】 声に出して覚える
- 【描画】 絵に描いて覚える
ざわつく教室。特に注目が集まったのは、やはり「④ 描画」だ。 ここで、前回この方法で高得点を叩き出した新藤講師が、お手本を披露する。


文字で覚えるんじゃなくて、イメージで覚えるんです。
例えばスイスなら、国旗と、時計と、洗濯物を……
生徒: 「(ザワザワ……)」
生徒たちの反応は「すげえ」ではなく「えぇ……」に近い。


一体なんなんですかこれは

正直二週間前にやったことなのでマジで何書いてるか覚えてないですね。
講師自ら「覚えていない」と言い放つ暗記法を、強制的にやらされる。 この理不尽こそが、Carpe流のガチ検証だ。
お題は「カタカナだらけの理科用語」
それぞれの暗記方法を説明したところで、ここからお題の発表に移っていく。
今回のルールも前回同様、ガチ仕様だ。

お題は 「自然現象・生物現象」20個です。

前回よりも専門的で、馴染みのない言葉が並んでいる。
例:「バイオルミネンス(生物発光)」「収斂進化(全く違う生物が似た姿になる)」「ダーティーサンダーストーム(火山雷)」など

暗記時間は15分だけあります。
どんな問題を出すかは教えません。覚えられることは全て覚えちゃいましょう。

ちなみに、この講義は記事になるのでみなさん全力で頑張ってください……!!
さあ、実験スタートだ。
運命の「ジャンケン」決戦
説明が一通り終わり、いよいよ運命のチーム分けの時間。 ここで、お絵描き推奨派の新藤講師がポツリと漏らした。

……まあ、流石に『④描画』はクセ強いよな〜

(自分で言った……)
じゃあ公平に決めましょう。各班の代表者がジャンケンをして、勝った班から好きな方法を選べることにします。
「勝てば安泰、負ければ地獄」。 教室に緊張が走る。各班の代表者がおずおずと立ち上がり、運命の拳を振り上げた。
最初はグー! ジャンケン……
全員: 「ホイ!!!!」

勝負は一瞬で決した。 見事1位を勝ち取ったのは、教室後方の生徒グループだ。
彼らには「最強の選択権」がある。当然、実績のある『①写経』か、手堅い『②整理』を選ぶはずだ。

おめでとうございます! では、どの暗記法にしますか?
1位の生徒: 「えーっと……じゃあ、『④お絵描き』で!」

えぇ……!?
なぜ彼らは、自ら茨の道を選んだのか。若さゆえの過ちなのか。
続いて、2位のグループ。
2位の生徒: 「じゃあ僕らは、『③声に出して読む』で」
こちらは堅実(?)に、楽しそうな音読を選択。 そして3位。残るは「①写経」と「②整理」。
3位の生徒: 「えー、『①ひたすら書きます』」
4位の生徒(敗者): 「あー……じゃあ余った『②情報を整理する』やります……」
こうして、波乱のチーム分けが完了した。 まさかの「指名」を受けた描画班。彼らのスケッチブックには、一体どんな傑作が生まれるのか。 そして、余り物となった整理班は、地味な作業に耐えられるのか。
いよいよ、15分間の暗記バトルが幕を開ける。
カオスと静寂の15分間
「よーい、スタート!」
教室が、4つの異なる空間に分断された。
静かなる苦行【写経班】&【整理班】
前回の王者「紙」スタイル。しかし、様子がおかしい。
東大生のように猛烈なスピードでペンが進まないのだ。
生徒の声: 「手が痛い…」「漢字がムズい…」
「バイオルミネンス」「リューシスティック」
……長いカタカナと複雑な意味を書き写すだけで、刻一刻と時間が削られていく。

これは「暗記」ではなく、ただの「筆写」になっていないか?
教室のノイズメーカー【音読班】
一方、今回初めての試み、「音」スタイル。
生徒A: 「ねえ、『死滅回遊』って何?」 生徒B: 「呪術廻戦やん!!魚が流されて死ぬやつ!」

とにかく賑やかだ。隣の班から「うるさい!」とクレームが入るほど。しかし、彼らはただ読んでいるだけではない。自然と「クイズの出し合い」が始まっていたのだ。
迷走する芸術家たち【描画班】
そして問題の【描画班】。



生徒C: 「『収斂進化(しゅうれんしんか)』ってどうやって絵にするの…?」

……難しそうだなぁ。
色々な絵を描く子。楽しそうだが、肝心の「用語」と「意味」が結びついているかは極めて怪しい。
結果発表:東大生の常識が覆る!
運命のテスト時間が終了。 講師の東大生が回収し、その場で採点を行う。果たして「最強」は守られたのか?
結果は、我々の予想を大きく裏切るものだった。
【第1位】音読班(平均 11.7点)
【第2位】写経班(平均 11.28点)
【第3位】整理班(平均 11.25点)
【第4位】描画班(平均 11.0点)
なんと、「音読(声に出す)」が超〜〜僅差で勝利。
逆に、東大生が最強と断言した「紙(写経・整理)」は、平凡な結果に終わったのだ。
なぜ高校生には「音読」が刺さったのか?
なぜ、東大生と真逆の結果になったのか? 生徒たちの声と様子から、その理由が見えてきた。
勝因:音読班の「ライブ感」
生徒の感想: 「友達と言い合うのが一番覚えられた」
高校生たちは「友達と出し合う」という「対話」に変化させていた。
15分という短い時間で、互いに問題を出し合うことで「インプット」と「アウトプット」を高速回転させたのだ。教室の「騒がしさ」は、脳が活性化している音だったのかもしれない。
敗因:紙班の「スピードの壁」
生徒の感想: 「書くのに必死で、頭に入ってこなかった」
東大生は「書くのが速い」。思考と筆記が直結している。
しかし、多くの高校生にとって、慣れない用語を「書く」作業はタイムロスにしかならなかった。
書くことが目的化してしまい、覚える時間がなくなってしまったのだ。
敗因:描画班の「抽象化の罠」
生徒の感想:「絵のイメージが浮かばないと、詰み」
特筆すべきは、描画班の得点差が一番激しかったことだ。
今回のお題は「概念」が多かった。
「ムービングロック(石が動く)」 なら描けても、「水平伝播(遺伝子の移動)」 を絵にするのは至難の業。
絵心以前に、「言葉をイメージに変換する」という高度な思考プロセスがボトルネックになり、最下位を迎えた。
結局、「最強」とは何なのか?
波乱の検証が終了。教室には「やりきった」空気が漂っている。
最後に、講師の清水が教壇に立ち、この実験の「真意」を語り始めた。

……というわけで、結果は音読班の圧勝でした。
でも、今日伝えたかったのは『音読が最強だ』ってことじゃありません。
彼はスクリーンを背に、生徒たちを見回してこう続けた。


あくまで持論ですが……
暗記が得意な人と苦手な人を分けているのは、『ちゃんと理解して覚えようとしているか』どうかだと思うんです
ただ文字面を追うのではなく、「なぜそうなるのか?」を考える。 例えば「収斂進化」なら、「サメとイルカは全然違う生き物なのに、海で暮らすうちに似たような形になったんだな」と、中身を理解してイメージする。

良いと言われている暗記法も、結局は自分に合っているか分かりません。もしかしたら……
あの『お絵描き』が一番合ってる人だって、いるかもしれないんです
描画班の生徒: 「(苦笑)」

だから、食わず嫌いせずに『まずは色々な暗記法をやってみる』ことが大切です。その中で、自分だけの『最強』を見つけてください。
「お絵描き」を選んで散った彼らも、決して無駄ではなかったのだ。「自分には合わない」という貴重なデータを得たのだから。
東大生の理論は、あくまで「彼らにとっての正解」に過ぎない。 教科書を閉じ、ペンを置き、あるいは友人と語り合いながら。 高校生たちの「自分探し」ならぬ「暗記法探し」は、まだ始まったばかりだ。
Carpedia編集部は、これからも(たまに無茶ぶりをしながら)勉強のリアルを応援し続ける。
(取材協力:東亜学園高等学校)










