最近、教育現場でよく語られる「チーム担任制」。一体どのような制度なのでしょうか?教員の働き方改革が求められている中、インクルーシブ教育の促進のためにも、チーム担任制の導入が全国の様々な学校で行われています。
今回は、チーム担任制の仕組みとメリット・デメリット、そして導入例について、東京大学教育学部生の碓氷明日香が詳しく説明します!
チーム担任制の仕組み
そもそも、チーム担任制とは何を指しているのでしょうか。ここでは、その仕組みについて、またどのような目的で導入されているのかについて説明します。
概要
現在、日本の多くの学校(特に小中学校)では「学級担任制」、すなわち1つの学級を1人の担任が担当するという仕組みで運営しています。しかし、最近、学級担任を1人に固定せず、複数の教員がチームとなり、学級における生徒の指導等の業務をローテーションを組むなどして担当する「チーム担任制」が徐々に広がってきています。
「チーム担任制」は「複数担任制」とも言われています。また、学年全体を複数の教員がまとめて対応する場合は「学年担任制」という名が使われることも。この記事では、これらを全てまとめて「チーム担任制」として説明していきます。
目的
近年、教員の業務過多が取り上げられるようになりました。日々の授業に加え、生徒一人一人の面談や保護者面談、家庭訪問、行事の引率、放課後の課外活動など、様々な業務を担任1人でこなさなくてはならない現状では、残業は当たり前です。さらに他の先生が手伝おうとしても、学級という壁が大きく、ままなりません。
そこで、複数の教員で学級を担当すれば、その負担を軽減することができるため、チーム担任制が導入され始めているのです。また、そうすればもし誰かが突然休職・退職することになったとしても、急にあるクラスの担任が全くいないという状況に陥ることはありません。つまり、複数人で協力して学級を運営するために導入された制度なのです。
最近では、インクルーシブ教育といって、障害や病気の有無などにかかわらず、全員に同じ環境の教育を与えることを目指す風潮が広がっています。チーム担任制で1人の生徒を複数の担任が見ることができるようになれば、インクルーシブ教育につながる、とも考えられています。
導入のメリット
では、具体的にどのようなメリットがあるのでしょうか。ここでは、大まかに5つに分けて説明します。
1、教員の負担軽減につながる
導入の目的としても挙げたように、チーム担任制を取り入れれば、教員の負担を減らすことができます。
担任は、一つの学級を1年間、大きな問題なく成長に導くという役割を与えられます。1人の教員にその役割がのしかかることは、彼らにとって大きなプレッシャーになるのです。若手教員は特にそのプレッシャーを強く感じることでしょう。そこで、複数人がチームとなって学級を担当すれば、そのプレッシャーを分け合うことができます。さらに、若手教員はベテラン教員の指導の様子を見て学ぶこともできるのです。
この仕組みは、担任の精神的な負担を軽くしてくれる、というわけですね。そして、それだけではなく、実際の業務も分担することができるため、物理的な負担軽減にもつながるわけです。
2、授業の質の向上につながる
1人の教員が担当する業務が減ることで、授業の質を高める余裕が生まれます。空いている時間に教材をしっかり読み込んだり、授業資料の作成に時間をかけたり、授業の仕方を研究したりできるようになるのです。
学校によりますが、チーム担任制の導入とともに、教科担任制を取り入れている学校も多く、その場合は以前と比べて特定の教科に集中して授業準備ができるようになります。そういった意味でも、チーム担任制は授業の質の向上につながるのです。
3、いじめ、学級崩壊等の問題の抑制・早期解決が可能になる
「学級運営等の在り方についての調査研究」によると、「『学級がうまく機能しない状況』の直接的な要因に、特別な教育的配慮や支援を必要とする子どもへの対応の問題や学級担任の指導力不足の問題がある」そうです。1人の教員が一つの学級を担当することの問題点は、担任と生徒同士の信頼関係がうまく築けなかった場合に、学級は崩壊の一途を辿るしかなく、その結果教員に精神的負担がかかり、休職や退職に追い込まれてしまうことにあります。
チーム担任制を取り入れれば、誰かがうまく学級を機能させられなくても、他の教員がカバーすることができます。交代で複数の教員が担任として立てば、学級間で指導力の差が生まれず、均質的な指導を提供することが可能になるのです。つまり、いじめや学級崩壊等のクラス内の問題の抑制につながります。
また、もし問題が起こってしまったとしても、教員同士で相談し合いながら協力して解決に向かうこともできます。そして、生徒にとっても、相談しやすい先生に相談することができるので、問題の早期発見、解決につながるのです。
4、生徒を複数の目で見ることができる
これまでは、担任1人によって生徒の評価が確定していました。一方で、チーム担任制では、複数の先生が一人一人の生徒の評価をすることになります。多くの目があれば、それだけ多くの見方があるはずなので、様々な見取りが可能になり、いわゆる「贔屓」が少なくなるでしょう。
また、例えばある生徒が授業についていくのが難しいと感じていたとして、学級担任制ではクラスの進度に全員が無理やり合わせることを求められますが、チーム担任制なら、授業を担当していない他の担任がその生徒を直接的にバックアップすることが可能です。チーム担任制は、1人の生徒につく担任の人数が増えると考えることができるため、個々人に合わせた教育ができるようになると言えます。
5、生徒と教師の出会いを広げられる
担任教師が交替するということは、生徒が自分に合う教師に出会える確率が高まるということです。先生との相性が悪いから荒れてしまったり、不登校になってしまったりする生徒は一定います。そこで、複数の先生が担任として入ってくれれば、生徒にとって、この人なら大丈夫だと思える先生が見つかるかもしれません。
また、いじめ、学級崩壊のところでも少し述べましたが、この先生になら相談しやすい、という先生が見つかる確率も上がるので、生徒間の問題を早期に発見し、解決に向けて動くことができるようになります。
導入のデメリット
メリットに比べて、あまり目立ちませんが、デメリットもいくつか存在します。まだ導入され始めたばかりの制度なので、改善の余地もあるようです。
責任の所在が曖昧になる
多くの目で生徒を見ることができるメリットはたくさんありますが、一方で、「責任の所在が曖昧になる」というデメリットもあります。何か問題が起きた時、誰が解決すればいいのか、責任のなすり付け合いが起こったら、せっかくのメリットもデメリットに変わってしまいます。
また、生徒や保護者にとっても、責任の所在がわからないのは困るようです。相談しやすい先生を見つけることができた生徒は問題ないでしょうが、そうでない生徒は、問題が起こった時、誰に相談すればいいかわからなくなってしまいます。保護者も同じです。子どものことについて何か相談しようとしても、誰に言えばいいのかわからない。
そんな状態をなくすために、教員間の対話・情報共有が非常に大切になってきます。誰に相談しても大丈夫、という状況を作ることが理想です。相談されたことをすぐに他の担任に共有し、協力しながら応える必要があるのです。
ディスコミュニケーションが起こる
チーム担任制では、教員間の連携が必須です。この先生に伝えたけれど、あの先生には伝わっていない、ということが起こっては、生徒と先生の信頼関係は築けません。とはいえ、1人で全て情報を持っていれば良かった学級担任制とは違い、仕組みがうまく回るまではやはりディスコミュニケーションが起こってしまうでしょう。
こればかりは、導入してみて、少しずつ仕組みを改善していくしかありません。ただ、その試行期間に傷つく生徒が出ないようにすることは不可欠です。
担当外の科目の指導力が成長しない
教科の担当を決めることで、負担が減ったり授業の質が上がったりするというメリットは先ほど紹介しましたが、一方で、担当していない科目の指導力は当たり前ですが、経験を積めないので成長しません。
その1年間は問題ないかもしれませんが、次の年には別の科目の担当になるかもしれません。教科担任制を導入する場合も、若手の教員はある程度全教科の経験を積めるように工夫をした方がいいかもしれませんね。
導入例
では、実際の導入例を見てみましょう。
兵庫県稲美町立加古小学校
兵庫県稲美町立加古小学校では、令和4年4月からチーム担任制を導入しています。3~6年生の4学年4学級を5人の教員が1週間ごとに交代で担任するシステムを作り、学級担任以外の週はサポートに回るような仕組みにしているようです。また、教科担当を決めるなど、教員1人の負担を軽減するように考えられています。
その結果、教員の負担軽減や「多くの目」で見守ることによるメリットは成果として得られた上、さらに想定していなかった成果も得られたそうです。チームで担任業務に取り組む中、「あればいいが、なくても困らない」という業務を明らかにし、本当に必要な業務を精選することができた、教師間のコミュニケーションが活性化した、などの効果がありました。
一方で、学校全体を見る広い視野を持った教員を育成する必要があることや保護者の賛成を得る必要があることなど、課題もあるようです。
出典:こちら
福岡県福岡市立城西中学校
福岡県福岡市立城西中学校では、令和6年からチーム担任制を導入しました。2年生は7クラスを2グループに分け、4クラスを7人、残りの3クラスを5人の教員が担当しています。この学校は、担任の業務を行う「メインティーチャー」と副担任の業務を行う「サポートティーチャー」を1週間ごとに交代しながらローテーションでクラスを見ていくというシステムになっています。
生徒たちは毎週違う先生が来る新鮮さにワクワク感を感じているようです。そして、教員も1人で学級を持つプレッシャーを感じなくて済むため、精神的負担の軽減を実感しています。また、担任業務の分散によって、教員の働き方改革にもつながっていると言います。
出典:こちら
まとめ
いかがでしたでしょうか。チーム担任制の仕組みとメリット・デメリット、そして導入事例について詳しく解説しました。現行の学級担任制と比べて、教員の負担を軽減できる上、生徒にとってもメリットが多いシステムとなっています。とはいえ、デメリットはあるので、いかに工夫してそれをなくしていくかが、これから先重要になっていくと言えるでしょう。
公式サイトにて、カルぺ・ディエムが提供している具体的なサービスを紹介中!
カルペ・ディエムでは、学校や保護者のみなさまが抱える懸念やニーズに応える形で、講演・講座・ワークショップを提案し、それらを実施しております。
生徒の皆さんの大学選びや学部選びのワークショップ、モチベーション向上を目的とした講演、独自の探究学習授業、長期休暇中の学習合宿、難関大学合格を目指した通年プロジェクトなど、さまざまなプランをご用意しております。
私たちの講師は現役東大生で 偏差値35から東大合格を果たした西岡壱誠をはじめ、地域格差や経済格差などの多様な逆境を乗り越えた講師たちが、生徒の皆さんに寄り添って全力でサポートいたします。
ご質問やご相談だけでも結構ですので、お気軽にお問い合わせください。