インクルーシブ教育とは?東大生が実践例も徹底解説!

現役東大生が徹底解説!インクルーシブ教育って何?

現代では、さまざまなところで「多様性」という言葉を耳にします。教育現場でもこの多様性を重要視するようになっています。

この記事ではそんな教育現場での多様性を体現しようとする「インクルーシブ教育」を、東大教育学部生の新藤篤隼斗が徹底解説していきます!

目次

インクルーシブ教育とは?

インクルーシブ教育とは、障害の有無に関わらず、すべての子どもが同じ場で共に学び合うことを目指す教育の考え方です。「特別扱い」するのではなく、誰もがその場に「包み込まれている(inclusive)」状態を作ることが目的です。

インクルーシブ教育の概要

文部科学省によると、インクルーシブ教育は「共生社会」の実現に向けた取り組みの一環であり、障害のある子どもが可能な限り地域の通常の学級で学ぶことを推進しています。

この教育モデルでは、子ども一人ひとりの特性に応じた「合理的配慮」を行いながら、多様な子どもたちが互いに学び合い、成長していくことを大切にしています。

参考:共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進(報告) 概要, https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/044/attach/1321668.htm

特別支援学級との違いは?

特別支援学級、俗にいうひまわり学級は、発達障害児などの特定の支援を必要とする子どもたちが、専門の指導を受けるための場です。健常児とは異なるクラスで、障害特性に応じた個別指導が受けられます。

一方でインクルーシブ教育は、「可能な限り通常の学級で学ぶこと」を前提とし、そこに必要な支援や配慮を持ち込むスタイルです。特別支援学級との違いは、健常児と「場を分ける」のか「場をともにしながら支援する」のか、という点にあります。

障害を持った子供はどのような教育を受けてきたのか

かつて、日本の教育制度は障害のある子どもを「分ける」ことが主流でした。1960年代までは「養護学校」が中心で、通常学級での受け入れはごく一部でした。

しかし、1994年にユネスコでサラマンカ宣言が、2006年に国連障害者権利条約が採択され、世界全体がインクルーシブ教育の方向に動きました。そして、2014年には日本も批准し、2016年に障害者差別解消法が施行されました。

それらを契機に、日本でもインクルーシブ教育への移行が加速し、障害を持つ子供と健常児が「ともに学ぶ」体制が少しずつ整備されてきました。

参考:髙橋純一・松﨑博文(2014)『障害児教育におけるインクルーシブ教育への変遷と課題』,人間発達文化学類論集,第19号,pp.13–24.

インクルーシブ教育の目的

インクルーシブ教育の最大の目的は、すべての子どもが「違い」を認め合い、ともに生きる力を育てることです。単なる福祉的配慮にとどまらず、「共生社会」を実現するための教育的土台とも言えます。これはSDGsの「質の高い教育をみんなに(目標4)」や「不平等をなくそう(目標10)」と深く関係しており、教育の機会均等と多様性の尊重を通じて、誰一人取り残さない社会の実現を目指しています。

また、障害のある子どもにとっても、「特別扱いされる」のではなく「社会の一員として育つ」経験は、自尊感情や社会性の形成に大きな影響を与えます。

17つの持続可能な開発目標
出典:国際連合(United Nations)。SDGsアイコンはガイドラインに従って使用しています。

市立小学校に学ぶインクルーシブ教育の実践例

大阪府豊中市立南桜塚小学校の「ともに学び、ともに育つ」教育

大阪府にある南桜塚小学校では、1970年代の初めから、すべての子どもがともに学ぶインクルーシブ教育の実践が始まりました。きっかけとなったのは、自閉症のある子どもを通常学級に戻すという取り組みです。当初、その子は環境の変化を受け入れられず、教室への参加にも消極的でした。

しかし、日を重ねるごとに少しずつ変化が現れ始めました。彼は徐々に発言する機会が増え、同級生と一緒に遊ぶようになっていったのです。また、それをきっかけに、クラスの子どもたちにも「違いを受け入れる力」や「他者と協力する姿勢」などの成長が見られました。

この経験を経て、学校では1975年頃から「すべての子どもを通常学級で共に学ばせる」という方針が本格的に導入されました。そして2000年以降には、学級や学年といった垣根をこえて、教職員全員が子どもたちを支える「共同指導体制」が確立されました。

共同指導体制の理念と目的

この共同指導体制は、以下の3つの理念に基づいています。

  1. 一人ひとりの子どもを多くの目で見つめ、その子の持つ力を伸ばす指導を行うこと。
  2. 多くの教職員が子どもを多面的に見守ることで、子どもや保護者から信頼される指導を行うこと。
  3. 子どもの指導を通じて教職員同士が関わり合い、互いの専門性を高め合うこと。

この体制により、どの子どもにも適切な支援が行き届き、安心して学べる教育環境づくりが目指されています。

「自立=依存先を増やす」発想と子ども同士の支え合い

南桜塚小学校では、「自立する」とは「何もかも一人でできるようになること」ではなく、「多様な人に支えられながら生きる力を身につけること」=「依存先を増やすこと」という考え方を大切にしています。

この考えに基づき、子どもたちが障害のある友だちを自然に支えたり、助けられた経験に感謝を伝え合える関係性を育てる取り組みが行われています。そのために、段階的に子どもたちの意識と行動を育む工夫がされています。

子どもたちが支え合う力を育む3つの段階

第1段階:当事者性を持たせるための種まき

まずは教師が、障害のある子どもにどのようなサポートをしているのかを日常の中で自然に見せます。教師の行動を見ることで、子どもたちは「助ける」ことに対する理解と興味を持ち始め、自分たちも関われる可能性に気づいていきます。

第2段階:当事者であることの気付きと芽生え

障害のある友だちとともに学ぶには、どんな工夫や配慮が必要なのかを子どもたち自身に考えさせます。この過程では、教師は主導せず、子どもたちの行動を見守り、必要なときにサポートする立場に回ります。

第3段階:当事者として課題解決に向かう

最終段階では、子どもたちが主体となって「どうすればみんなが授業や活動に参加できるのか」を考えるようになります。障害のある子ども本人にも意見を求め、教師と子どもが一緒になって合理的配慮の方法を話し合い、ともに学ぶ環境をつくり上げていきます

こうした取り組みを通じて、南桜塚小学校では、障害のある子どもが自立していくと同時に、その周りの子どもたちも他者を理解し、支え合う力を育てていける環境づくりが実現されています。単なる「特別支援」ではなく、すべての子どもが主体的に関わりながらともに成長できる教育を目指しています。

参考:バリアフリー教育研究センター主催のオンライン研究会より

インクルーシブ教育の問題点

ここまでインクルーシブ教育の目的や実践例を述べてきましたが、やはり課題も多くあります。ここでは実践の際によくみられる課題とその対応策についてご紹介します。

障害のある子供だけでなく、周囲の子供への影響

障害のある子供にとっては、支援が不十分な場合、障害のある子どもが授業内容を理解できなかったり、孤立したりするリスクがあります。必要な配慮やサポートが整っていないと、自尊感情が傷つき、学習意欲の低下にもつながる恐れがあります。

また、障害のある子供だけでなく、周囲の子供への影響もあります。インクルーシブ教育では授業が障害のある子供に合わせて進むため、学習のペースが遅くなったり、教員のサポートが偏ることに不満を感じる場合があります。

このような問題を防ぐためには障害のある子供に対して支援するのみではなく、周囲の子どもの理解を深めることが重要です。相互理解やユニバーサルデザインの利用によって全ての子供たちが参加しやすい環境を整えるようにしましょう。

合理的配慮が難しい

現実的には、人的資源や時間、教員の専門性の不足などにより、十分な合理的配慮が行き届かない場合も多くあります。特に都市部や過疎地域では、人手不足が深刻です。

また、「配慮すべき内容」が生徒の持つ特性によって異なるため、マニュアル化が困難で対応が属人的になりがちという課題もあります。

こうした課題に対応するためには、特別支援教育の専門スタッフの配置を増やしたり、研修機会の充実を図ることが求められます。あわせて、配慮内容を共有・蓄積する校内の情報共有体制を整備することで、属人的な対応を回避し、持続可能な支援体制につなげることができます。

教員の負担の増加

障害のある子どもへの個別対応に加え、合理的配慮を行いながら学級全体の授業運営を進める必要があるため、教材準備や授業設計に多くの時間と労力を要します。また、個別の教育支援計画の作成や、保護者・専門スタッフとの連携も不可欠であり、負担はどんどん大きくなっていきます。

こうした理由から、ただでさえ仕事量が多いと言われている教員の負担がさらに大きくなり、精神的・身体的な負担を抱える教員が多く、継続的な支援体制や人的リソースの整備が求められています。

このような問題を解決するには、一人の教員に任せきりにするのではなく、学校全体として動くことが必要不可欠になっていきます。学年内での分担や、スクールサポートスタッフの導入、ICTを活用した教材作成支援などを通じて、特定の教員に負担がかかりすぎないように気をつけましょう。

インクルーシブ教育の現状とこれから

インクルーシブ教育は取り入れられていくのか

インクルーシブ教育はますます学校現場に広がっていくでしょう。

現在では文部科学省も「特別支援教育の推進」とともに、障害のある子どもが可能な限り通常学級で学ぶことを目指す「インクルーシブ教育システム」の構築を掲げています。

多くの自治体で、特別支援教育コーディネーターや支援員を配置し、ICT機器などを活用した教育支援も進められています。また、現場でもユニバーサルデザインの考え方を授業に取り入れたり、対話を中心に据えた学級経営を実践したりする学校も増えており、インクルーシブ教育の土台が少しずつ整ってきていることがわかります。

参考:文部科学省, 共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進(報告) 概要, https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/044/attach/1321668.htm

インクルーシブ教育を取り入れていくために

ますます取り入れられると考えられるとはいえ、全国的には地域差や学校間格差も大きく、全ての子どもがインクルーシブな環境で学ぶことができるようになるとは言い切れません。特に支援体制や教員の専門性に関しては、まだ十分とは言えないのが現状です。本文中で紹介したように課題も残っています。

それでも、インクルーシブ教育を進めていくためには、「インクルーシブ教育=障害児教育」と考えるのではなく、「すべての子どもにとって教育環境の質を高める取り組み」として捉えることが大切です。

教師や保護者にとって、すべての子どもに対して完璧な対応をするのは現実的に難しいことです。しかし、違いがあることを前提とし、その違いの中で子どもたちが安心して成長できる環境をつくることがインクルーシブ教育の本質です。そのためには、一つひとつの課題に丁寧に向き合いながら、柔軟に対応していく姿勢が求められます。


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この記事を書いた人

教育事業や出版事業での取り組みを様々な媒体を通して発信しています。自社メディア「カルペディア」では、「人生を”ちょっと”前のめりに」をテーマに、教育・学習を取り巻く様々な疑問・関心について記事を掲載しています。

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