自分の周りには地頭がいい人がたくさんいるけれど、結局地頭がいいってどういうこと? と疑問に思っている人も多いのではないでしょうか。
なんとなく、頭の回転が早くてコミュニケーション能力が高くて……というイメージはありますが、なんだか定義がぼんやりしていますよね。そこで、この記事では、西岡壱誠の著書『「考える技術」と「地頭力」がいっきに身につく 東大思考』で紹介されている内容を中心に、地頭がいいとはどういう状態を指すのかを分かりやすく解説!。地頭がいい人が実践している五つの思考法もご紹介します。
「地頭がいい」とは?
「地頭」とは、「その人本来の頭のよさ」を意味する言葉です。勉強ができる、偏差値が高いといった、いわゆる教科学習における点数の高さとは異なります。「地頭」という言葉は、思考力・発想力・コミュニケーション力など、テストでは測れない能力を指しているのです。「地頭がいい人」は、それらの能力が高く、柔軟性を持って物事に取り組むことができるという特徴があります。
地頭とは、もともとはコンサルタント業界で使われていた言葉であり、「知識や情報を加工する力」を意味していました。今ではその言葉が広く使われ始め、上記のような広い意味に変わったと言われています。
地頭のいい人が求められる理由
これからの社会に求められる人物像として、今や切っても切り離せなくなっているのが、この「地頭がいい」という要素です。確かに、思考力もあって、コミュニケーション力もある人材は有能にちがいありません。しかしなぜ、これほどまでに重要視されるようになったのでしょうか。2つの社会背景に注目したいと思います。
インターネットの普及とAIの到来
いまや、AIによって奪われない仕事はないとまで言われるほど、AIにできることが増えてきました。もはやただの知識は、人間ではなくインターネットに求めるようになりつつあり、ある程度の難易度の問題ならば、AIが代わりに解くこともできます。
そんな世の中で必要とされるものは、単なる知識でも計算力でもありません。膨大な情報から必要な部分を抜き出し、読み解いていく力や、それを今までなかった方法で活用し、応用していく力です。これらのAIが代替し得ない力が求められるようになってきています。
VUCA時代
VUCA時代という言葉、一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。VUCAは、「Volatility(変動性)」「Uncertainty(不確実性)」「Complexity(複雑性)」「Ambiguity(曖昧性)」の頭文字をとった言葉です。変化が激しく、物事がどんどん複雑化していき、先読みが難しくなっている時代を指しています。
今はこのVUCA時代の真っ直中です。科学技術の発展は目まぐるしく、今後もこのVUCA時代は続いていくことでしょう。時代の変化に合わせてニーズも多様に変化していくこの時代で、変化に柔軟に対応できる地頭のいい人が求められるのは当然なのかもしれません。
地頭がいい人が実践している5つの思考法
地頭がいい人は「日常の解像度」が違うと言われています。つまり、普段から物事を少し違う見方で見ているのです。逆に言うと、少し考え方を変えるだけで、すぐに地頭をよくできるのです。そんな思考法を5種類ご紹介します。
原因思考
地頭がいいと言われている人は、一度の指示で作業を覚えてしまったり、細かいポイントまで覚えていたりと、記憶力がいいという印象がありますよね。では、地頭がいい人は、丸暗記の能力が高いのでしょうか?
答えは、「いいえ」です。どれだけ頭がいい人でも、何かを一度見たり聞いたりするだけで完璧に覚えてしまえる人というのはほとんど存在しません。彼らはものごとの見方を変え、「原因思考」という思考法によって物事を理解しているのです。
記憶する対象を解釈する
原因思考を獲得するためのステップは二つあります。一つ目は、「記憶する対象を咀嚼し、覚えやすいものへと変換する」ことです。例えば、英単語の暗記をするときに、意味のない文字列を暗記しようとしてもなかなか覚えられませんが、単語を細分化して接頭語などの意味を読み取ることで格段に覚えやすくなったりします。このように、覚える対象を自分で解釈し、理解することでただの丸暗記よりも格段に暗記しやすくなるのです。
覚えるべきものを少なくする
二つ目は、「覚える対象を関連づけて、覚えるべきことを少なくする」ことです。これは、先ほどのステップで咀嚼し、細分化した覚える対象を、自分がすでに知っていることと結びつけて覚えることです。このとき、覚える対象に「なぜ?」と問いを立てると、背景や原因を知ることができて既知の物事と結びつけやすくなります。知識は何か自分が知っていることと関連づけておくと、その物事の原因と結果がわかりやすくなりたとえ忘れてしまっても思い出しやすくなるのです。
上流思考
地頭がいい人は、「要するに〜」という言葉をよく使いますよね。彼らは議論や文章を要約する能力が非常に高いのです。要約するとは、文章の論点を掴んで情報の取捨選択をすること。重要な部分を瞬時に見抜き、ピックアップすることができるのです。
では、具体的にどうしたら要約力を上げることができるのでしょうか。その秘訣は、目の前の出来事には必ず「上流」があると考える、上流思考にあります。例えば近年の円安は結果に過ぎず、その上流にはロシアの戦争や、それに伴う資源価格の更なる高騰などのさまざまな原因や背景が存在しています。要約力が高い人はそういった「上流」の事柄を把握する能力が高いのです。
言葉から物事を正しく認識する
上流を捉えるためには、物事を正しく認識しなければなりません。そのためにまずは、言葉の定義から始めてみましょう。言葉を自分なりにでいいので定義することで、その言葉が選ばれた意味を確かめ直すことができ、物事の背景に目を向けやすくなります。
物事の上流が何か掴めたら、あとは流れを作っていくのみです。数字や具体例を省きながら、上流の説明を必要に応じて挟みつつ、物事を説明していけば、簡単な要約文が出来上がります。一朝一夕で身につくようなスキルではないので、普段から少しずつ意識することが大切です。
目的思考
地頭がいいと言われている人に対して、あの人プレゼン上手だな、話上手いなと思ったことはありませんか?地頭のいい人は、説明力が高いので、話が上手い人が多いのです。
要約力と説明力
説明力が高いことと、要約力が高いことは少し違います。要約力が高い人は、物事の上流を探す、すなわち抽象化する能力が高いのに対し、説明力が高い人は、「たとえる力」が高いといえます。話がわかりやすい人は、「相手が知っていること」に関連づけて話す傾向にあるのです。
そもそも全く知らないことを理解することはどれだけ頭がいい人でも至難の業です。私たちは、知らないことを自分たちがすでに知っていることに結びつけて理解しているのです。そこで地頭のいい人は、何かを説明する際に相手の知っているであろう具体例を使って説明するのです。これが説明力が高い、ということなのです。
まずは目的から
でも、相手が何を知っているかなんてわかるわけない、そう思う人も多いのではないでしょうか。そこで、今からご紹介する「目的思考」を使います。目的思考とは、物事を目的と手段の二つに分けて考える思考方法を指します。多くの人は、目的、つまり誰にどうして何を伝えたいのか、を十分に明確にしないまま話し出してしまいます。そうではなく、伝えたいことを明確に頭の中に思い浮かべ、何が伝えられれば終わりなのかを考えます。そのゴールを達成するために、何を伝えるべきか、目的を考えていくのです。そうすれば自ずと、わかりやすい説明ができるようになります。
裏側思考
地頭がいい人は空気を読む能力も高い、そう思ったことはないでしょうか。「一を聞いて十を知る」ことができるような気がしてしまいます。でも実際は、そんな超能力じみたことできるわけがありません。そうではなく、複数の視点で物事を見ているため、一つの物事からいろいろなことを推察することができるのです。
とりあえず反対してみる
でも複数の視点など、すぐに身に付くわけではありません。手っ取り早く新たな視点を身につけるためには、あえて「反対の意見」を考えることです。どんな物事にも裏側は必ず存在しており、その裏側をしっかり見ることができれば、より良いアイデアを思いつけるようになるのです。
議論を通して成長へ
より多くの視点を身に付けたいのであれば、ディベートなどを通した思考トレーニングが効果的です。ディベートというと、少し難しそうに聞こえるかもしれませんが、ただ複数の視点で議論を進めていくだけです。例えば、「今年からタバコを全面的に禁止するという法案についてどう思うか」と言う議題があったとしましょう。この議題に対する立場として考えられるのは、何も賛成/反対だけではありません。他にも、急進派や穏健派、部分的に賛成や反対など、細かく分けるとたくさんの立場が出てくることがわかります。それぞれの立場に立って意見を考えてみると、自然といろいろな視点から物事を考えられるようになっているのです。
本質思考
どれだけ頭が良くても、結局は問題や課題が解決できなければ意味がありませんよね。そこで最後は、問題解決力を高めるための思考法をご紹介します。
必要なのは全体と部分を見抜く力
問題解決には「伏線を見つける能力」が必要不可欠です。日常の何気ないポイントに、解決の糸口や鍵が眠っていることは少なくありません。伏線を見つけるために、ここでも重要になってくるのが、視点です。今度はたった二つだけ、「マクロな視点」と「ミクロな視点」を意識してみます。
「ミクロ」な視点とは、「部分」を見る視点のことです。全体を見ているだけでは決して気づかないような細かいところを指して「ミクロ」と呼んでいるのです。このミクロな部分をいかにして問題全体と結びつけるかが重要になってきます。
「マクロ」な視点とは、「全体」を見る視点のことです。物事の全体像を俯瞰的に捉え、短期的にではなく長期的に物事を捉えることを指します。しかし、長期的に捉えすぎて目の前が疎かになっていては元も子もありませんから、マクロな視点はミクロな視点に支えられてこそ意味があると言えるのです。
本質を見抜く力とは
つまり、地頭がいい人はマクロな視点もミクロな視点も両方持ち合わせており、これらの視点を自由に行き来しているのです。振り返ってみると、今までご紹介した思考法もミクロとマクロを行き来するものに他なりませんでした。例えば、原因思考では結果というマクロな物事から、原因というミクロな事柄を見出していました。また、上流思考では見えているマクロな事柄から、物事の流れというマクロを知ろうとする行為でした。このように全ての思考法は、本質を見抜くためにあると言っても過言ではないのです。
まとめ
いかがだったでしょうか。
地頭を鍛えるためにご紹介した「5つの方法」を全てを一気に実践するのはとてもできることではありません。しかし今日はこれを意識してみよう、明日はこれを意識してみようなど、日々の習慣づけをすることで、頭がその思考法になれてきます。ぜひ今日から1つ実践してみてください。
また本記事は西岡壱誠の著書『「考える技術」と「地頭力」がいっきに身につく 東大思考』をもとにしています。今回ご紹介した思考法のより詳しい解説だけではなく、具体的な実践方法も収録されているので、ぜひ興味のある方は、お手にとってみてください。