近年、日本においては大学の定員割れが社会問題化しています。一方人口超大国インドでは逆に大学が不足しており高等教育は現在急ピッチで拡大しています。
今回はそんな日本とインドのそれぞれの状況を観察し、これからの教育について考えるきっかけになればと思います。
それではよろしくお願いします。
はじめに
インドの成長に注目しよう
インドは2023年に人口世界一の国になりました。人口超大国とも呼ばれるこの国ではGDPは2019年から2023年までの間に8%近く上昇しました。なお日本は1%未満のGDP成長率となっています。(出典:IMF)
GDPは2030年には中国米国に次ぐ世界第3位、2050年には中国に次ぐ世界第2位になると言われています。
また今や数多くのグローバルIT企業の社長がインド人になっています。かの有名なGoogleの社長もインド出身の方です。
かつての植民地支配の名残もあり、公用語として英語が使われています。言語の壁があまりなく、数理教育も進んでいて、さらに米国とちょうど12時間の時差があり24時間会社を稼働させることができると多くの企業がインドに進出しています。
インドは今や世界で一番成長している国なのです。
インドの教育制度
インドでは教育制度は州によって若干の異なりがあります。
一般に日本で言う小学一年生から10年間の教育(初等学校、上級初等学校、中等学校)を経て、第10学年の修了試験に合格した者だけが上級中等学校に2年間通います。その後、第12学年の修了試験を受け、その結果によって希望大学への進学が認められます。一部のトップレベルの学校においてのみ独自の大学入学試験が行われます。インドの大学はカレッジ制が多く、一つの大学の中に複数のカレッジがあります。
なお義務教育の期間は初等学校、上級初等学校の7年か8年となっています。
定員割れする日本
近年、日本の大学について「募集停止」「学校の統廃合」というニュースを目にすることも多くなってきました。それにはどういった原因があるのでしょうか。
定員割れの原因
日本では1970年代より出生数の減少傾向が続いています。子どもの数が減ると大学生の数が減少するのは想像に難くありませんが、一方でこれまでは大学進学率も上がっていたため大学進学者数自体はある程度維持してきました。しかし大学進学率が高止まりする中、子どもの数は減り続けているため、今になって特に影響がではじめています。この傾向を鑑みると我が国ではこれからも出生数減少と同じペースで大学の進学者数は減り続けるでしょう。
そのような大学進学者数減少の中、日本の設置大学数はいまだに増加しています。そしてその増加のほとんどが私立大学です。受験生は減少するのに、大学は増え、大学間の生徒獲得競争は激化の一途をたどっているのです。
2024年の大学入学者数のデータによると日本の私立大学の半数以上が定員を割り込んでいます。定数を割り込むと大学の経営状況は悪化し、廃校になってしまうケースもあります。一方で例えば東京大学では依然3倍程度の倍率を維持しているなど、国公立大学の状況はまた異なっているようです。
少子化と定員割れの影響
特に私立大学においては学生からの授業料で運営しているという構造上、学生が少なくなると経営状況が悪化します。過去には在学生がまだいる中で廃校を決断した学校もあります。このような状況が続けば、学生の行き場がなくなるという問題が続出する可能性があります。
またギリギリの経営の中では教育や研究の質の低下も免れません。数々の研究の質を測る指標において日本の世界順位は下がり、その内実も悪くなってくるでしょう。
大学が足りないインド
一方、人口世界一位になった大国インドでは生徒数が多すぎて学校が足りないようです。
大学が毎週増える
インドでは毎週毎週新しい大学ができています。それも小規模大学ではなく10000人規模のものが次々と作られています。それでもこのままのペースではまだまだ大学が足りず、政府がその状況を問題視しています。
そんなインドでは2020年よりNEP2020という大規模な教育改革が行われています。この改革の一つとして「大学の民主化」が目指されています。現在インドの大学進学率は27%程度ですが、大学教育をより身近なものにするため、それを50%にする目標をたてているのです。それに関連して大学を含む高等教育機関の数を現在の3倍以上となる13万以上にするそうです。ちなみに日本の大学数は約800校、短期大学は約300校です。
しかもインドの学生はとても勉強熱心で、学校の生徒たちは、休み時間でも半分以上の生徒が勉強に励むほど勤勉だそうです。実際に視察に行った「教育超大国インド」の筆者によると、設備面でも日本の大学に劣ることなく、机などの備品の様子も日本のものと変わりません。パソコンルームには一人一台MacBookがあり、またロボット教育を行うための器具などもたくさんあるそうです。
インドの教育事情
カーストを乗り越える教育
インドで最も名門と呼ばれるのが「インド工科大学」です。インド中の人々がこの大学への合格を目指して日々取り組んでいます。入試ではカンニングが絶えない(?)とも噂されるこの大学ですが、多くの国民がより上位の大学を目指す理由の一つに「カースト制度」があると言われています。
カースト制度はバラモン、クシャトリア、ヴァイシャ、シュードラの4つの身分(カースト)からなる制度で、インドでは伝統的にこのカーストによって将来の職業がある程度決められていました。さらに別のカースト出身の人とは結婚できないなど、その差別が撤廃されて以降も文化として色濃く残っているのが実態だそうです。
一方、近年は特にIT産業など、カースト制度が想定していなかった職業が誕生しています。これらの職業につくことでどの階層の人であっても伝統的なカーストの枠組みを乗り越えることができるのです。そこで、試験において上位の大学に合格し、情報技術などを使いこなすため、あらゆる学習を行おうと頑張るのです。
現実はそう甘くない
日本においては入学試験は広くさまざまな人が受験できるようになっていますが、インドではいまだに受験においても身分格差の壁があります。大学によって半数以上の枠が特定のカーストや親の収入によって割り当てられているという状況もあります。ちなみにインド工科大学では入学枠の15%が差別を受けていた特定のカーストに割り当てられているそうです。インドでは大学入試のみならず公務員試験などにおいても特定のカーストに割り当てる枠があります。特定枠で入った学生は成績が振るわないなどの問題も発生しています。近年は差別を受ける人に対する優遇が多くなっているようで、高位カーストの人が逆に下位カーストを羨むという事態も発生しているそうです。このような状況を鑑みると完全に開かれた大学というものを実現するのはまだ難しいようです。
また入学してもそのあとが大変です。最近はインド工科大学の就職率が急降下していると言われます。しかも特に学部間の格差が広がっているようです。IT関係の仕事は就業率が安定していますが、土木系の仕事は特に就業率が下がっています。さらに高等教育機関の拡大に伴って求人数は変わらなくても競争倍率が上がってくるという現象が発生すると見込まれます。学校に入れば将来が安定している、というようなことはないのです。だからこそインドの学生は勉強熱心なのかもしれませんね。
この現象は希望の職業につくことを困難にする反面、インドの国際競争力強化を促す側面もあるでしょう。
終わりに
いかがでしたでしょうか。
本記事はインドと日本の事例を取り上げましたが、その優劣を語るものでは決してありません。
我々はインドやその他開発途上国の状況を見つつ、我が国の教育がいかにあるべきか、考えることが求められるでしょう。今後の日本の教育はいかにあるべきでしょう?
本記事に興味をお持ちいただいた方はぜひ弊社の新しい書籍「教育超大国インド」をぜひお読みください。
ありがとうございました。