高校の学習指導要領の改訂で一躍話題となった「探究学習」。
必修科目にもなっている探究学習は、これまで学校で行われてきた科目の指導とは大きく異なります。だからこそ、現場で指導する先生からは、「どうやって指導すればいいのか?」「そもそもどんな授業内容が良いのか?」といった悩みの声をよくいただきます。
そこで本記事では、探究学習の授業づくりに役立つ情報をまとめました!
「探究学習とはそもそも何か?」「テーマ決めの方法」「良い探究の問いの立て方」だけでなく、テーマの例や学校への探究学習の導入サポートを行うサービスまで徹底解説していきます!
探究学習とは?
探究学習は、「問題解決型の学習」のことを指します。学校で行われる教科学習とは異なり、生徒自らが課題を設定し、その解決に向けた計画を立てて実践していきます。
探究学習において重要なのは、生徒の主体性を引き出すことです。先生から生徒に知識を教授することの多い教科学習とは違い、生徒自ら学ぶ姿勢が求められているのです。探究学習を通して、これからの社会を生き抜くために不可欠となる「自分で学ぶ力」「自分で考える力」を養うことが目的とされています。
2022年度から施行されている高等学校学習指導要領では、新たに「探究」と名のつく科目が7科目設定されました。下記がその7科目です。
- 「古典探究」
- 「地理探究」
- 「日本史探究」
- 「世界史探究」
- 「理数探究」
- 「理数探究基礎」
- 「総合的な探究の時間」
このうち必修科目となっているのが、「総合的な探究の時間」です。このことからは、探究で養うことが目的とされた「自分で学ぶ力」「自分で考える力」の重要性をうかがうことができます。
総合的な「学習」の時間から、「探究」の時間へ
「総合的な”探究”の時間」の前身は、「総合的な”学習”の時間」というものでした。これは、総合的な学習を通して課題解決能力や主体的な学びを育む授業として設置されていたものです。しかし、「総合的な学習の時間」で学んだことが日常的に行う教科学習と結びつかないことや、学校の自由な裁量のもと運営されていたがために、本来想定されていた「課題を解決することで自己の生き方を考えていく学び」が得られるような授業が行われていなかったりしたのです。
そこで、新学習指導要領では、必修科目「総合的な”探究”の時間」として新設されましたたのです。新学習指導要領では、総合的な探究の時間について、以下のように述べられています。
総合的な探究の時間 第1目標
探究の見方・考え方を働かせ、横断的・総合的な学習を行うことを通して、自己の在り方生き方を考えながら、よりよく課題を発見し解決していくための資質・能力を次のとおり育成することを目指す。
探究の過程において、課題の発見と解決に必要な知識及び技能を身に付け、課題に関わる概念を形成し、探究の意義や価値を理解するようにする。
実社会や実生活と自己との関わりから問いを見いだし、自分で課題を立て、情報を集め、整理・分析して、まとめ・表現することができるようにする。
探究に主体的・協働的に取り組むとともに、互いのよさを生かしながら、新たな価値を創造し、よりよい社会を実現しようとする態度を養う。
引用:文部科学省「高等学校学習指導要領(平成30年)」
ここから「総合的な探究の時間」で得られた力を、教科学習や実際に社会に出た後の生活に活かすことに重点が置かれていることが分かります。
探求と探究の違い
ここで、「探究」と間違えやすい言葉に「探求」があります。どちらも「たんきゅう」と読みますが、意味は異なります。
まず、探究の「究」という字は、「きわめる」とも読みます。つまり探究とは、物事を深く掘り下げて学び、物事を明らかにするということを指します。一方で、探求の「求」という字は、「もとめる」とも読みます。つまり探求とは、物事を探し求めて得ようとすることを指します。
探究のほうが、得られる学びがより深いということが言えそうですね。
探究学習の進め方
探究学習には以下の5つのステップがあります。
- 課題(テーマ・問い)の設定
- 仮説の設定
- 情報収集・調査
- 情報の整理・分析
- まとめ・発表
この5つの過程を繰り返し行うことで、自らの考えや課題に対する理解を深めるだけでなく探究力が見に着きます。各ステップを詳しくみていきましょう。
課題(テーマ・問い)の設定
探究学習では、生徒それぞれが自分なりのテーマを設定して探究を進めていきます。ここでのポイントは、生徒自身がやりたい!と思えるテーマを設定できるように支援してあげることです。
日常は「なぜ?」で溢れています。自分が気になること・知りたいことをテーマにして、自ら調べたいという気持ちをもってもらうことで、「やらされている」という感覚をなくし、生徒の主体性を引き出すことに繋げられます。
「探究学習を通して何を知りたいのか?」「どんなことを課題に感じていて、どんなふうに解決したいのか?」といった問いを通して、生徒自身が主体的に取り組みたいと思える課題を設定できるようにしましょう。
具体的な「テーマ・問い」の例はこちらから!
仮説をたてる
テーマ・問いが決まったら、答えの「仮説」を立てましょう。
ポイントは「意見」と「事実」を分けることです。
例えば「◯◯さんは背が高いですか?」という質問をされたとき、「高いと思う」という回答は主観的な「意見」になります。一方で「◯◯さんは平均より背が高い」という回答は「事実」になります。
より深い仮説を立てるためには「事実と意見」をしっかり見分けることが大切です。
情報収集・調査
仮説が決まったら、実証するための情報収集や調査をしていきます。情報収集には大きく分けて「先行研究の調査」と「フィールドワークによる調査」の2種類があります。
「先行研究の調査」では、設定した課題に対して既に行われている研究・実験結果をインプットします。
「フィールドワークによる調査」では「先行研究の調査」では分からなかったことをアンケート調査やインタビュー調査などのフィールドワークを通して調べていきます。
ここで注意したいことは、既にインターネットなどで検索すれば分かる内容をアンケート調査してしまったり、インターネットの情報だけで完結した調べ学習になってしまったりしていないかです。
探究学習を進めていく上で、既に解明されているもの(先行研究)は何か、先行研究をふまえて何を明らかにしたいのか、などを明確にしていくことがポイントです。
情報の整理・分析
整理・分析では調査の結果をまとめて、仮説が実証されているかを考察し、新しく何が分かったのか、何を学んだかを明らかにする必要があります。
新しい「仮説」が出てきた場合は、1つ前の手順に戻り再度検証をしていきます。
しかし、「分析結果から検証をする」と言われても難しいので、「情報収集・調査によって何を学んで、その結果から何が分かったのか」という問いを先生は投げかけることで補助線を引いてあげることが必要です。
まとめ・発表
最後に探究学習のまとめとして成果発表やプレゼンテーションの機会を設け、他者に伝えるという経験をすることで探究学習での一連の学びを整理し、深い学びを実現することができます。
また、探究学習は単発の学習ではなく、上記の5つのステップを繰り返し行っていくことが重要なため、発表のタイミングで新たな問いの設定や次のアクションについても誘導できるといいでしょう。
【カテゴリー別】テーマ・問いの立て方
ここまで探究活動の進め方を見てきましたが、「テーマや問いを立てること」という最初のステップが一番難しいと思います。身近な疑問から、社会問題まで「なぜ?」「どうして?」と思ったことを深掘りしていくことが大切です。
ここでは、カテゴリー別によくある探究テーマ・問いの例を紹介します。生徒が探究テーマを選ぶ際の参考にしてください。
学校
- どうして学校は黒板を使うようになったのか?
- 校庭がアスファルト化されたのはなぜ?
- 教室の扉が横開きなのはなぜ?
- 制服にスカーフがついているのはなぜ?
行事
- 日本のクリスマス文化
- お正月にお年玉をもらうのはなぜ?
- 夏休みができたのはなぜ?
- お花見はどうして始まったのか?
街・地域活性化
- どうしてこの地域は◯◯という名前なのか?
- 地元名産品の人参を使った商品開発で地域活性化
- 薩摩切子の良さを広めるには?
- シャッター街になっている商店街の活性化
SDGs
- フードロスを無くし、貧困家庭の子どもたちにフード支援をするには?
- フェアトレード商品をもっと身近にする方法
- 海洋プラスチックごみの削減策と海洋生態系の保護
- 難民・移民の方々の教育機会を保障するには
進路
- 未来の職業とは何か:人工知能などの技術革新と働き方の変化
- 大学進学がキャリア形成にどのような影響を与えるか
- 起業の可能性:持続可能なビジネスとは何か
- 高校時代の留学経験はその後の進路にどのような影響を与えるか
環境
- プラスチック廃棄物の削減策とリサイクル技術の研究
- ○○県の森林を保護し、生物多様性を維持するためにはどうすればいいか
- 地球温暖化への対策として再生可能エネルギーを学校に取り込む方法
- ○○県の水産資源を保護するためには?
健康・福祉
- 高齢者が孤立しないための地域コミュニティづくり
- 認知症の予防に有効なことは?
- ソーシャルメディアと若者のストレスの関係性
- リモート医療を普及させるためには?
学校での探究活動紹介
新学習指導要領に先駆けて、学校独自で探究学習に取り組んでいる事例も存在します。ここからは、探究学習の実践例を紹介していきます。
武蔵野大学 武蔵野高等学校
東京都の武蔵野中学高等学校では、「アカデミックマインド講座」が実施されています。
このプログラムでは、「なぜ信号は赤・黄・青の三色なのか?」「なぜメロンにはシワがたくさんあるのか?」など、身の回りに溢れる疑問を自分で発見し、仮説を立てて、検証するという一連の思考法を学んでいきます。
この過程を繰り返すことで、思考法を身につけるだけではなく、5教科を複合的に学ぶことができる講座です。
中学生、高校生両方に実施されているこのプログラムでは、生徒たちは以下のような感想を残しています。
「江戸時代から明治時代にかけて平均身長が上がったのはなぜか?」という問題を解いたのが一番印象に残っています。最初は「え〜。なんでだろう……。分からない。」と思ったのですが(笑)。講師の先生と一緒に、分解して、解いていったら、腑に落ちて……。自分にもわかる問題だったのかと驚きました。
もともとあまり疑問がないというか(笑)。そういうものなんだな〜と受け入れてしまうタイプでしたが、地理の授業で大気汚染のレポートを書いているとき「なぜこの地域では環境汚染が進んでいるんだろう」など、1つの物事に対して、これまでより深く考えられるようになったなあと思います。
まとめ
いかがだったでしょうか?
探究学習のテーマ決めや「良い問い」を立てることは容易ではないですが、本記事が探究学習の授業づくりの参考になりましたら幸いです。
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