【2025年最速】東大理科(物理・化学)を現役東大生が解いてみた!

実際に本年度の東京大学の理科の入試問題を解いた東大生チームが、今年度のキーポイントや、そこから見えてくる出題者の意図について解説します。

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目次

全体としては、2010年前後を思い出させる出題に変更

2016年からのここ10年間の東大の理科は分量が多く、処理速度が求められる傾向がありました。
特に、物理の問題数が多く処理速度が求められる、化学は計算が多く処理速度が求められる、といった印象でした。

しかし、2025年度の理科に関しては、

  • 物理:問題数が激減し、計算量も少ない。一部、思考力を試される問題が配置されるも、近年に比べて平易なことには変わりない。
  • 化学:例年に比べ、目新しい設定の問題が増加し難化。それに伴い、計算問題の問題数が減少し、論述問題のボリュームが増加。

という変化がありました。

これは、2010年前後の出題形式に似ており、その時期の戦略である「物理は比較的高得点を狙いつつ、化学は取れるところを落とさないようにする」が有効であった問題セットでした。

また、物理に関しては、易化したと言えども、物理が苦手な受験生が簡単に得点できる訳ではないため、「物理が得意な人は短時間で高得点を取れたが、物理が苦手な人にとっては周りと差がつく恐れがある問題が多く厳しい戦を強いられた」入試だったと言えるでしょう。

余談ですが、2010年前後の理科において、理三受験生の基本戦略は、物理で50点・化学で40点がセオリーでした。
これには、比較的簡単で得点が取りやすい物理は満点近くを狙いつつ、化学の難しい設定の問題は飛ばしたうえで、取れるところをかき集めて40点になればよい、という意図があります。今年度も、物理が得意な理一・理三受験生の中には、60分程度で物理の全問を解き切り、化学に十分な時間を充てれた、という人も居るかもしれません。

ここから、東大の理科は「必ずしも75分75分の時間配分で解くべきとは限らない」ことを理解し、それを反映した過去問演習していた人の対策勝ち、が生まれたとも言えます。

受験全体で見れば、数学が難化したことも踏まえれば、結果的に物理が得意な受験生の逃げ切りが成功しそうな入試だったと思われます。

物理は易化し、どれだけ短時間で高得点を取れるかの勝負に

全体感としては、まず分量の大幅な減少がポイントです。近年の東大物理は、穴埋め問題や設定の複雑化などにより、ページ数や答えに至るまでの計算も多く、処理速度が求められてきました。

しかし、今年度は、そのあたりの分量が軒並み減少。問題の設定も把握しやすく、答えに至るまでの計算も難しくはないので、物理が得意な受験生は十分に高得点を狙えたかもしれません。

  • 第1問:力学分野(力のモーメント・摩擦力) 【普】
  • 第2問:電磁気分野(ソレノイドコイル・磁場) 【易】
  • 第3問:熱力学分野(断熱変化・ポアソンの法則) 【易】

例年通り、力学の問題が出題された第1問では、力のモーメントよる立式に気づけるか、で勝負が決まったと言えるでしょう。もちろん、おもりBやおもりCにかかる力の釣り合いを立式しても解けはしますが、かかる時間が段違いです。

これも例年通り、電磁気の問題が出題された第2問では、ソレノイドコイルが題材の問題で、設定自体は珍しい問題でした。ですので、一番最初の設問で少し手が止まってしまった人も居るかも知れませんが、万が一その問題が分からなても、その後の問題に響かないような小粒な問題設定になっており、食らいつくことは十分に可能です。

第3問は熱力学からの出題。設定も単純で、計算量も少ない問題でした。熱力学が得意な受験生であれば完答も十分狙える問題です。逆に、物理が苦手な受験生であっても中問(I)は解ききらないと、周りの受験生と差がついてしまうので、ここだけは何としてでも死守したいでしょう。中問(I)だけで10点程の配点が予想されるので。

【物理】設問別解説

【第1問】

この問題は、方針が全てを決定した問題です。
おもりA,B,Cの力の釣り合いを考えることで問題を解くこともできますが、この問題の状況設定を見て、力のモーメントで立式すれば計算が楽そうだ、と思えるかどうかで、これ以降の計算の苦楽が決まります。

中問(III)では、おもりAに乗った慣性系を考えるのか、静止系を考えるのか、という選択がありますが、適宜見る系を取り替えることで解答が楽になります。
物理を勉強する際には、多角的な考え方を試し、どの解法が一番楽に、そして自分が納得できるか、を常に意識しながら取り組めると、このような問題が出題されたときに最適な解法を選択できるでしょう。

【第2問】

第2問は、ソレノイドコイルが題材の問題です。

一番最初の問題では、ソレノイドコイルが作る磁場を求める問題ですが、これは公式を覚えていないと厳しいです。東大物理に良くある、「磁場Bを、〇、○、○を用いて表せ」という出題形式ではない、ことからも、これは公式をきちんと覚えているか、を問うている気がします。(もちろん、大学物理で習うマクウェル方程式やファラデーの法則、ストークスの定理などを使えばその場で導き出せるのですが、それは受験生には求められていないでしょう。)

ただ、もし(1)が分からなくても、それ以降には響かない、いわゆる小粒な問題設定になっています。これは近年の東大物理にしては珍しい形式です。

また、(II)-(4)の素子を選ばせる問題は目新しい問題です。これは、抵抗・コンデンサー・ダイオードの物理的特性を定性的に理解しているか、を問うている問題です。問題集で演習を積むだけでは得られない理解であり、高校生の頃から自分の手で実験をしていたり、研究に励んでいた生徒に有利な問題だったと言えるでしょう。

【第3問】

第3問は熱力学が題材の問題ですが、これまた方針も立ちやすく計算も少ないという、得点を稼がなければならない大問となっています。ポアソンの法則を用いてもよい、と問題文にかかれていることから方針も明確で、東大を受験する高校生であれば、中問(I)は難なく解き切りたいところです。ただ、中問(II)の(2)以降は、少し設定が複雑です。

一度台車を固定した間に、どのような変化が起きているのかを考え、(I)との相違点を考えれば、答えにたどり着くことができます。本問の一番最後の問題は、今年度の物理の中で一番煩雑な答えになりますが、それでも例年に比べれば易しいことには変わりません。

【物理】総評

全体的に、方針で迷うことが少ない問題が多く、全受験生が「挑戦」できた問題のセットであると思います。しかし、だからこそ、実際に物理の力が伴っているかどうかで、点数が明確に開くことが予想され、物理が苦手な受験生にとって厳しい試験だったでしょう。
ただ、来年度以降もこの形式が続くかどうかは不明瞭な点も多いです。
ですから、来年度の東大を受験する受験生は、「物理が簡単だった場合」と「物理が難しかった場合」の両方のパターンを想定し、理科全体の時間配分をイメージしておくなどの戦略が大事になることでしょう。

もちろん、物理の基礎的な思考問題や計算問題を確実に得点することは前提として。

化学は難化し、記述問題の増加でボリューム増

全体感としては、昨年に比べてより思考力を問う問題が増えた印象。いわゆる典型問題がグッと減り、初見の設定に対応させる問題が並びました。また、記述問題の数も昨年から大幅に増加しました。問題構成も、今までは各大問ごとに中問[I][II]という二部構成が敷かれていましたが、今回からそれが無くなったのも変更点の1つです。

  • 第1問:理論化学分野(結晶構造・物質の分離) 【普】
  • 第2問:無機化学分野(火山ガスに含まれる物質) 【難】
  • 第3問:有機化学分野(ペプチド・アミノ配列の決定・鏡像異性体) 【難】

理論化学を中心に問われた第1問では、全10問(ア〜コ)のうち計算問題はなんと3問のみであり、昨年の計算中心であった理論化学(2024年第3問)から大きな変化を見せました。かといって純粋な知識のみを問う問題はほとんどなく、単体の融点が100C°未満である金属元素の例とその融点の低さを答えさせる問ウ、三重点の温度と圧力の変化について問われた問オなど、深い思考・洞察を要する問題が多く配置されていました。

無機化学を中心に問われた第2問では、例年通りの初見の化学反応式について考えさせる問題に加え、水素結合について連続して問われたク〜サは目新しく、難易度も高かった印象です。正直、受験会場でこれを解き切るには、時間の制約上かなり厳しいものがありそうです。

有機化学を中心に問われた第3問は、ペプチドの分析・保護について応用的な思考力を要する難問でした。いわゆる典型問題はア・イくらいであり、特にカ以降は、問題文中のポリペプチドの保護と「固相合成法」についての記述問題が続き、2010年あたりの東大有機化学を彷彿とさせる出題構成でした。また、2年連続で「構造決定」中心の問題が出題されていないことも特筆に値すると思われます。

【化学】設問別解説

【第1問】

この大問でやはり注目すべきは問キでしょう。

凝華と昇華に関する思考問題です。昇華・凝縮する物質も不純物も具体的な名称が与えられていないため、戸惑った受験生も一定数いたように思われます。ここでのポイントは、問キの設定自体が「固体物質の精製」であるという点です。図中のガラス容器の位置Yに精製したい物質Aが凝華するということは、温度勾配から考えると、Yより温度が高い位置Xにはそもそもその温度では凝華しない不純物が存在するはずだし、位置Zには、グラフから考えるとAよりも凝華する温度が低い不純物が気体として移動してきて、Zで凝華するはずです。一般的な設定から考察をさせ、化学現象の本質を問う良問だと言えるでしょう。

【第2問】

特筆すべきは問ク以降の水素結合に関する問題でしょう。

設定はおそらくほとんどの受験生が初見であることに加え、文章自体も長く、途中で用いる計算もやや時間がかかり、第1問や第3問(あるいは他の理科科目)で時間を食われた状態でここに突入した受験生には焦りも相まってかなり苦しい問題であったと思います。

問クは、真っ当に計算しているとかなり時間がかかってしまうため、ここはKの定義式の形からややメタ的に考えるのが良いでしょう。K=[G・Q][W・W]/ [G・W][W・Q]であり、問題文中の式(2)を見るとKGQの定義式は分子に[G・Q]があります。ここから、「問題文ではKを四つの反応の平衡定数のみを使ってKを表さなければいけないのだから、[G・Q]の位置にKGQを代入して、他も同様にして整理すれば最終的に[G]や[Q]、[W]は消え、平衡定数のみ残るのでは?」と考えて、K= KGQ KWW/ KGW KWQ とすると見事にKGQ KWW/ KGW KWQと[G・Q][W・W]/ [G・W][W・Q]は一致します。時間に対して問題数が多い東大化学では、このような算数的なメタ読みも役立つときがあります。

問ケではさらに謎の定数と常用対数が登場し、しかも聞かれているのは具体的数値ではなく「平衡が右に偏る条件の証明」ですので、ここで諦めてしまった受験生もいたのではないでしょうか。しかし、平衡が右に偏る が K>1(log10K>0)と同値であることに気づけば、ひとまずlog10Kを計算してみようという思考に至れたのではないでしょうか。実際log10Kを展開し、ドナー定数とアクセプター定数だけで表すと、(αG―αW)(βQ―βW)となり、(αG―αW)(βQ―βW)>0 の解が条件1または2と一致するのです。

問コでは「駆動力」という謎の単語が出現しますが、要は「条件1及び2のもとで、式(3)のG・Qの形成が増加するが、その条件1・2とは結局なにを言い表しているのか」ということを聞いています。式(3)を見てみると、各分子は(設定上当たり前ではありますが)水素結合によって形成される分子であるので、G・Qの水素結合の方が強い、またはW・Wの水素結合の方が強いと、Kが増加し、G・Qの増加が増えるのです。前者は条件1、後者は条件2に合致しています。

問サでは、ク〜コを水素結合以外の現象に応用させます。正直なところ、入試本番でここまでたどり着けた受験生はかなり少ないと思います。加えて、この問題も思考力を要する問いです。まず、ミセルの形成の一連の反応における(か)〜(け)はG・Q・Wのどれに該当するのかを考えていきます。まず、このミセルの形成における溶媒は水ですので、(く)はWに該当します。次に、式(3)ではGとQがそれぞれ左辺でWと結合しており、右辺ではGとQが結合を形成しています。これをミセル形成に置き換えると、なんと(き)疏水基がG・Qどちらにも当てはまるとわかります。少々勇気のいる解答ですが、確かに式(3)とミセル形成の状況は合致します。よってGとQニあてはまるのはともに(き)疏水基であり、問サの問題文「(脂肪酸イオンは)ある濃度以上になると水中でミセルを形成」とあるので、溶媒である水分子の結合の強さは変わらず、脂肪酸イオンの疏水基どうしの結合が強くなる、と読み取れます。よって成立するのは条件2です。

この第二問では、問ク以降が全て連動しており、どこかでつまずくとそれ以降の問題が全て解けない構成になっているのです。東大化学(特に理論化学・無機化学)は今まで単問構成の場合がほとんとであり、「どこかの問いでつまづいてもその次の問題は解けるかもしれないから一回は内容を見ておく」のが定石とされてきました。しかし、今回はこの手段が通用しなかったわけです。今後もこのような連動した問題が出題されるのかどうかは東大化学を攻略していく上で重要な点となっていくでしょう。

【第3問】

記述問題が多く、問題文自体も長いため、非常に解きづらい大問だったように思えます。

今回注目したいのは問カとキです。

問カを要約すると「ポリペプチドの合成をするときにアミノ基をアセチル機で保護するとダメなのはなぜ?」となります。ここで重要になるのは「アミド結合」と「ペプチド結合」です。

アミド結合は、アミノ基とカルボキシ基が脱水宿業することによってできた結合で、ペプチド結合は、そのアミド結合の内アミノ酸の脱水宿業によってできた結合を指します。つまり、結合自体は同じで、言い方が違うだけなのです。これを踏まえて問題を見ていきます。アミノ基をアセチル基で保護すると、その保護部分はアミド結合になります。また、ポリペプチドは名前の通りペプチド結合による高分子化合物です。すなわち、アセチル基で保護されたアミノ基に、アミノ基を「脱保護」するような反応を施すと、ポリペプチド中のペプチド結合まで分解されてしまい、ポリペプチドの収量が激減するわけです。これが解答になります。

問キも長文と大きな図が続きます。問を要約すると「(問題文中で説明があった)固相合成において不純物を除去するのは簡単と言われているが、実際どうすれば簡単に除去できるのか?」というものです。なにを説明すればいいのか一見すると全く分かりませんが、これも問題文を読みながら情報を拾っていきます。第三問の最初の傍線部④の近くで、「不溶性の合成樹脂の細粒(樹脂ビーズ)上で反応を行う「固相合成」」とあります。図も踏まえると、ポリペプチドはこのビーズの上で作られていくわけです。

次に、問キの文を見てみると「不要な生成物などを除く精製操作が必要である。液相合成法では、カラムクロ マトグラフィーなどの煩雑な精製操作が必要であるが」とあり、ここでの不要な物質は液体なのだと推測できます。では、液体の不純物・未反応物と、固体のビーズを分離するにはどうすれば良いでしょうか。もちろん、「濾過」一択です。この問題は、設定が難解かつ文が長い割に答えはシンプルになります。ただ、ここまで思考を巡らせる余地があった受験生は少なかったろうと思われます。

【化学】総評

全体として典型問題に落とし込めない初見の設定が増えたように感じました。化学というよりも「理系的思考力」のようなものを問われているようにも感じました。また、問題構成も変化し、記述も増え、有機化学に関しては構造決定問題が出題されなくなり、出題形式という面で見ると2010年頃の、ひと昔前のものに戻ったような感じがします。依然として東大志望の受験生のする勉強は変わらないとは思いますが、今後は東大化学に関しては「見たことのない設定・典型問題に落とし込めない設定に、持ち前の知識と演習経験で立ち向かう練習」をどれだけできるかがもカギになるように思います。


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この記事を書いた人

東京大学理学部物理学科に所属。高校時代には生徒会長を、大学時代には学祭やイベントの運営に携わっていた。カルぺ・ディエムでは教育編集部に所属し、主に駿台のお茶の水校3号館で浪人生に対して、モチベーション維持や東大受験に向けた勉強法に関しての講義を行っている。日曜劇場『御上先生』教育監修。趣味はピアノとボードゲーム。

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