実際に本年度の東京大学の数学の入試問題を解いた東大生チームが、今年度のキーポイントや、そこから見えてくる出題者の意図について、数学的側面を全面に押し出して解説します。
まず、私達が解いた所感では、4つの大問の難易度は以下の通りです、Aが簡単でDが難しい問題です。
(また、難易度はそのセット内での相対的な難易度としています。)
- 第1問:B
- 第2問:B
- 第3問:D
- 第4問:C
以上より、解きやすさの順番とすれば、
第2問≧第1問>第4問>第3問
といった順番でしょう。一応、記事を書く都合上で難易度分けを行っていますが、実際のところ、各問題間にそれほど難易度差はなく、受験生各位が得意な分野の問題に手を付けられたなら、数学に関しては問題ないでしょう。
東大文系受験者としての及第点は、1完2半の40点。数学が得意な人であれば、2完1半以上で50~60点を狙い、周りの受験生と差を付けたいところです。
また、全体の難易度は平年並み~やや難化程度であるため、昨年度に続いた厳しい採点がなされる可能性もあります。大問1や大問2の論証の部分を誤魔化さず解答を書けたかどうかで、開示点数の高低が決まると思われます。
実験を通じて、数学的構造を把握させる問題
今年度の文系数学で特徴的だったのは、この大問2。
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一見難しそうな設定で困惑した受験生もいると思いますが、(1),(2)で具体的な実験をさせた後、(3)で一般的な状況について考察させています。実は、(3)では場合分けをしなければならないのですが、それにも(1),(2)を通じて気づいて欲しいという出題者の意図が感じられる設問になっています。
(1)と(2)だけで8点分くらいの配点が予想されます。誘導が付いていることもあって方針で迷うことはあまりないでしょうから、数学が得意不得意に関わらず、(1),(2)で正しい値を出すところまでは確実に得点して欲しい問題です。(1),(2)で失点してしまうと、他の受験生と明らかに差がついてしまうでしょう。
また、筆者の個人的な感触では、一番簡単に完答できる問題は本問だと思われます。来年以降に東大文系を受験する受験生は、本問程度のレベルの問題を完答できることが、東大に出願できるかどうかの境目になると言えるでしょう。
理系ではよく出題されていたが、文系では盲点だった問題
筆者個人が思う、本セット中最難問なのが大問3です。
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この問題、設定が複雑ですが、とりあえずは確率漸化式で解く問題だということに気づくべきでしょう。そして、文系受験者の中には確率漸化式が苦手な人も居るでしょうが、そんな人であっても、8通りの出目を全て書き出せば答えが出る(1)は、何としても死守してください。
そして本題の、確率漸化式を立式して確率を求める(2)以降の設問ですが、これは少し難しくテクニックが必要です。
右側から2番目の玉の色が聞かれていますから、一見すると、「右から2番目の玉の色が白の確率をpn、黒の確率をqn」とすれば良さそうに思いますが、(1)で行った実験からも分かる通り、実は一番右の玉の色が何かに依って、挙動が変わってしまうので、これでは上手く計算できません。
これを解消するには、後ろ2つの玉の色を○○、○●、●○、●●という、4パターンに分けて確率漸化式を立式しなければなりません。そして、その後、対称性などを用いて文字を減らして、確率漸化式を解くのです。
これは、理系受験生であれば必須のテクニックとなっていますが、過去を遡っても、文系の数学でこの技術が求められた出題はそう多くはなく、
- 4つのパターンに分けて確率を設定し、漸化式を正しく立式すること。
- 得られた式を組み合わせて、自分が解ける形に変形し、実際に確立漸化式を解くこと。
の2点を突破でし、完答できた受験生はそう多くないと思われます。
だからこそ、(2)の方針だけ書いたり、漸化式を立式するだけでも十分に加点が見込めると思います。数学が得意な人は、この辺りで周りの受験生と差を付けられていると安心でしょう。
その他の問題と全体の所感
大問1は、まず(1)は全受験生が落としてはならない問題です。しかし、(2)に関しては、解の存在条件から最小値を求めるという手法に辿り着けるか、が鍵となった問題です。
東大の文系数学で「最小値を求めよ」と言われた場合に真っ先に検討すべきなのは相加平均相乗平均の関係ですが、今回は相加相乗を使いつつ、さらにもう一段階の論証が求められたため、一筋縄ではいかず、完答できた受験生は意外と多くないと思われます。とはいえ、途中まで手を付けることができた受験生は多く、この大問で10点以上は稼ぎたいところです。
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大問4は場合分けと積分計算が絡む、ザ・東大文系といったような出題でした。
一部煩雑な計算もありますが、方針も明確で丁寧に計算を進めれば答えが出てきます。解析分野が得意な人は抑えておきたい問題です。
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総合して今年度は、概ね例年通りの難易度で、解ける問題を時間内にきちんと解くというオーソドックスな試験だったと言えるでしょう。
また、昨年度は東大数学の採点の厳しさが話題となりましたが、問題の難易度が例年並みだったことも考慮すると、今年度も同様の採点基準がなされる可能性が高く、基礎的な数学力と論証力や解答に自分の思考を乗せる力を見られている東大らしいセットだったと言えます。
大問3の出題意図について補足
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ちなみにですが、大問3の(2)と(3)の小問の設定は一見少し不自然に見えます。というのも、理系受験者や塾関係者といった実力のある人がストレートに考えれば、(2)を求める前に(3)の答えが出る解き方になると思います。しかし、その解法で解いた場合、(3)が完全におまけの問題ということになってしまい、問題設定上不自然です。
実際、予備校やYouTube上で公表されている解答では(3)を先に求めて、その後に(2)を求めている場合も多いですが、そういった解答は、出題者の意図と違う形の解答である可能性が高いです。
ではなぜ出題者はこの問題設定にしているのか。これは、おそらく文系受験者に対して計算の道筋を示すため、あえてこの設定にしていると考えられます。
ということで、筆者が考える、(2)に関する出題者の中での想定解、を紹介します。
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このように解けば、特性方程式周りの云々や対称性で計算量を減らす方法を知らなくても解くことができ、文系受験生にとって配慮された問題設定であると納得できると思います。
ただ、もちろん予備校が公開している解答を出題者が想定していない訳はありませんし、今紹介した解法においても最初の立式において4つのパターン分けが必要なのは依然として変わらないため、少し意図が不明確な誘導ではあります。
実は、東大が確率漸化式を出題する際によく分からない誘導や設問が付いているのは今回が初めてでなく、過去には理系2015大問2、文系数学2015大問4などの例があります。ですから、もし本番の受験会場で「この設問の意味が分からない」となっても、東大数学で出題ミスがあるとは考えづらいので、そこまで深くは考えず、正しい答えを出すことに注力しましょう。