今回は、学校法人 宝仙学園で勤務をされている渋谷 牧人(しぶや・まきと)先生にインタビューをしました。作編曲家でもある渋谷先生は、音楽科教諭として学び続ける姿勢を大切にされています。生徒と会話するように授業することや、新しいことに挑戦し続ける理由など、貴重なご経験をもとにお話いただきました。
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渋谷 牧人(しぶや・まきと)先生
学校法人 宝仙学園中学高等学校 音楽科教諭
【ご経歴】
作編曲家として舞台や映画の音楽なども手掛け、フランスのブザンソン音楽祭やバルセロナのサグラダファミリア演奏会での作品発表、能や組踊など日本の伝統音楽との共同舞台制作、台湾の演奏家によるプロジェクトへの楽曲提供など多方面に渡り手掛けている。
一般社団法人「和音」の専務理事として日本の伝統芸能を国内外に広め、国際文化交流を促進する活動を行い、日本台湾文化芸術交流会顧問も務めている。またヨーロッパ諸国以外にもこれまで東南アジアや中東諸国などの地域でも作品が演奏されるなど精力的に活動を続けている。
会話するように授業を行う
ー本日はよろしくお願いします!まずは渋谷先生の専門分野である音楽について、どのような授業が行われているのかお聞きしたいです。
私の授業は難しいことで有名です。中学生と高校生では少し異なりますが、高校では何よりも生徒の自主性を求めるので、生徒に作曲させたり、楽器演奏する選曲やグループリーダー選出も自分たちで行ってもらったりします。生徒が何かわからないことがあって質問してきたらもちろん丁寧に教えますが、なるべくそれ以外は私から「ああしろ、こうしろ」と口出しすることはありません。アメリカのジャズやロックの歴史なども結構しっかり時間を取って学ばせますが、音楽の観点からアメリカ史を見るだけでも、現代に直結するアメリカが抱える光と闇の歴史に触れられることに気づいてほしいからです。
あとは生徒に弦楽器を体験させるのが私の趣味でもあります(笑)。普通のカリキュラムだとリコーダーなど管楽器を触る機会は多くあると思いますが、弦楽器は管理も大変なので珍しいんです。手が小さい人でも弾ける、4本の弦からなるウクレレはハワイの楽器ですが、ちょうどいい価格とサイズで、初めて弦楽器を体験するにはおススメの教材なんです。
ー自主性を重んじることで、逆に遊び感覚で授業にやってくる生徒はいませんか?
音楽の授業は受験に直接的に関連があるわけではないので、もちろんそういう生徒もいます。ただ、音楽に興味がなくても「演奏するのは嫌いだけど曲を聞くのは好き!」みたいな生徒もいます。みんなそれぞれのアプローチで生涯音楽と関わっていけばいいと思いますが、プロとして伝えるべきものは伝えています。
授業中に音楽鑑賞する際は、生徒が感じ取ったことなど個人の感想について自由に書いてよいですが私はそこに評価をつけません。正解がありませんので。ただ、例えば「ベートーヴェンがなぜその時代にその曲を作曲したのか」といった作品背景や作曲者の意図について客観的に考えさせるようにしています。
ちなみに、いわゆる独立した現代スタイルの音楽家、つまりフリーランスとして成功したのはベートーヴェンが初めてです。先輩格のモーツァルトは就職に失敗したくちで、残念ながら早く亡くなってしまいます。ベートヴェンは自ら広報活動をし、様々な人の発注を直接受けながら自作の楽譜を売り、演奏していたフリーランスミュージシャンの元祖なのです。大事なのはただ彼が天才だったからではなく、相応の努力を継続していたこと…耳が聞こえなくなってからの作品のほうが、さらに歴史に残る名作ぞろいだなんて不思議ですよね。ベートーヴェンのそんな生き様を身近に感じてもらうことで、音楽だけではない何かを生徒自身も学び、普遍的なメッセージを感じ取ってもらえるのではないかと期待しながら授業をしています。
ーベートーヴェンにそんな背景があるとは初めて知りました。授業を行う上で生徒の心を掴むコツはありますか?
常に誰かと会話している状況を演出して作るように心がけています。授業中も生徒の目を見て話し、「あなたはどう思う?」と話を振る。時々、授業の流れが変わりそうな予想外の質問をする生徒もいますが、そうしたちょっとした呟きや素朴な疑問は必ず拾うようにしています。
最近は、中学生がト音記号を書く練習をしていた際に「なんでこんなに難しいんだ!」と嘆くばかりでしたが、「難しいよね。でも、どうしてト音記号がこの形になったと思う?」と話を広げ、みんなで考えてみました。実はト音記号はアルファベットのGの文字から来ているんですよ。そうすると文句を言っていた子が一番そのあと一生懸命書こうとしていました。子供たちは自分が学んでいることの背景や意味をけっこう知りたがるものなんです。
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授業時間の10倍勉強する
ー渋谷先生の知識が豊富でとても面白いです…!
生徒に興味を持ってもらうためには、自分がその分野に対して興味を持つことが大切だと思います。自分が教えようとしている内容について「そもそもこれは何でこうなっているのだろうか?」と深堀りし、歴史や意味を知る必要があります。だた、その代わり10倍くらい勉強しないといけないんですけどね(笑)。
あと、完璧な授業計画なんてものは存在しないと思います。忠実に授業計画に沿った授業を行うよりも、「最終的にどう転んでもこれくらいは進める」という匙加減を決め、あとはその場その場で考えながら自由に授業を作れるようになるには、教員を始めて10年ぶんくらいの経験が必要だったのだなぁと思います。
ー教員の仕事で大変だと思うことは何ですか?
どんな学校でも教員は自分が担当する教科以外に、学級や学年の受け持ち、生徒指導や進路指導などといった校務部署業務の3つの仕事を同時に回す必要があることだと思います。さらにプラスで部活や学校行事もありますよね。緊急に何が起こるか分からないクラス担任の仕事は最もウェイトが重い仕事ですから、その分、教科指導の準備に割く時間は小さくしなければいけないことも多いのです。
結局は自分のプライベートな時間にやることにもなるので、気が付けば一日中と言わず休日も働いている先生は日本には多いと思いますよ。自己研鑽という美しい言葉で実態が無給なのは問題だとは思いますが・・・。 ただ自分が勉強好きということもあり、新人の頃は、それこそ1時間の授業教材のために10倍くらいの時間を充てていました。それで生徒につまらないとか眠いとか言われると、普通はそれなりに傷つきますよね(笑)。でも生徒が授業中に何気なく発した文句や不平不満、授業に対する一言、眠そうな「表情」さえも大事なメッセージだと捉えて日々精進しています。
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渋谷先生の思い
ー渋谷先生が現在挑戦していることについて教えてください。
現在は、美術の先生と協力し、ルネサンスやバロック様式などについて美術と音楽両方から並行して学べる特別講座を開いてみたり、フランス革命以前以後の音楽の違いについてどうやって生徒にわかりやすく伝えられるかなどを研究しています。始終何か考えていることが自分の最高の暇つぶしなので、勉強することはやめられませんね(笑)。
ー最後に、渋谷先生の思いについてお聞かせください。
現在は、学校の価値や意義を再定義しないといけない時代にきていると思います。
学校という空間は、勉強するためだけでなく、物理的に他者と近い距離で人間関係を強いられる場でもあります。家庭ではできない経験、つまり他人に囲まれるというあえてストレスフルな環境に身を置くことは大変ですが、若い時に育むべき知恵やメンタリティの成長に大いに役立っていると思います。だから「学校は問題が起こらないクリーンな空間であるべき」という昨今の潔癖症な考え方は、人間関係を構築するスキルを学ぶには役に立たないと思います。学校とはあなたのための研究室です。問題が起こったときにどう振舞うか、そもそもその問題が再び起きないようにどう振舞うか、といった経験を体得するために社会から隔離された子供専用ラボのようなものです。
ただ知識を学びたいだけなら、本を大量に読んでオンラインの講座を受けていれば十分だと思います。でもその知識の役立てかたや、自分の目標や生きている実感がわからないままで人生は何の意味があるのでしょうか?と思います。
ちょっとした揉め事でも、聞き取り調査をして文科省に報告しなければいけない昨今の実情はお役所的にまあ仕方ないとしても、そもそも「なぜこの空間に毎日通うのか?」の意味を生徒や保護者たちと一緒に再確認することが、これからの日本に必要ではないかと感じています。
渋谷先生、ありがとうございました!
カルペ・ディエム告知情報:【無料講座】ワクワクする「探究学習」のつくりかた 〜結局、何をすればいいの?〜
開催概要
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<ポイント>
① 探究学習の始め方からまとめ方まで授業の流れが分かる!
② 探究学習と教科学習を効果的に組み合わせる方法が分かる!
③ 子どもが楽しみながら学べる授業を実現できる!
日程詳細
【日時】2025年3月16日(日) 13:00~14:30
【会場】TKPガーデンシティ渋谷 4Bルーム
〒150-0002 150-0002 東京都渋谷区渋谷2-22-3 渋谷東口ビル
【参加特典】東京書籍出版『10代から身につけたい 探究型思考力 アカデミックマインド育成講座』(※当日お渡しいたします)
モニター協力のお願い
体験授業にご参加いただいた先生方に、モニターのご協力をお願いしております。
当日、授業終了後に皆様のご感想やご意見などアンケートにお答えいただけますと幸いです。
皆様からいただいたご意見をその後の授業に活かさせていただきます。
ぜひ、現場の先生方の声をお聞かせください!
ご協力いただいた方には、謝礼として下記をお渡しさせていただきます。
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