TBS日曜劇場『御上先生』特別イベント ~作品に込められた教育論と表現論を知る~が、3月16日に東京・TBS Tech Design Xにて開催されました。
『御上先生』は、国内外で様々な議論がなされてきた教育制度と教育現場の現状を、「考える」ことをテーマに据え、官僚教師と生徒の対話を通じた成長を描く新たな学園ドラマです。
本イベントでは、「作品に込められた教育論と表現論を知る」というテーマのもと、ドラマの監修を務める工藤勇一氏、中山芳一氏、TBSの情報番組『ひるおび』のコメンテーターである白井智子氏ら、様々な立場で教育に携わる方々がゲストとして登壇しました。さらに、事前に公募した現職の高校教員も参加し、日本の教育と作品のメッセージについて意見が交わされました。
バージョンアップではなく、リビルドだ
イベントでは、ドラマの主人公・御上孝が「日本教育の破壊を俺に命ずる」と自身に課した挑戦的な言葉の真意をひも解き、第1話から第3話までのシーンを振り返りながら進行しました。
まず、御上先生が「教育に必要なのは、バージョンアップ(Version Up)ではなく、リビルド(Rebuild)だ」と話すシーンがスクリーンに映し出され、「現代の教育に必要なこと」という視点でトークが展開されました。
工藤氏は、日本と諸外国の教育の違いについてを言及しました。 「日本は世界と比べると、独特な教育システムを採用していると感じます。欧米には不登校という概念がほとんどなく、入試も総合型選抜方式が主流です。一方、日本の教育システムは『1点でも点数を取れればよい』というものになっています。本来、教育は多様な社会で生きていくための力をつける場であるべきですが、点数重視のため、それが実現できていません。答えではなく、プロセスにこそ学びがあるので、そこを重視した教育が求められています。」
白井氏は、フリースクールでの不登校児童へのサポート経験をもとに、「誰も取り残さない教育」の重要性について語りました。 「2023年度の不登校の小・中学生は34万人を超え、年々増加しています。同じ速度・同じ内容の授業では、全員が理解できないという問題は以前から指摘されていました。現在、個別最適な学びが重要視される中で、いまこそ生徒の『良いところを見つけ、伸ばしていく』という教育が求められています。」
中山氏は、学校現場と関わる中で「リビルド」の難しさについて次のように述べました。 「私自身、生徒や学校と向き合う中で、教育現場の抜本的な再構築をしたいという思いを抱いています。しかし、現実的にはリノベーションまでは進めても、その先のリビルドに到達するのは非常に難しいのが現状です。これは一朝一夕で解決できる問題ではなく、わたしたち教師が常に考え続けなければならない課題です。」
教育は「子どもたちのもの」である
「現代の教育に必要なこと」について、3名が話す中で共通していたのは、「教育は子どもたちのもの」というメッセージでした。
工藤氏は次のように話しました。「誰かの答えを期待せず、自分の答えを見つけるという教育が少なくなっているように感じます。80年前のほうが、何もない状態だったため、自ら勉強しようとする姿勢があったのかもしれません。今は勉強が分からなければ、すぐに先生の教え方が悪いと結びつけてしまう傾向があります。そのような現状は、教育への向き合い方に問題があるのではないでしょうか?」
子どもの中に入り込み、価値観を伝えて変化を与えるという「与える」型の教師像は過去のものとなりました。これからは、子どもたちが自ら何を学びたいかを選び、自分自身で「リビルド」できる仕組みを整えていくことが求められています。
アクティブリコールとは?
次に振り返るのは、御上先生が生徒たちに授業で学んだことを書き出させ、生徒の和久井が「アクティブリコール」について説明するシーンです。
この「アクティブリコール」とは、どのようなものなのでしょうか。中山氏は次のように話します。「アクティブリコールとは、能動的に思い出すことです。一度得た知識を、自分の頭の中で思い出してアウトプットすることで、記憶の定着率が向上します。また、アウトプットするだけでなく、人に教えることも学習効果を高めます。」
イベントに参加していた現職の高校教員の方々に、「アクティブリコール」を実践しているか挙手を求めたところ、手を挙げたのは2〜3名でした。教育現場では、まだ一般化していない様子がうかがえました。
工藤氏は、御上先生役の松坂桃李氏が、御上先生を演じるにあたり意識した「自主性と主体性の違い」について語りました。「自主性と主体性は似ているようで異なる概念です。自主性は自ら進んで行動することを指しますが、先生や保護者に求められたことをやる行動も含まれます。一方、主体性は、求められたことに対して疑問を持ち、自分の判断でやらないという選択も含まれる行動を示します。自主性だけでは、自分の頭で考えることができなくなるため、主体性を持つことが大切です。」
一方で、白井氏は「主体性と心理的安全性の関係」について次のように話しました。「フリースクールに来る子どもたちは、学校で否定されてきた経験が多いです。自分の行動を否定され続けると、主体的に動くことが怖くなってしまいます。そのために大切なのは、子どもの人格を否定しないことです。子どもを認めて、しっかり話を聞いてあげるだけでも、信頼関係は回復されます。」
高校教員からの質問
イベントの最後に、参加していた現職の高校教員の方々から質問を募りました。
質問①
教員として生徒と過ごす一方で、子どもを持つ親としての側面もあります。生徒と我が子で接し方は変わりますか?
中山氏はこの質問に対し、「生徒も我が子も変わらず、子どもの権利を尊重することが大切だ」と話しました。白井氏は「子育ては失敗の繰り返しの中で学んできたことが多いですが、フリースクールも子育ても根本的には同じだと感じています。その子らしい道を選べるよう手助けしてあげることが重要です」と述べました。
質問②
中学校の教員をしていますが、中学3年生の担任が最も大変だと感じています。受験に関してAO入試が増えているが、裕福な家庭の方が対策ができる傾向があり、結局教育格差ができてしまうのでは?一般入試の方がいいのでは?と感じる場面もありますが、皆さんはどのように考えていますか?
この質問に対し、工藤氏は「自分の理想を持ちながらも、目の前のニーズに応えることが大切だと考えています」と答えました。白井氏は「人柄を重視するのか、学問の成績を重視するのか、学校が理念に沿った入試形式を採用し、生徒が自分に合った学校を選べる体制が整っているとよい」と話しました。
また、中山氏は、同じくドラマの監修をしている西岡壱誠氏のエピソードを紹介しました。「西岡さんや東大生の受験体験を聞くたびに、東大受験を軽視していたなと思います(笑)。勉強への向き合い方も、スポーツへの向き合い方も根本は変わらないのだと感じました。さまざまな場面で応用できる『勉強のあり方』を模索できるとよいのかもしれません。」
質問③
御上先生の言葉には、学校を運営する管理職や教員に向けたメッセージが数多く散りばめられていると感じました。学校現場をリノベーションではなく、リビルドするためには、どのようなアプローチが必要でしょうか?
この質問に対し、工藤氏は「ぶつかりをなくそうとしないことが重要です」と話しました。「教育とは『自己決定』の繰り返しです。一人ひとりが自由に自己決定をすると、社会の中でぶつかり合いが生じます。日本ではその衝突を避けようとする傾向がありますが、それではいけません。ぶつかったときにどうするかを経験し、繰り返し学ぶことが、リビルドにつながると考えています。」
これからのドラマの展開について
最後に、第4話以降のドラマの展開について3名がコメントしました。
中山氏は「御上先生を通して、このような登壇の機会をいただき、先生同士の会話も増えました。第4話以降も楽しみにしています」と話しました。
白井氏は「教育ドラマと捉えると間口が狭くなってしまいますが、サスペンスドラマとしての側面もあります。これからの展開が楽しみであり、社会的インパクトを期待しています」と述べました。
工藤氏は「このドラマは社会問題を土俵に上げた点に意義があります。スタッフの皆さんも誠実な思いを持って取り組んでいる、熱いドラマです。学校教育が社会を変えるということを、このドラマを通して感じ取ってほしいです」と締めくくりました。
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日程詳細
【日時】2025年3月16日(日) 13:00~14:30
【会場】TKPガーデンシティ渋谷 4Bルーム
〒150-0002 150-0002 東京都渋谷区渋谷2-22-3 渋谷東口ビル
【参加特典】東京書籍出版『10代から身につけたい 探究型思考力 アカデミックマインド育成講座』(※当日お渡しいたします)
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