授業内容の復習が大変で、子どもの休み時間や遊びの時間が減っている。授業時間数に対して教える内容があまりにも多すぎる。こんな声を聞いたことはあるでしょうか。
小・中学校は現在、2017年に告示された学習指導要領に基づいて授業が行われています。その小・中学校で問題になっているのが、「カリキュラム・オーバーロード」です。
今回は、この「カリキュラム・オーバーロード」の現状や解決策を、東大教育学部生の碓氷明日香が詳しく解説します!
カリキュラム・オーバーロードとは
そもそも、カリキュラム・オーバーロードとはどのような意味なのでしょうか。
かっこいい響きの言葉ですが、内容は意外と深刻です。直訳は「教育課程の過積載」。最近、教育関係者の間で使われるようになった言葉です。授業時間数に対して授業内容がパンパンに詰め込まれていることを指します。
最近導入された学習指導要領では、授業時間数は変わっていないのに、科目数や内容が増え、現場は悲鳴を上げているのです。
カリキュラム・オーバーロードの原因
では、過積載の要因になっているのは何なのでしょうか。ここでは、2つの要因に注目して解説していきます。
ゆとり教育の失敗
まず1つ目の大きな原因は「ゆとり教育の失敗」です。1998年に出された学習指導要領がきっかけで、2002年から10年間続いたゆとり教育。当初の目的は、無理のない学習環境で子どもたちが自ら学び考える力を育むことでした。
しかし、OECD加盟国などの15歳の学力を測る国際学習到達度調査(PISA)で日本の順位がガタ落ちしたことで、メディア批判が殺到し、ゆとり教育はすぐに失速して行きました。
それ以来、学習指導要領はゆとりとは正反対の方向へと進み続けています。減った授業時間は元に戻り、削られた授業内容も復活。結果、PISAの順位は回復しました。それ以来、文部科学省はゆとり教育の失敗を踏まえて「学習内容を削る」という選択を恐れているのです。
学習内容の増加
そして、2つ目の大きな要因は「時代の変化」です。時代が進めば学問は発展し、社会は変化します。つまり、学ぶことが増えていくのは当たり前のことなのです。
例えば、時代が進んでいけば、歴史の授業で学ぶことは増えるでしょう。現代史と言われる単元のページ数はカリキュラムの改定ごとに増えているはずです。
また、時代の変化に伴い、アクティブ・ラーニングのような新しい学習方法の重要度も増してきました。高度情報社会になり、情報リテラシーの教育も必須になってきていますし、その他、食育や防災教育、主催者教育など、〇〇教育と言われる内容も新たに取り入れることが求められています。学ぶべき知識が増えているだけではなく、やるべきこと、つけるべき力の範囲も広がっているのです。
その結果、増えた範囲がすべてカリキュラムに詰め込まれ、オーバーロードを起こしている、というわけですね。
カリキュラム・オーバーロードの影響
では、カリキュラム・オーバーロードが起こることによって、どのような影響が及ぼされるのでしょうか。ここでは、子どもへの影響と教師への影響に分けて説明していきます。
子どもへの影響
勉強する内容が増えることで、子どもたちの遊び時間や休む時間が減るのは容易に想像できるでしょう。遊ぶ時間が減ることは、子どもの正常な発達に影響を及ぼしますし、休むことを知らないまま大人になれば、休息を取るタイミングがわからず無理をしてしまうようになるかもしれません。
また、学ぶべき知識が増えれば増えるほど、授業形態はどうしても教師が一方的に話すスタイルになってしまいます。そうなれば、思考力を高めようという社会の動きに反して、子どもは知識を詰め込むだけで考える力が全くつきません。ただ頭の中にバラバラな知識があるだけで、それを使って生きていくことができない人間になってしまうのです。
このように、カリキュラム・オーバーロードは子どもの発達や成長に悪影響を及ぼします。
教員への影響
また、影響を受けるのは子どもたちだけではありません。授業時間数に対して教えるべき内容があまりにも多いせいで、教員の授業準備がこれまで以上に大変になっているのです。
そもそも、教員という職業の業務量の多さはずっと問題視されています。働き方改革でワーク・ライフ・バランスの重要性が声高にうたわれているのにも関わらず、教員の働き方は改革があまり進んでいません。
そして、それに加えてこのカリキュラム・オーバーロードが重なってきているのです。業務量が増えると、教員の心身に影響が出るだけでなく、授業の研究ができず、授業の質を高めることができないという問題も出てきます。結果的に、子どもたちに質の高い授業をできないことから、やりがいを感じられなくなって辞めてしまったり、心身の不調から退職せざるを得なくなってしまったりと、教員不足に拍車がかかる可能性もあるのです。
効果的な解決策
このように現場を困らせているカリキュラム・オーバーロードですが、解決策は存在します。ここでは、3つの効果的な解決策を挙げていきます。
教えるべきことの厳選
1つ目は「教えるべきことの厳選」です。これが何よりも優先すべきことでしょう。前述の通り、時代の変化に伴って教えるべき内容が増えていくのは自然ですが、その中でも特に重要なこと、本当に学ぶべきことだけに絞って教えていく必要があります。
この先ずっと学ぶべきことは増えていくのです。そんな中、今まで通りのカリキュラムに新たに学ぶべきことを付け加え続けていたら、過積載を起こすのは当たり前でしょう。
何を教えれば子どもたちが生きていく上で必要な力を身につけられるのか、そこに焦点を当てて教えるべきことを厳選していくことが最も有効な解決策です。ゆとり教育の失敗を踏まえ、皆が納得できる改定が求められているのです。
授業形態の変更
次に、教えるべきことの厳選ができたら、「授業形態の変更」が必要になってくるでしょう。先生が一方的に話して知識を植え付けるスタイルの授業から、対話型の授業へと変えていく。これも効果的な解決策になり得ます。
シンガポールでは、”Teach less, Learn More”(少なく教えて深く学ぶ)という教育政策が勧められています。シンガポールは上述のPISAでも上位の成績を収めているので、この教育方法から学び取れることが多くありそうです。
最低限の知識を与え、それを踏まえて生徒同士の交流、対話から学びを深めていくという、新たな授業形態がこれからは重宝されていくと考えられます。
教員の質の向上
そして3つ目は「教員の質の向上」です。前述の新しい授業形態で、円滑に授業を進められる教員が必要になってきます。知識を伝えるだけではなく、それを活かすための思考力を育てることができる教員が、カリキュラム・オーバーロードの解決には不可欠なのです。
教育学部での授業内容や教員採用試験で見る力を変えていかなくてはならないのはもちろんのこと、すでに働いている教員を対象にした講座を開くなど、厳選されたカリキュラムをどう授業していけばいいのか、学べる機会を設ける必要も出てきそうです。
カリキュラムの厳選、授業形態の変更、そして教員の質の向上がそろえば、シンガポールのように「少なく教えて深く学ぶ」が実現でき、カリキュラム・オーバーロードは解決するはずです。
まとめ
いかがでしたでしょうか。教育は、この先この国を担う子どもたちのために常にアップデートしていかなくてはならないものです。現場の声を聴き、過去の失敗を踏まえてカリキュラムや授業のやり方を少しずつ軌道修正していくことが大切なのです。
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