TBS日曜劇場『御上先生』特別イベント、「『御上先生』vs現場の先生」第1回

TBS日曜劇場『御上先生』特別イベントが、2月8日に開催されました。『御上先生』は、国内外で様々な議論がなされてきた教育制度と教育現場の現状を、「考える」ことをテーマに据え、官僚教師と生徒の対話を通じた成長を描く新たな学園ドラマです。

本イベントでは、「『御上先生』vs現場の先生」というテーマで、公立・私立の高校、中学校から、地域も都市部から地方まで幅広い学校の現場の先生方をお招きし、『御上先生』に登場するテーマからピックアップした8つの問いについて意見が交わされました。

この記事では、イベントの模様についてご紹介いたします。(全3回)

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様々な「考えろ」

イベントではまず、御上先生の名台詞になりつつある「考えろ」という言葉について、実際に教育現場で話すことがあるか、話そうと思うかについて、先生方から様々なエピソードが寄せられました。

岡山一宮高校で数学を担当している有岡先生は、教員自身が答えを持っていない問いの答えを生徒に問うという形で「考えて」という言葉を用いているそうです。「今日教えた内容は、ある教科と繋がっています。考えてごらん」と言うと、教員も考えていなかったような答えが生徒から出てきて、生徒から学ぶことができると語ります。

大阪府立吹田東高校で英語を担当している小関先生は、授業内で英語ディベートを実施した際、生徒に「『親しき仲にも礼儀あり』って英語でなんて言うんですか?」と聞かれ、「まずは日本語で、もっと易しい言い方を考えて」と伝えたそうです。そうしたら、「『仲良い友達との約束は守る』とか言い換えたら英語にも直せるから……」と生徒の考えが進んでいきました。

予測不可能な時代と言われる今日では、もはや「先生が答えを教えてあげる」と言うスタンスが通用しなくなってきているのかもしれません。生徒に自分自身で考える習慣をつけさせることで、教員が想定する以上の答えが出てくる可能性が生まれてきます。

先生も知らない答えを生徒に出してもらうための「考えて」、問いを分解し、ステップ化するための「考えて」、あるいは考えればわかるようなことも思考停止して聞いてきた生徒への警告としての「考えて」……いずれも思考をアクティブにしていくための問いの仕方として、「考えて」という言葉が教育現場でも有効だということでしょう。

おすすめの学習方法

続いて、話題は『御上先生』第2話で登場した「アクティブ・リコール」に移りました。アクティブ・リコールとは、<<こちら>>の記事でもご紹介している通り、覚えたことを真っ白な紙の上に書き出すという非常に画期的な学び方です。

これに関連して、壇上の先生方からは、おすすめの学び方がいくつも寄せられました。

奈良県育英西中学校で国語を担当している山本先生は、ひとつの概念で何もかもを繋いで見るという学び方を生徒たちと実践しているそうです。たとえばこの2〜3学期は、「境界」をテーマに、現代文の題材としてグローバリゼーションやジェンダーといった「境界」という切り口で語れるものを扱った文章を用いたり、漢文では「諸子百家の荘子の考え方には、『境界』という見方ができる概念があるよね」と話したりしていると、そのうち生徒の方から「理科でいろんな現象が分類されているのは、境界を作ることによっていろんな考え方が発展してきたって捉えられますかね?」なんて言葉が出てきたりしたそうです。1つの上位概念を持つことで、いろんな活動を紐付けて、意味付けていくことができるようになる。そこに教科を超えた学びがあると気づかせてくれたと語りました。

広島桜が丘高校で社会科を担当している沖村先生は、「学んでいる」と生徒たちに思わせないことが大事だと言います。公共の授業では、御上先生のようにほぼ白紙の状態のプリントを配り、たとえば「資本主義と社会主義の違いについて、小学生でもわかるようなプリントを作って」と指示するそうです。そして、なんだそれ?と疑問に思う生徒に対し、あえて「ちょっと気持ち悪い」説明をするそうです。

「資本主義は、お金を自由に持ってて、お金持ってるやつが偉いって感じで、社会主義はそれがなんか嫌で、みんなで平等にしましょうっていう感じで、その究極系に共産主義ってのあるみたい」と、それくらいの説明だけして放り投げてみると、生徒たちは話し合ったりネットで調べたりして、能動的に考えて進め始めるらしいです。

重要なのは、「充実」ではなく「余白」

『御上先生』の教育監修を務める西岡壱誠は、ドラマの中で「アクティブ・リコール」を登場させた背景として、「これまでの教育の中で当たり前に行われてきた指導は、『どう教えるか』『どういう風に助けてあげるか』みたいな発想が強かった」と語ります。

西岡は、先生方のエピソードを聞いて、「学習者にとって重要なのは、『充実』ではなくて『余白』なのかな」と感じたそうです。「全てを『こうだよ』って教えられると、考える余白が生まれなくなる。だけど、真っ白な紙を渡されたら、その白い紙に何を書こうかなって発想になると思うんですね。」「だから、学び方として重要なのは、『先生方がどのように余白を作るのか』。問いを出して、いい余白を作り出して、その中でどう気づくのかを設計するってことなのかな。」

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この記事を書いた人

東京大学法学部卒。司法試験の勉強をしていたはずが、いつの間にか麻雀プロになっていた。日本プロ麻雀協会に所属。初恋の相手はイーサン・ハント。映画鑑賞、スポーツ観戦、料理が好き。

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