STEAM教育とは、5つの分野を教科横断的に学ぶことで課題発見能力・課題解決能力の育成を狙う教育カリキュラムのこと。STEAMはScience(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Arts(芸術、リベラルアーツ)、Mathematics(数学)の頭文字からとられています。従来重視されていたSTEM教育に、芸術、文化などを含むArtsを定義し、実社会で活かすための複合的な学びを目指す教育論です。
STEAM教育推進の背景
STEAM教育の前身は数理的思考力を重視したSTEM教育です。これは1990年代からアメリカで科学リテラシー教育の底上げを目的に提唱され、2009年にはオバマ大統領(当時)が演説中でその重要性を強調し、一気に世間へと広まりました。先述のとおり、このSTEM教育の中に創造性を伸ばすファクターとしてArtsが挿入され、STEAM教育となりました。
日本では2016年に内閣府がSociety5.0を提唱。「サイバー空間とフィジカル空間を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する人間中心の社会」を未来社会の理想像としました。こうした時代を生き抜くためには、各教科などの学びを基盤としながら、得た情報を自らの思考材料として活用、統合し、課題発見と解決を自ら繰り返せるような能力が必要です。STEAM教育はこのような能力を身に着けるために有効であるとされ、日本でも推進されるようになりました。
具体的なSTEAMカリキュラムの例
初等教育におけるカリキュラム例
兵庫教育大学附属小学校
2021年度より「未来を築く子どもー『かわる』を愉しむ」をテーマに、「人間として生き抜く力」を育むことを目的とした研究が行われています。その中で実施されているのが「附小STEAM」。デザイン思考を取り入れたカリキュラムで、異なる学年の子どもたちを縦割りに配置し、総合的な学びを目指します。社会的な課題をデザイン思考によって見出し、子どもたちの自由な発想から解決策を導いているそうです。
関西大学初等部
『ごんぎつね』をテーマとした「STEAM化ごんぎつね」を実施しました。国語の教材として使われる同作品を理科や社会化の観点からも読み進め、課題を発見する試みです。物語の時代背景や、キツネの生態、火縄銃の特徴などを調査。さらには作者のほかの著作についてなど作品の枠内を飛び越えて調べられ、最終的にまとめられた疑問点が発表されました。調査過程では専門家へのオンライン取材も行われており、子どもの主体性と協調性の獲得や、興味範囲の拡大などが期待されます。
戸田東小学校・中学校(埼玉県戸田市)
複数の企業と連携して「STEAM Lab」と呼ばれる教室を作りました。ここでは最新のパソコンやモニター、3Dプリンターなどのほか、それらを使う環境も整備されており、さまざまなテクノロジーに触れて学ぶことが可能です。同学校は小中9年間の一貫教育を特徴としたカリキュラムを作成し、子どもたちの生き抜く力の教育が期待されます。
中等教育におけるカリキュラム例
芝浦工業大学附属中学校(東京都)
芝浦工業大学の協力のもとに、学年ごとに異なる観点からSTEAM教育が行われています。中学一年生では「工学わくわく講座」として、スパゲッティを使って橋を作成し、強度を強くするための構造について大学生や大学院生のサポートを受けながら考えます。中学二年生では「ロボット講座」が行われ、リモコン操作ロボットを製作し、トーナメント形式の障害物競走で優勝を目指します。中学三年生の「ものづくり体験講座」では、「段ボール飛行機」や「金属フィギュアの製作」などデザイン工学の楽しさを実践的に学ぶカリキュラムが敷かれています。高校にもものづくり特別講座「Arts and Tech」があり、デザイン工学部やシステム理工学部の教授陣から指導を受けながら、エンジン、ロボット、生命工学、ユニバーサルデザインなどについて学びを深める機会が設けられています。
東京都豊島岡女子学園
「モノづくりプロジェクトJr.」として、「厚紙一枚で丈夫な橋を作る」ことにチャレンジしました。評価の際には、橋の強度だけではなくその芸術性も重視されており、STEM教育に芸術・リベラルアーツの面が付加されたSTEAM教育らしい評価基準であったといえるでしょう。
玉川学園
スーパーサイエンスハイスクールに指定されている総合学園で、これは文部科学省が認定する理数教育を重点的に実施する高校のことを指します。同校は高等部だけではなく中学部も認定を受けています。STEAM教育にも力を入れており、最先端技術を駆使しながら想像力豊かな科学技術人材の育成に取り組んでいるそうです。授業内で行われた事例としては「身に着けられるアートを3Dソフトで製作し、3Dプリンターで実際にプリントアウトしてみる」といったものがあげられます。
高等教育におけるカリキュラム例
鹿本高等学校(熊本県)
1年生でSTEAM教育が展開されます。自然科学の分野として体育・情報・数学・物理を教科横断的に学ぶために「体力テストの結果向上」を目標に設定。体力テストのデータを分析し、健康の保持増進、体力向上に向けた課題とその解決方法を考えました。また、建築科学の分野では、美術・地歴・情報・地学の教科を横断して、「観光を目的にした展望台のデザインコンペへの出品」を目的に学びを深めました。生徒たちは美しくて耐震性が高い展望台模型をグループで作成しました。
聖徳学園高等学校(東京都)
様々なSTEAM教育への取り組みを行っていますが、その中の一つが「授業の解説動画を作る授業」。中間考査までの試験範囲の中で、自分で説明できるテーマを選び、KeynoteとiMovieを組み合わせて30秒の動画を作ります。また「模擬定期考査問題を作る授業」を行ったり、「外国語レッスン動画を作る授業」を行ったりと、生徒自身が旗振り役となって何かを作り出す体験を大事にしています。
オンラインで学べるSTEAMカリキュラム例
通信制高校として有名なN中等部・N高等部では、国語、英語、数学などの基礎科目に加えて、プログラミング学習やPBL(Project Based Learning)を取り入れています。STEAM教育と銘打っているわけではありませんが、最新テクノロジーを駆使しながら生徒自身で答えのない課題に向かいあい、課題発見・課題解決を試みる教育内容は、まさにSTEAM教育そのものです。
STEAMライブラリーは経済産業省が公開している無料のデジタルコンテンツライブラリーです。さまざまな社会的・学問的なテーマを扱った動画や資料が公開されており、探求学習で自由に活用可能。学びのSTEAM化を行うために大学や研究機関、民間企業らと提携したコンテンツを製作、展開しています。
「科学の甲子園」は「広げよう科学の輪 活かそう科学の英知」をスローガンとして高等学校などの生徒がチームとなり理科・数学・情報における複数分野の競技を行います。全国大会では6人1チームとなって取り組む筆記競技と、3~4人で1チームとなり取り組む実技競技が行われ、合計点によって優勝チームが決まります。科学好きの裾野を広げつつ、全国各地のライバルの存在を意識させることで切磋琢磨させる取り組みです。
STEAM教育の課題点
教員の不足
STEAM教育には決まった形やカリキュラムがないため、各教員の練度や能力に大きく依存する部分があります。特に専門知識を持っているか否か、適切に教える能力があるか否かなど、個々人のスキルによって生徒の学びが大きく変動してしまう。一方で、教員自体が不足している現実もあり、一人当たりの業務量が増加する中で、新たに専門知識や技能を身に着けてもらうことは事実上不可能でしょう。教員のスキルアップや専門知識獲得が必須でありながら、そのためのリソースをどこで確保するかが問題となっています。
新しい教材・技術の導入が難しい
STEAM教育の特性上、テクノロジーと一体になって学びを深めることが多いのですが、そのための設備導入に多額の費用が掛かります。GIGAスクール構想により1人1台端末とネットワーク環境が整備されましたが、端末の故障が頻発したり、複数人で同時にネットに接続すると回線に負荷がかかったりと、安定してICTを利用できる環境にあるとはいいがたいのが現状です。
理数科目への苦手意識
学びを深める張本人である児童生徒が理数科目の勉強を「楽しい」と考えなければ、STEAM教育に対する自主性も薄れてしまい、学びの効果も半減するでしょう。一方で、理数科目に対する苦手意識を持つ子どもたちが多いことも事実。これらの苦手意識の払しょくも課題となってきます。
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