発展途上国の問題としてよく話題になる「貧困問題」。実は、日本でも起きていることを知っていますか?
今回は表面化しづらいと言われている「相対的貧困」について、その定義や影響、解決策を現役東大生ライター碓氷明日香が解説します!
相対的貧困とは?
「相対的貧困」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。ざっくりと説明すると、「その国の生活水準や経済環境と比べて困窮した状態にあること」です。日本のような先進国でも、困窮している家庭はあります。そういった人々を指した言葉なのです。では、もっと詳しく見ていきましょう。
相対的貧困の定義
まず、厚生労働省は相対的貧困率を「所得が貧困線に満たない世帯員の割合」と定義しています。貧困線は、国民の所得を基準に計算され、可処分所得(手取り収入を世帯人数に応じて調整した所得)の中央値の半額のことです。
2021年の日本の貧困線は127万円、相対的貧困率は15.4%となっています(厚生労働省)。6~7人に1人は相対的に見て困窮している、ということです。
具体的には、冷蔵庫や暖房器具を買うことが難しかったり、学校の制服代や給食費が払えなかったりと、日常において必要なところに使うお金がないような世帯のことを指します。国全体が貧しい途上国よりも、日本のような先進国において見られるものです。
絶対的貧困との違い
「相対的貧困」とは異なり、「絶対的貧困」という言葉も存在します。絶対的貧困は水や食糧、衣服などの生きる上で最低限必要なものを揃えることができないくらい困窮していることを指します。こちらは一般的な貧困のイメージに近いのではないでしょうか。
世界銀行は、1人1日2.15ドル未満で生活している人を「極度の貧困」、すなわち「絶対的貧困」と定義しているようです。
つまり、相対的貧困は絶対的貧困とまでは言わないが、生きていく上で最低限必要なものを揃えるのに精一杯で、その他必要になってくる様々なものにまでお金をかけていられないような貧困を指している、というわけですね。
日本と世界の比較
さて、先ほど相対的貧困は日本のような先進国で見られると述べましたが、中でも日本における相対的貧困は深刻です。
OECDが発表している、世界の貧困率ランキングによると、2021年、日本は世界5位となっており、これはG7(主要7カ国)の中で最悪の数字です。先進国の中でも特に日本では、多くの世帯が相対的貧困に陥っているのです。
相対的貧困の問題点
では、相対的貧困に陥るとどのような問題があるのでしょうか。ここでは国全体への影響というよりも、世帯に及ぶ影響に焦点を当てて見ていきましょう。
教育格差
相対的貧困の家庭に生まれた子は、生活における制約がどうしても大きくなってしまいます。金銭的に余裕がなければ、生活費の足しにするために子どももアルバイトをしなければならなかったり、塾に行くお金や教材を買うお金、私立の学校に通うお金がなく、希望や学力があっても進学を諦めざるを得なかったりするからです。
奨学金等の措置もあることにはありますが、その返済のために貧困のスパイラルから抜け出せず、またその人の子どもが相対的貧困に陥る、というケースも多いです。
教育には様々な場面でお金がかかります。収入の格差によって、質の高い教育が受けられる子どもと受けられない子ども、夢に向かってつき進める子どもと諦めざるを得ない子どもが出てきてしまうのです。このようにして、相対的貧困は教育格差につながります。
健康被害
相対的貧困は健康被害も引き起こします。まず、十分な食事を摂ることができず、栄養失調になってしまうことは想像に難くないでしょう。また、栄養バランスの取れた食事を摂っていないと、免疫が落ちて別の病気にもかかりやすくなってしまいます。
原因はそれだけではありません。少しでも多くのお金を稼ごうと睡眠時間を削って働く人も出てきてしまい、結果的に体を壊してしまう、というケースもあるのです。
そして、お金がなければ、なんらかの健康被害が起こった時に、適切な治療を受けられません。そのため、通院していたら防ぐことができていた病気や怪我が悪化してしまう、ということもあります。このように、相対的貧困は健康被害のきっかけになり、さらに悪化の原因にもなるのです。
精神的余裕の欠如(家庭不和)
また、相対的貧困による心理的な健康被害もあるようです。低所得の家の親ほど抑うつ傾向が高いという研究結果も出ています(参考:東京都子どもの生活実態調査報告書)。
つまり、金銭的な余裕のなさが、精神的な余裕のなさにつながるのです。その結果、家庭内の環境が悪化し、子どもの精神状態にも影響が出てしまいます。
子どもの時に正常な発達ができなければ、大人になってからも精神的に不安定なまま生活することになります。結果として、お金を稼ぐことが難しく、貧困のスパイラルから抜け出せない、というケースも多いようです。
解決策
労働者だけでなく、その子どもにまで大きな影響を及ぼす相対的貧困。どうすれば解決できるのでしょうか。まずは社会全体として取り組むべき解決策について見ていきます。
社会保障制度の強化
最も直接的な解決策として、「社会保障制度の強化」が挙げられます。具体的には、所得の低い世帯に対して最低限の生活を保証する、生活保護やベーシックインカムといった制度の見直しが必要でしょう。
「現行の生活保護制度の条件には当てはまらないけれど、お金が足りず困っている」という人は意外とたくさんいます。そういった人々に対しても、国が手を差し伸べられるように、制度を改革していくことが、相対的貧困の解消につながるはずです。
また、ベーシックインカムとは、年齢や性別、所得水準などの条件を問わず、国民に一定の金額を支給する制度ですが、たとえ少額であろうと、貧困層にとっては大切なお金です。ベーシックインカムの導入も相対的貧困の直接的な解決策となるでしょう。しかし、この制度の導入には多額の財源が必要になるため、現時点では課題も多そうです。
教育格差の縮小や教育の質の向上
貧困家庭で育つ子どもが貧困のスパイラルを抜け出すことができるように、教育の質を高めることも大切です。
早期教育の普及、自治体が運営する無償もしくは低価格の教室の普及などで教育格差を縮小すること。教育者の養成、学習環境の改善、カリキュラムの見直しなどで教育の質を高めること。これらを行うことで、貧困家庭の子どもにも将来の選択肢を増やすことが可能です。
さらには、授業料免除、奨学金制度の拡充など、金銭的な支援を行うことで、経済的な理由で教育が受けられなくならないようにすることもできます。
賃金格差の是正
相対的貧困に陥っている家庭の多くは、1人親世帯です。中でも母子家庭が多くを占めています。これは、男女の賃金格差、労働の機会の差が原因であると考えられます。
未だ社会に巣食っている「女性は家事をやるべき、仕事をするべきではない」という時代錯誤な考え方を改め、賃金格差を是正することで、シングルマザーもその子どもたちも安定した生活を送ることができるはずです。
わたしたちにできること
上述した社会全体で取り組むべき解決策の他に、わたしたち一人一人ができることはないでしょうか。
相対的貧困について知ること
まず、一番大事なのは相対的貧困について理解し、多くの人に知ってもらうことです。そもそも相対的貧困というワードを知らない人が多くいるので、その人たちに日本の現状を知ってもらう。現状を変えるためには、少しでも多くの人の声が必要なのです。
寄付
寄付も手っ取り早い支援方法です。実際に貧困家庭のために何か手伝うには時間が足りないが、金銭的には余裕がある、という方に適しています。
子どもたちや貧困層を支援している団体はたくさんあります。その団体の理念などを調べ、共感できると感じたところに寄付をしてみるといいかもしれません。
ボランティア
実際にボランティアに参加するという手もあります。比較的有名なのは、子ども食堂のボランティアでしょうか。他にも子どもたちの学習支援や体験活動支援など、貧困家庭に生まれた子どもたちのための支援はたくさん存在します。それに参加してみて、自分のスキルを活かしてみるのも良いでしょう。
まとめ
いかがでしたでしょうか。あまり知られていない「相対的貧困」について、定義や問題点、そして解決策について解説しました。貧困など身近な話ではないと遠ざけていた人も、日本が意外と深刻な状態にあることがわかったと思います。
わたしたち一人一人が問題を正しく認識し、できることを積み上げていくことで、貧困率を下げていく必要があるのです。
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