GIGAスクール構想によって、児童に1人1台タブレットが配布され、教育現場にはICTが導入されています。今回紹介するのは「学校DX」という言葉です。DXとは、デジタル技術で生活をより良いものへと変革すること。ICT教育との違いや、学校への導入方法などを、教育に関わる方向けに解説します。
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学校のDX
DXとは
DXは、デジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation)の略で、直訳すると「デジタル変革」という意味になります。
本来の意味は、デジタル技術を社会に浸透させて人々の生活をより良いものへと変革することを指します。単なるデジタル機器の活用のみならず、価値観の変容までもたらすのがDXです。
学校DXとは
学校DXとは、教育DXとも言われます。教育現場でデジタル技術を活用し、児童や生徒の教育をさらに充実させる取り組みを指します。
ICT教育との違いは?
学校DXと似た言葉である「ICT教育」もよく聞きます。ICT教育とは、情報通信技術(Information and Communication Technology)を活用した教育のこと。一方学校DXは、デジタル技術やツールを導入するだけではなく、教育現場の変革にまで取り組む点が大きな違いです。教育モデルや学校経営などを見直し、再構築するまでが学校DXということです。
学校DXのゴール
なぜ、学校DXが推奨されているのでしょうか。文部科学省がデータ利活用の目的として述べた文章、つまり「学校DXでこれを実現したい!」という内容を、児童生徒、教職員、教育委員会の3つの視点から解説します。
児童生徒の視点
自分の学びを振り返りながら、自らの興味関心や学習状況、特性などを把握して、次の学びにつなげられるようになることを目指すとされています。また、自分の学習の足どりを見える化することで、モチベーションを維持することや、学習過程で他の児童生徒と関わり、自身の学びを深めるといった「他者との協働」も目的とされます。
先生の視点
児童生徒の学習状況、心の健康観察を含めた生活データ、端末の利用状況などのデータを活用して、学級経営や個別指導・支援につなげることを目指します。その際、例えばデータが一定の数値を超えた場合にアラートを表示させるなど、教職員が児童生徒の変化に気づきやすい仕組みにすることが重要とされます。
教育委員会の視点
適切に学校の状況を把握し、学校に指導・助言をしたり、学校訪問の際に、教育委員会と学校とでデータを共有して課題について検討したり、施策の改善につなげたりすることを目指します。また、他機関とも連携しながら、例えば、家庭の経済状況や健診履歴、それに対するこれまでの支援の状況など、学校への情報提供を行います。
学校DXの事例3選
AIで高速自己添削
ある高校では、英語学習に対話型AI「ChatGPT」が活用されています。生徒たちは、英作文の添削や長文読解のサポートとしてAIを活用し、自分の弱点を把握し、学力向上に役立てています。生徒たちは文法や表現方法など、自分では気づけなかった点を瞬時にAIに指摘され、学習効率の向上につながっています。
従来であれば、生徒のアウトプットを添削して改善するのは先生が一般的でしょう。AIという、個別最適な助言をしてくれる第三者によって、学習モデルが一新した例だといえます。
ただし、AIの情報は必ずしも正しいとは限りません。生徒たちは、AIとの付き合い方を考え、問題解決能力を養う機会にもなるでしょう。
AIで先生の作業を効率的に
ある中学校では、授業の振り返りに、ChatGPTを試験的に導入しています。生徒たちはタブレット端末を使用して、授業で学んだ内容や疑問点を入力し、AIが即座にフィードバックを提供します。従来は先生が1人1人にコメントしていたため、時間がかかりましたが、作業が効率化され、先生の負担が軽減されています。
この事例では、先生がChatGPTのコメントをダブルチェックし、学習内容や生徒の理解度に応じた適切なフィードバックを提供することで、教育の質と業務効率性の両立が実現されています。
LMSの導入
またある中学校では、LMS(ラーニングマネジメントシステム)を導入しています。「学習管理システム」とも言われます。インターネットやパソコンで学習を実施する際のベースとなるホームページのようなシステムで、多くのLMSでは生徒がログインして学習する受講機能、先生が受講履歴や成績管理を行う管理機能からなります。このシステムの中で、生徒はリンクをたどりながら自分で勉強を進めることができ、先生はそれを管理できます。LMSを導入する前のある先生の授業では、生徒が「どのツールで何をすれば良いかわからない」と混乱してしまう課題がありました。しかし、このプラットフォームを先生自身が作成したことで、生徒側が疑問を自己解決できるようになり、先生側も管理がしやすくなったとのことです。なお東京大学でもこのLMSが導入されています。
学校DX実現のための課題
学校DXを実現するために、課題となるのはどのようなことでしょうか。注意すべき点も合わせて解説します。
先生の重要性
学校DXを実現するためには、大前提として、学校全体の先生にITリテラシーが身についていなければいけません。ICT教育に率先して取り組んでいる先生方によると、自分のクラスだけではなく、学年や学校全体でDXを推進できるように、先生向けの校内研修をしているそうです。
またICTツールを使った教育は、どの先生でも同じ効果が出るわけではなく、ファシリテーションが非常に重要だそうです。ICTツールによって、児童生徒がそれぞれのペース学習を進められるようになったからこそ、声をかけるタイミングや、コミュニケーションの取り方が大きな鍵を握ります。弊社が取材した先生方は、
・プリントの自由記述欄で生徒の状況を把握する
・つまずいている子には、答えではなくヒントを教える
・先生2人体制で1クラスを担当し、1人は全体を、1人はつまずいている子に声をかける
などの工夫で、生徒とコミュニケーションを取っていました。
児童生徒のITリテラシー向上
ITリテラシーが必要なのは、先生だけではありません。端末の操作方法やツールの使い方が分からなくて授業に置いていかれる子どもが現れるのは、もったいないことです。もちろん導入時に先生からクラス全体に、分かりやすく説明する必要があります。それだけでなく、子ども同士でも、使い方が分からなくて困っている子に進んで教える様子が見られるそうです。子ども同士で助け合えるように声をかけるのも効果的です。
プライバシーとセキュリティ
学校の機密情報や個人情報の取り扱いルールが浸透していなかった場合、教員が情報を不正利用したり、適切な取り扱いを怠ったりすることによる情報漏えいが生じる可能性があります。重要な情報の取り扱いに関するルールを定めたうえで、教員への周知やルールの遵守を徹底することが大切です。
また、端末のセキュリティ対策を徹底することも大切です。ウイルス感染や端末の紛失、私的利用などによる情報漏えいなどの被害に遭うリスクを防ぐために、教員のセキュリティ意識を高めることに加えて、児童や生徒の端末への対策や指導も徹底しましょう。
ルールの明確化
子どもに1人1台の端末を持たせ、インターネットに触れる機会が増えることで、授業に関係のないことをしたり、端末上でのいじめなどが発生する恐れがあります。端末の利用ルールを明確化し、子どもや親が共通認識していることはもちろん重要です。
ICTツールを導入している先生方に「パソコンやタブレットで遊んでしまう子はいないのですか?」と聞くと、「もちろんいます」という答えが返ってきます。学習の一部を子どもに任せると、その事態が起こってしまうのを前提とした上で、導入しているようです。ある先生は、「どういう時に集中力が切れて遊んでしまうのか、自分と向き合うきっかけになる」と捉えています。ICT教育だから遊んでしまうのではなく、一斉授業型の時も集中できていなかった子どもが、より見えやすい形で顕在化しただけだという意見もあります。授業の最後に答えを言わないことで、子どもたちが自ら答えにたどりつくための過程をたどるよう誘導している先生もいます。ICTツールを否定するのではなく、どのように利用するか工夫できると良いですね。
終わりに
学校DXとは、ICT教育の先にあるもの。従来の「当たり前」に、学校DXによって変革が起こるのは、先生側にも児童生徒側にも有益なものです。課題もたくさんあり、とても難しいことですが、周りの人たちと助け合いながら、学校DXを進めていきましょう。