「100回に1回当たる」に隠された罠〜「ガチャ」に沼る人が見落としている数学的思考

皆さんは、スマホゲームに課金をしたことはありますか?おそらく、多くの人が何かしらのアプリに一度はお金を落とした経験があるでしょう。それもそのはず、アメリカのアプリ調査会社・SensorTowerによると、日本は2020年、2021年と2年連続でスマホアプリ課金額の平均が世界一位になっているのです。2021年の調査では、1月から9月の間で平均して149ドル(現在のレートで約23000円)、つまり一カ月で平均2500円ほどアプリ・ゲームに課金していることが明らかになっています。日本は、世界と比べてもスマホアプリに熱中する人の割合が大きいのです。

その「課金」の大部分を占めるのが、ソーシャルゲームにおける「ガチャ」というシステムです。ガチャとは、一定の確率で当たりが出る仕組みのことです。もちろんソーシャルゲームでのガチャだけでなく、スーパーでのくじ引きや、お祭りの出店などでも用いられます。規模の大きなものとしては、1等を引くと何億円もの賞金が手に入る「宝くじ」もガチャの一種と言えるでしょう。この「ガチャ」にはそれぞれ異なる当たりの「確率」が設定されています。ここで、その「確率」について簡単に定義を確認してみましょう

目次

確率の分析

確率とは、ある事象が起こる可能性の度合いを示すもので、通常は0から1までの数値で表されます。例えば、8枚のくじがあり、その全てが「当たり」である場合、「当たり」が出る確率は「1」です。一方、8枚全てが「ハズレ」のくじの場合、「当たり」が出る確率は「0」です。サイコロを例にとれば、1から6までのどれでも良いどれかの目が出る確率は「1」、5の目が出る確率は「⅙」、8の目が出る確率は、その8の目が存在しないため「0」です。

さて、確率の定義についておさらいしたところで、今回は本題である

「100回に1回当たるガチャ」

について考えてみましょう。もちろんこの言葉にうそはないため、このガチャを1回引いて当たる確率は「1/100」です。

ちなみにこれは余談ですが、今回の「1/100」のように、0から1までの数値では確率のイメージが付きにくいとき、代わりに「パーセンテージ」という表記法を使うことがあります。パーセンテージとは、「0」は0%、「1」を100%として百分率で表す方法です。例を挙げれば、1/2はこれを用いると、当たる確率は50%です。

ここまでの説明を受ければ、100回引いたら当たる確率は100%になると思えますよね。しかし実は、多くのソーシャルゲームのガチャではその通りにはいかないのです

例えば商店街の福引のような、箱の中に何枚かのくじが入っていて、それを1枚ずつ引いていくというシステムであれば、箱の中のくじを全て引き切ることができれば必ずどこかのタイミングで当たりを引くことができます。つまり、「100枚の中に1枚当たりがある福引」であれば確実に100回で当たりを引くことができるのです。

しかし、「確率機」は1回ごとにその確率がリセットされます。つまり、1回目も2回目も、何回目も同様に当たる確率は「1%」となるのです。

では、100回引いたときの当たる確率はどうなるのか。この記事を読んでいる方も、ぜひ予想してみてください。

この問題を考えるために、まずは2回引いて当たる確率を考えてみましょう。ここで重要になるのは、「2回とも当たる」という場合と、「2回中1回当たる」という場合の2種類があることです。

それぞれ計算してみると、

2回当たる確率:0.01×0.01=0.0001
1回当たって1回外れる確率:0.01×0.99×2=0.0198

×2は、「1回目に当たる」事象と「2回目に当たる」事象の合計を示しています

より、合わせて0.0199、つまり1.99%です。同様に考えれば、10回引いて当たる確率も、100回引いて当たる確率も求めることができます。

しかし、この考え方では非常に煩雑な計算が必要になります。なぜなら、「100回引いて当たる確率」の中には、「100回当たる」「99回当たる」「98回当たる」…「1回当たる」というように100種類の当たり方があるからです。

ではどうすれば良いのか。ここで登場するのが、前回の記事でも扱った「余事象」です。

余事象とは、ある事象が起こらない場合の事象のことを指します。例えば、サイコロの目が1から6まで出る場合、事象Aを「3の目が出る」とすると、事象Aのその余事象は「3以外の目(1, 2, 4, 5, 6)が出る」です。余事象は、もともとの事象以外の全ての事象を含んでいるため、元々の事象とその余事象の確率を合わせると「1」です。

そのため、例えば「2回ガチャを引いて当たりが出る確率」であれば、その余事象である「2回連続でハズレが出る確率」を用いて

「2回ガチャを引いて当たりが出る確率」=1-「2回連続でハズレが出る確率」

と表すことができるのです。

ちなみに、この計算結果は

2回外れる確率:0.99×0.99=0.9801 より、

1-0.9801=0.0199

です。ここまでの2つの計算式から、そのまま計算しても余事象を用いて計算しても同じ答えになることが確かめられましたね。では、この考え方を応用して、本題である100回引いた場合を考えてみましょう。

「100回ガチャを引いて当たりが出る確率」は、その余事象である「100回連続でハズレが出る確率」を用いて

「100回ガチャを引いて当たりが出る確率」=1-「100回連続でハズレが出る確率」

と表すことができるのです。

そして、この計算結果は

100回連続で外れる確率:0.99^100=0.3660… となるため、
求める確率は
1-0.3660=0.6340

より、約63%、という計算です。つまり、100回ガチャを引いても3人に1人は全て外れてしまうのです。

沼るとは

近年、インターネットやSNSアプリで、スマホゲームの有料ガチャに関して「沼る」という表現が頻繁に使われています。スマホゲームの多くは際限なく課金できる設定になっており、限定イベントやキャンペーンなどで定期的に新しいキャラクターが登場します。そのキャラをゲットするために多額の課金をしても、なかなか当たりが出ない状態を「沼る」と表しているのです。

ガチャに「沼る」と、多くの人が「こんなに引いても当たらないのはおかしい」と思うのでしょう。しかし、実際に確率を計算してみると、その現象は紛れもない事実として存在するのです。

数学は、真実を表します。あやふやな情報や明確化されていない確率に惑わされないためにも、数学、計算の能力は必要不可欠です

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この記事を書いた人

理系で東京大学に入学したが、教育をより深く学びたいと思い現在は教育学部に所属。高校まではずっと野球部に所属し、大学でも野球を続けている。趣味はピアノと旅行で、旅先のストリートピアノで流行の曲を弾くことが一番の楽しみ。

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